田舎で最後の夏を過ごす少年少女達の青春物語。
〇適当に雑談みたいな感じでだらだらと...
早狩武志さんの作品はこちらでコンプとなったが改めて素晴らしいライターさんだなっと再認識することができた。
人間味に溢れた登場人物達が上手くに表現されていたなっと思う。
すれ違い、悩み、後悔などを抱えてまだ大人になりきれない少年少女たちの青臭い姿を十分に見させてくれる良い作品だった。
恋愛がメインなのだろうが、過去を懐かしむ描写が多いのもポイントだろうか。思い出に耽るときの切なさが自然と伝わってくるっていうのか、ユーザーなのにも関わらずしっかりとイメージできてしまう感じで好きだった。
悲しいことだが時間は流れるものであって、変わらないと思えるものでさ変化してしまうっということを痛感させらた。
「あの頃は~だったのに」って誰もが一度は考えたことがあると思うし、共感できる部分もあったため本編以外のことでも色々と考えさせられた。
こういう部分もしっかりと表現されていたのに恋愛要素を上手く絡ませてくるので流石としか言えないですね...。
派手さはなく狭い舞台で繰り広げられる青春恋愛物語として非常に完成度が高かったと思う。
さて、注目点はやはり“複数視点”というものだろうか。
恋愛に対して向き合う登場人物達の心理描写がとても分かりやすくて好印象だった。
人間の表面だけではなく裏面もしっかりと見せてくれる物語なのでね、あらゆる行動に説得力が出ていたと思う。
基本的には「恭生と貴理の恋愛」を複数視点で見ていく流れなので同じようなシーンを何回も見ることになる。
この部分は物語に厚みが出るというメリットがあるが、捉え方によっては飽きがくる可能性もあるだろう。
まあ~ここら辺は完全に好みの問題だが、今作でこのライターさんの作品が自分には合っているんだなっと強く意識するようになった。
なので、私自身はとても楽しめた。良かった。嬉しい。
心理描写が全体的にとても丁寧なのだが、有夏と冬子が主人公に惚れたっという描写は少し薄いなっと感じてしまった。
また、幼い頃からずっと主人公に惚れいた貴理が有夏を選ぶっという√がある。
こちらでは二人で話すシーンでちゃんと説明はされていたとは思うのだが...ちょっと違和感があるようにも感じた。
有夏を選ぶ選択自体は良いんだけど、主人公と比べたときに何故か納得できなかった。
うーん、もしかしたら年相応の流されやすさを表現するためにわざと描写を少なくしたのかもしれませんね...。
まあよく分からんですが、これが狙ってしている事だったら凄いなっと思いました。
〇登場人物についてだらだらと...
・市村 貴理
一人の人間として喜び、悩み、恨み、怒り、後悔したりと様々な姿を見せてくれた彼女はとても魅力的に見えた。
明るい部分の裏側もしっかりと見せてくれることにより彼女の本質を知ることができ、それも含めた上でも素敵だなっと感じることのできる女の子だったと思う。
彼女の個別√ではBADENDにレイプ紛いなこともあってびっくりしたが...まあ、いいんじゃないでしょかね。
さて、すれ違いばかりが続き自分の気持ちを上手く表現できない彼女は抱えきれなくなって冬子さんを頼ります。
一人ではどうすることもできずに他人を頼ることって簡単なのようで難しいことなんじゃないかと私は思っている。
ここで「相談する」っという行動に出たことは最初の頃よりも“成長”していた証なんじゃないかなっと感じた。
冬子さんと一緒にバーに飲みに行くんだが、あそこであった「心の中身を全部ぶちまけるシーン」は非常に良かった。
お酒の力を借りたと言ってしまえば簡単だが、あのようなシーンは大好きすぎる。
また、有夏√では思いを伝えられないままに主人公を取られてしまって後悔する彼女の姿が見れるが、あれには胸が締め付けられた。
心の中で自分を責めながらも他人に責任を擦り付けたりするなどと、内面に隠れて見えないような“一見些細なことに思えて普通はスルーしてしまうような描写”でさえもが、少しだけだとしても描かれていたのでやべぇ~って思った。
視点変更により彼女の気持ちがダイレクトに伝わってきてとても切なくなって震えてしまいましたね...。
あと、個人的に面白いと思ったのが「有夏と主人公が恋人になるEND」なのにもかかわらず、最後のシーンで「貴理が笑顔で涙を流している」っという一枚絵を使っていたこと。
恋人になった二人ではなく、ここでの“敗北者”である貴理の一枚絵で締め括られる...こういうのはあまり見ないしセンスの塊だと思った。
「この物語を誰の視点で終らせるのか、誰の物語だったのか」っというのが上手く表現されていたんじゃないかなと思う。
主人公と夜通し語り合い、自分の気持ちを伝えて未来へと進んで行く姿を見せてくれた彼女には拍手を送りたい。
幸せになってほしいと願っています。
失礼な話になるが彼女はHAPPYENDよりも、こういった切なさの残るENDの方が輝いているなって思ってしまった。
そういう切なさの中にも確かな清々しさを感じることができたのでね、大好きでした。
・倉林 有夏
貴理のことが大好きな彼女も人間らしさが全開だった。
貴理と主人公のことを良く思うことができずに悩んだりする姿が輝いていたかと。
ただ悩んでいるだけではなく人間の汚い部分もしっかり表現されていたのはお見事。
貴理に“冬子と主人公がキスしてた”なんて普通は言わないと思うんですがねぇ......まあ、それを平気で言っちゃうのが彼女なんですよね。
しかも、それ自体が嘘っていうのがクソすぎてびっくり。
その前にあるシーンでは冬子さんと主人公が一緒にいるところを見たなどという嘘もついていたし...。
いやぁ~汚いですね!素晴らしい!
嘘に嘘を重ねて自棄になっていることに彼女自身も驚いていて、バレるのを覚悟して暴走している姿が本当に面白かったです。
ただ、この嘘っというのは展開によっては弟から聞いたことを言ってしまっただけっということになっていたりもするのでね、判断は難しいとも思ってしまった。
まあ、どちらにしてもズルいのは事実なんで大好きでした。
これら全てが貴理視点では分からなかったことだが、有夏視点になって真実に気づくことができる...こういう視点変更の使い方は本当に上手いと思う。
あと、主人公に好意を抱くようになった彼女が貴理の気持ちを知りながらも「主人公と自分は付き合っている」と言うところなんて生々しくて良かったかと。
貴理が“その嘘”に気付いたときなんかはたまらなかったですね...素晴らしい。
さて、ここでお気に入りだったのが「主人公と有夏が別れる」というEND。
主人公は最初に有夏を選んだのにもかかわらず貴理への本当の気持ちを知ってしまい有夏と喧嘩して...最後にお互いの気持ちをしっかりと吐き出して終わるっていうのは切なくも気分が良かった。
「...あたしも、恭生さんが初めての恋人」
「...それが、恭生さんでよかった」
「あたし、恭生さんも...先輩も、本当に好きでした」
本気で好きになった人と別れる、それでも恋をしたことは後悔していないと思った。
「これからは先輩を、よろしくお願いします」
たくさん悩み続けて、たくさんの人に迷惑をかけた彼女だが、短くも濃い夏を終えて前を向く姿勢が見れたので良かった。
有夏視点があることによって切なさ以上に晴れやかな気持ちになれたのが嬉しい。
ラストシーンがとても好きでした。
・小川 冬子
彼女は少し大人で主人公を挑発的したり貴理を励ましたりと好印象なところが多かった。
彼女視点の裏√では大人な姿で助言をしていた彼女の裏側が見れる。
恋をすること、故郷への気持ちは人間臭くいい感じに捻くれていたと思う。
懐疑心や嫉妬心、劣等感が渦巻いており斜に構えた考え方はなかなか見所があって一言で言うと、最高だった。
他の登場人物と同じような目線で物事を見れない大人寄りの視点は面白く感じたしびっくりするくらい楽しませてもらった。
彼女の過去は想像よりも悲惨なものではあったが、それが今までの彼女を形作るものであったと考えたら納得できるような気がする。
「貴理をバーで慰めるシーン」では、表√では優しい大人の女性だなって思っていたが...裏√で彼女の内面を知ってしまい衝撃を受けた。
こういうのを見ると人間が怖くなってしまうが、そこからはしっかりとフォローもされていたし、後悔する姿なんかも見れるので本当に面白かった。
また、「有夏に体で迫れと邪な気持ちで助言をしたシーン」では、そこでのことが“有夏の成長へと繋がってしまった”という事実が...皮肉すぎて可哀相だった。
ただ、何をしても裏目に出てしまう彼女だからこそ、その後にある「宿のおばさんに話を聞いてもらうシーン」がより一層輝いていたと思う。
本当の優しさが溢れていて、このときに冬子さんが泣いてしまったときなんかは温かな気持ちに包まれた。
ビー玉を見つける√では素直な心を取り戻せたようなので心から良かったと思う。
さて、別の√では最後に恭生と冬子が「朝焼けをバックに会話をするシーン」というのがある。
恭生視点で見たときと違い冬子視点で見ると全く違う印象を受けた。
彼女の内面を見れるこにより表面で見たときと捉え方が大きく変わってしまいびっくりしてしまった。
恭生視点のときはあっさりと終わったなって印象だったが... 冬子視点の方は切なさでいっぱいになり震えてしまった。
告白をする前に「友達」っと言われてしまったときの心理描写はクルものがあったし、上手く噛み合えば両想いだったりと...裏の顔を見るまでは彼女が特別好きだったわけではなかったんだが一気に好きになってしまった。
そして、さすがに辛すぎた...。
体だけの関係だと思っていた元カレに対しても“恋だったのかもしれない“などと思えるようになった彼女は最初の頃よりも確実に考え方が変化し成長していたのにもかかわらず、その事に気付くのが遅かったという“どうすることもできない現実“には胸が締め付けられた。
この夏で失恋したことが恭生を大人にしたっという描写があったと思うが、“彼女自身”にも向けられたものだったのかもしれませんね...。
「わたしはその時、はじめて知った。」
「──何も言わないで、終わる。」
「...それがふさわしい恋も、本当にあるのだと。」
冬子さんが好きな人にとってはなかなかキツいお話だったと思います...
いやぁ~まさに悲恋でしたねw
う~ん、大好き!神!
・古積 恭生
この物語の主人公ですね。
はっきりと誰が主人公とは言えない作品ではあったが、やはりメインなのではないかと。
彼は優しく礼儀もある青年で、けっこうヘタレだった。
もちろん全てが悪いという意味ではなく、この作品で語られる“面倒臭い恋愛”を盛り上げるために必要な唯一無二の存在だったとは思っている。
貴理と冬子さんに対しての性的衝動にはちょっと唖然としたが、思春期で暴走したってことにしてここではスルー。
個人的には夏が終わりに近付いている辺りでのおじいちゃんとの会話が好きだった。
田舎に包まれるっていうのか...哀愁の中に温かさがありましたね。
また、誰とも付き合わないENDで恵ちゃんに絵を貰うシーンも良かった。
自分が経験した失恋の辛さを噛みしめ、「もし彼女に同じような事が起こったとしても幸せになってもらいたいと願うことができた事実」には彼の成長した姿が表れていたのではないのかなっと思う。
ちなみに、DC版では恵√がある。
この√は短いながらも幼い一人の少女との約束が果たされるという展開があってけっこう良かったかと。
成長した姿で待っていた恵ちゃんの「おかえりなさい」というセリフが好きでした。
全体で見ると接点は少なかった彼女も同じ夏を過ごした仲間だったんだなって気分が良くなったのでDC版の方もプレイしてみて良かった。
・原 英輝
ダムなんて関係なかった、昔と同じ頃のように普通に過ごしたいと思っている男友達。
彼の視点では「有夏が様子がおかしいと冬子さんに詰め寄るシーン」があるのだが、そこで自分の非を認め謝罪できるという描写があったりと全体的に印象は良かった。
今はまだ子供であってもしっかりと大人へと成長しているんだなって自然と思うことができた。
第三者の目線によるものなのか主人公よりも貴理の気持ちを分かっていてアドバイスするところがあったりと良い友人だったと思う。
まあ、彼のエゴかもしれないがそこが好きでしたね。
他にも冬子さんが穴掘りをしてるところを手伝い自分の分の弁当を嘘をついてもあげるという行動をしたりとなかなかのイケメンだったかと。
「有夏と恭生が付き合うEND」では最後に有夏にキスをしてもらうというシーンがあったが、切なさが溢れていてたまらなかった。
彼も自分の気持ちを全部吐き出して、最後の夏を気分よく終える事ができたのでしょうし安心しました。
まあ、別の流れでは将来的に冬子さんと結ばれそうなENDもありましたが...それはそれっと言うことでスルーします。
〇まとめ
登場人物それぞれの心理描写が丁寧なので気持ちを理解しやすく感情移入が自然とでき、切ないようなENDであったとしても清々しい気分にさせてくれた。
展開は大好きでだったしタイトルの意味もしっかり表現されていたのも好印象だった。
最後に開放される「when one was a boy」 というおまけ√ではダム完成後に再会した英輝と有夏が過去の清算をしてくれたのでスッキリできたし、恵と和典でラストを飾るのもオシャレで良かったかと。
「好き」っということに対して様々な捉え方ができるお話だったと思うし、ただの台詞からだけではなく思考や行動などからも感じ取れる“どのように好きなのか”っというのものをたくさん見れて満足できた。
最後の夏を泥臭くも精一杯駆け抜けた少年少女達には幸せになってもらいたいです。
過去、現在を糧に未来に向かって進む姿に勇気をもらうことのできる素晴らしい作品だったと思う。
複数視点で語られる構成により完成度は高く、
青臭さ全開で淡く切ない等身大の青春物語、
最高の夏を見せてくれた。ありがとう。