ErogameScape -エロゲー批評空間-

gyuunyu280さんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
gyuunyu280
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
89
参照数
944

一言コメント

途中までは100点満点。CASE-0から気になるところが出てきて100点のまま駆け抜けられなかった作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

空虚な人生を歩んできた男と女が出会うことにより「本当にやりたいこと」を見つける物語として完成されていて美しい。短いながらも、この1本で人間の持つ綺麗な面と汚い面を同時に味わうことができ、ボリューミーでした。作品内で使われるCGと同じく、綺麗な物語だった…。

CASE-1
生きていても死んだように毎日ルーティンワークをこなし、何も変化のないまま歳を重ねた有島が、
同じような境遇に立ち孤独な人生を歩んでいた凛と出会うことによって「自分のやりたいこと」を見出すところがベタだけど面白い。

二人の関係は退廃的なものを感じさせはしますが、人間の弱さというものをよく描ききっていて読み応えがあった。
生を手放し、死へと向かう有様を土壇場で救い出したのは凛だったという展開は完全に先が読めていた展開ではありましたが、過程が丁寧に描かれていたのですんなり受け入れ、面白いと思うことができた。



CASE-2
スペンサーの元、奴隷として生きていたオリヴィアが、実家の寂れた酒場で日銭を稼ぐためだけに働いていたウィルと出会い、「演劇」という共通の目的のもと結託し、それまで灰色だった二人の人生が輝き出す王道のボーイミーツガールで面白かった。
自分の才能をオリヴィアに見出されたウィルがどんどん自分の地位を上げていき、最後には宮廷演劇の壇上で自分が書いた脚本による演目を披露するという名誉を掴み取った展開にはカタルシスを感じた。

ウィルがかのウィリアム・シェイクスピアである都合上、「ロミオとジュリエット」を書き上げることは簡単に予想できたが、分かってはいてもやっぱりロミジュリ完成までの話はワクワクした。
物語の最後に、まるでロミジュリを彷彿とさせるような別れ方をしたのは悲しかった。

余談だが、おまけシナリオ含めてこのCASE-2が1番ギャグ色が強いものになっていると思う。
(CASE-2のおまけシナリオ中のエッチシーンは本当にギャグ色が強くて笑えるものになっている)



CASE-3
母さんの跡を追い、ハレー彗星の写真を撮ることにだけ執着していたカンナが、母親の面子を保つために
教員免許を取得し、母親をバカにしていた周りの人間を見返してやろうと生きていたすももと出会い、
カンナは「人物写真の撮影」、すももは「誰かを綺麗に輝かせてあげること」という両者の本当にやりたいことに
気づく展開は読んでいて気持ちいい。
感想書いてて思ったけど、出会う前の二人は両者ともに「母親」に執着した生きる理由になってるんですね。

カンナが幼いがゆえに、青臭さを感じるお話になっているが、同時に思春期の少年の等身大の青春を感じさられる
話にもなっているので爽やかで清々しい読後感が味わえた。



CASE-0
自我を失った世凪に自我を取り戻すために海斗が奮闘するという展開はベタだけどよかった。
ここで、これまで夢を見ている途中で起こされる事にちゃんとした意味があった、CASEが進むごとに
世凪の口数が増える謎などの伏線回収がされる様は気持ちよかった。

ストーリーもCASE-1~CASE-3と比べると見劣りがするが途中までは面白かったし文句はなかった。
遊馬の過去回想が入るまでは

遊馬の奥さんが基礎欲求欠乏症に苛まれた仮死状態でいること、遊馬が最愛の人を失いつつある現代の海斗と
同じ状況に立たされていたことの発覚、妻のことがあったから非人道的な行いをしてでも思考空間の完成を急いでい
たという理由の暴露、これらはまだいい。
ただ、遊馬の妻が基礎欲求欠乏症に侵されていて、遊馬も実は苦しんでいたことを表現したいにしても
もう少し文量を何とか短くまとめることはできなかったのだろうか。

この過去回想が本作のクライマックス手前に組み込まれてくる。
そして物語のテンポを崩すような冗長さを感じさせるテキストの連続…。
読むのが怠いと感じた私はここで一度白けてしまいました。

テンポを崩してでもこの過去回想のボリュームは適切と呼べるものだったのだろうか?
本編中は遊馬の妻が基礎欲求欠乏症の身であること、遊馬が思考空間の完成を急ぐ理由を語るだけに留めておいて、
彼が妻と歩んだこれまでの日々の回想についてはおまけシナリオに組み込むなどしてほしかった。

遊馬の過去回想で白ける部分はありましたが、CASE-1~CASE3は時間を忘れて夢中になって読むくらい
熱中させられた。

エピローグの存在により悲恋の結末を迎えたこれまでの主人公とヒロインにも明確なハッピーエンドが
用意されていたりと痒いところにも手が届くフォローが用意されている点も嬉しい。
このエピローグ、CASE-1~CASE3が世凪によって紡がれた物語であるという設定のおかげで、
この手の仕様でよくある「ifエンド」ではなく、本編のその後を描いた正式な結末になっている点が凄く好きです。

遊馬の過去回想がもう少し抑えめだったら文句なしの100点でした。それゆえに非常に惜しい。