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gyuunyu280さんのラムネの長文感想

ユーザー
gyuunyu280
ゲーム
ラムネ
ブランド
ねこねこソフト
得点
75
参照数
220

一言コメント

どこにでもある普通のビー玉。取れないからキレイだと思ったのか?取れないから欲しいと思ったのだろうか…

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

手を伸ばせば届く距離にあるのに、触れてしまえば関係性が壊れてしまいそうで
近づくことが出来ないもどかしさを本編全編にわたって随所にメッセージとして
含んできてて、その心の距離が縮まるまでの過程も丁寧に描かれていたので
落ち着いて読むことが出来ました。
物語の核となるテーマ性がある作品なので、
キャラゲーが苦手な僕でも気にせず楽しむことが出来ました。

以下、各ヒロイン評
【七海】
長年の腐れ縁ゆえに言葉にしなくても、態度に出さなくても
お互い通じ合うからという理由で、今まで敬遠してきたお互いの想いが、
佐倉さんの引っ越しをきっかけにして
「いつまでも”今の関係”が続くかなんて分からない」という
考え方へと変わっていき、主人公と七海がお互いの気持ちを
伝え合うように変わっていったのが良かった。
お互い触れ合わずともすべて分かってるはず、
だからこそ触れ合って答え合わせをするのが怖い。

何気ない会話の中でも
「これからもずっと一緒だよ」ということが確信めいていて、
来年のことを当たり前のように話し合ったりする仲なのがいい。

主人公が事故に遭って、それにより七海が
「かけがえのない日常」は同時に脆く崩れやすいことにも
気付かされる展開はベタではあるが、好みなので特に気にせず読めました。


【多恵】
「お姉ちゃん」「自治会長」「友坂くんの彼氏」という肩書を自分に設け、
他者のために自分の身を犠牲にしてでもおせっかいに走っていた多恵が、
最後の最後に自分の本当の思いに気づき、
自分の本意を伝えることにより「本当の恋人同士」になる展開がよかった。

多恵にとって「こんなものが貰いたいわけじゃない時に貰う仮初の報酬」
という意味合いを持っていたキャンディーを渡されるシーンが、
子供時代と現代でシチュエーションこそ違えど重なるシーンがエモかった。
子供時代→「多恵はちゃんとお姉ちゃん出来ていて偉いね」という意味合いを込めて受け取った父からのキャンディー
現代→「主人公に自分を振ってくれとお願いし、その返事の代わりにもらったキャンディー」

繰り返すが、上述のキャンディーを貰うシーンは、どちらも
「多恵が望んでいないにも関わらずあくまで仮初で受け取った報酬」というシーンで共通点がある。

余談だが、この多恵ルートは読んでいて
同ブランド過去作『銀色』の狭霧ルートが脳裏をよぎるくらい
話の展開の運び方に近いものを感じた。
両者の話はどちらも
「自分を犠牲にして、利用されていることを知りながらも他者に貢献する」
という共通点がある。
そして、
「自分の思いに嘘をつきながらも他者に貢献し続け、告白を秘めながら人生を全うした」(銀色 狭霧)
「自分の思いに正直になって相手に告白し、これからの未来への一歩を進んだ」(ラムネ 多恵)
とそれぞれ話の結末が違ってくる。
多恵ルートは狭霧ルートで想いを伝えることができなかった
狭霧に対するアンサー的な意味合いを持つのかなあと感じました。


【ひかり】
子供時代に、本来捨てるはずだった真珠を
海に投げ捨てることができなかったひかりが、
お話の最後には、七海と主人公が、
”ひかりのいない所でいっしょに採った”真珠とともに、
彼女自身の手で海へと投げ捨てることが出来るように
関係性が変わっていてよかった。

・子供時代に真珠を捨てることが出来なかった→真珠を捨ててしまうと同時に、
夏の間に主人公たちと遊んだ思い出もいっしょに捨ててしまう気がして捨てることが出来なかった。
・成長後に真珠を捨てることが出来た→真珠なんてものがなくても、主人公・七海・ひかりの
三人は繋がっていて思い出を作ることが出来ることが分かったから。

自分だけ遠く離れ離れだっていう不安が解消されたことの表れがこの行動の変化だと思います。

ひかりルートで出てくる真珠は、
美しい真珠にぴったりな「かけがえのない思い出、友情」
なんかを表現するためのアイテムだったのかなあと思いました。


【鈴夏】
子供の頃に「天体望遠鏡を壊したこと」が原因で、
疎遠になりつつあった兄妹の繋がりが、成長後
「天体観測」をきっかけに再び近づき、
互いの気持ちも理解し合うことができたのが良かった。
子供の頃から実は相思相愛だったにも関わらず、
それぞれがお互いを思いやる気持ちが強すぎて、
相手をかばう意味で嘘をつき続けていたせいで、
好きあっている同士なのに、
お互いの気持ちに気づくまで時間がかかったのが
読んでいて面白いポイントでした。

既に自転車に乗ることが出来ていた鈴夏ちゃんが、
「お兄ちゃんといっしょにいたいから」って理由で、
自転車に乗れることを黙っていて、
お兄ちゃんといっしょに二人乗りする様が可愛かったです。


【おまけ部分について】
おまけは特に語る部分はないと思ったんですけど、
『健柳流パパと各務ママが柔道教室をきっかけとしてお互いの距離を縮めていく話』は面白かったです。
各務ママは柔道教室のなか、一本背負いを習得し、
その成果を披露するために健柳流パパに技をかけます。
技は見事に決まり、晴れて各務ママは一本背負いをマスターすることができましたが、
その際に足首を捻挫してしまいます。
それを見た健柳流パパは
「各務さんは一心に努力することが出来る人だが、危なっかしい」
みたいなことを言い出して
「家事はからっきしだけど、あなたの傍にいてあなたを守ることはできる」
てな感じにプロポーズします。この一連の、二人がくっつくまでの流れが好きな話でした。


【エピローグ】
短いながらも、引っ越していった佐倉ちゃんのその後が描かれていたのが良かったです。
余談ですが、声が鷹月さくらさんで容姿もストライクな佐倉ちゃんがゲーム開始間もない頃は
1番好きだったのですが、攻略できなくて悲しかったです。

【1980】
どこかノスタルジーな雰囲気が漂う、
ナルキッソスに触れたことがある人なら
懐かさしを覚える短編作品。
立ち絵も存在せず、ひたすら文章だけで
物語が展開していく内容になっているんですけど、
片岡とも氏のテキスト力のおかげでそんなことは全く気にならず、
没入して読むことが出来ました。
ナルキッソスのプロトタイプとも呼べる、
死生観にまつわるお話になっていますので
同作が好きならきっと気にいると思います。


【みずいろシステムについて】
子供時代に取った選択によってその後のヒロインたちの
成長具合と関係性が大きく変わってくるという
所轄みずいろシステムに触れたのは今作が初めてでしたが、
触れてみると斬新で面白く感じました。
中でも鈴夏ちゃんは個別に入るかどうかで、
容姿も性格も大きく変わるので見ていて特に楽しかったです。

個別の中の”メガネをかけていて、天文学部所属でおとなしい性格”な彼女も好きですが、
個人的には個別に入らなかった際の、
”メガネをかけていなく、柔道部所属で竹を割ったように明るい”
鈴夏ちゃんの方が好みでした。そっちを攻略させてほしかった……。



本編:13時間16分
おまけ:1時間51分
野望:8分
エピローグ:4分
1980:8分

トータルクリアタイム:15時間41分