幽霊的モラトリアム
運命予報をおしらせします、紙の上の魔法使い、水葬銀貨のイストリアと3番の商業ゲームを出しているシナリオライターであるルクルの同人時代の作品。
私自身ルクルについては、鬱シナリオ・どんでん返し・伏線回収が上手いライターだなと思ってそこに期待してこの作品をプレイしました。
しかし、このクリアレインは想像していたのとは別の方向性のゲームでした。
クリアレインは優しさの物語でした。
上記に示したようなライターの特徴をしっかりと残したまま、メッセージ性と優しさに包まれた見事な物語となっていました。
全6章で織りなされる物語は、悲しみと苦しさに溢れているものの、それと同じかそれ以上に優しさにも満ちたものでした。
今現在、手に入れることが難しい(2017年現在、4万円で購入)この作品ですが、購入・プレイして良かったと心から思えた一作でした。
もしプレイできる状況にあったら、迷っている方がいれば手を出してみてもいいかもしれません。
以下ネタバレありの感想
幽霊的モラトリアムノベル、とパッケージに書いてあったまさにその通りな物語であったなー、と何よりも感じました。
1章では幽霊の女の子霞との出会い、そして人との関わりにおける比重の話。主人公にしか存在を認知してもらえない霞と、大切な友達の1人して扱う主人公との間のズレは仕方がないが故の痛みがありました。
2章では友達を作りたいという願いを持った少年と、友達ができないまま死んでしまった女の子と触れ合うことで主人公が自信に向き合い、自分の心の弱さを自覚し新たな友達を作りました。
3章では互いに言いたいことを言えなかったことで悲劇を迎えた兄妹の話に割り入ることで、言葉にし互いにぶつかり合うことの大切さを知りました。
4章では大好きな先輩が逃避してしまった過去に立ち向かう助けをすることで、人は支え合い過去に立ち向かう大切さを知り、そして先輩は失恋を味わいました。
5章では人に理想を押し付け大人になれない少女を助け、少女はひとつ大人になり相手を思う気持ちを知りました。
そして、6章では主人公が自身の過去、すなわち最愛の人との過去を思い出し、挫折するものの、最愛の人の幽霊と大切な友人達のおかげで失恋を乗り越えることになりました。
私がこの作品が見事だと思ったのは、全体を通して描かれるモラトリアムの描写でした。
上記したようにこの作品は各章ごとに人間関係の難しさが描かれています。人間関係の多面性、不安、近づかなければ見えてこないこと、支え合い、思いやり、別れなど、どれもモラトリアムという現代社会が生み出してきた猶予期間に経験し、手に入れたいもの達です。モラトリアムで手に入れられず大人になってから気づいた裏ヒロインである神作さんからモラトリアムの主人公へと伝えられた人間関係の大切さこそがこのゲームの本質であり、美しさであると思う。
全体を通して、どこまでも世界は厳しくて辛いものに見えるが、人間関係というものはこんなにも優しく美しいものだとモラトリアムで気付ければな、とモラトリアムを良い意味で捉えた美しい作品だったと思います。
神作さん、最強の裏ヒロインであり裏主人公でした!