すかぢ哲学の集大成。人よ幸福であれ!
めっちゃくちゃ面白かった。読み始める前に友人から「詩が霞む出来だよ」と言われ、
「いや、詩だって文句なしの名作なのに、あれが霞むってどんなバケモン作品なんだよ」と
正直な話、友人の刻に対する評価を訝しんでいたが、本作を読んだら納得の評価だった。
読んだ当時はありえないくらい面白いと思っていた名作であるはずの「サクラノ詩」の出来が霞んだわ。
サクラノ詩はあくまで蕾でしかなく、その蕾が長い時を経て開花したのが
このサクラノ刻という作品だと感じました。
前作の物語から関わり続けてきてる登場人物、事象、作品に込められたメッセージ。
これら全てが結集した結果、この「刻」という作品の中で、
新たな一つの物語が開花するような感覚が本当に凄い。
読んでいて人々の生き様に何度も涙を流しました。
モブなんていねえ。みんな主人公だよ…。
劇中で決して超えられない美の高みという意味で「草薙健一郎の作品」というワードが何度も出てきますが、
本作はエロゲの歴史における「草薙健一郎作品」だと思いました。
若くしてこの世を去った天才芸術家、草薙健一郎。
草薙健一郎の作品は、彼の死後に様々な才気あふれる天才画家たちが出てきても尚、
美の神に愛された彼らでさえ誰もその背中に追いつくことが出来ず、常に芸術界における頂として君臨し続けます。
この作品もそのような存在になりそうな予感しかなくて怖くなりました。
勿論、この刻が発売された後も、素晴らしい作品はたくさん出てくると思います。
中には本作に匹敵する名作も出てくるかもしれません。
「しかし、その名作たちは果たして本作を超えることができますでしょうか?」
この場で安易に「刻を超える作品になる」「刻には劣る」という回答をすることは出来ません。
もし、刻に匹敵する出来の作品が出てきたとしても、その作品の善し悪しを語る際には
必ず刻が脳裏をよぎって脳内で議論を展開してしまうことになるでしょう。
それくらいの存在感を持つ作品なのです。サクラノ刻という本作は。
本作は「作品の持つ魅力という甘美な砂糖にデコレートされた呪い」です。
甘くて美味しいお菓子は、夢中になって口にしている時は、それが健康を害する一因になることには気づきません。
しかし、糖質と脂質であるお菓子を食べすぎた後には身体の不調という形でしっぺ返しが来ます。
刻を読むという行為はそれに似ているのです。
刻という面白さの塊である名作を味わった代償として、心に影響を及ぼす呪いを背負わされます。
これを読み終えた人々は、後に気づくでしょう。サクラノ刻という作品は素晴らしい出来の名作ではあるが、
それと同時に、人々が作品の善し悪しを決める場面になった際に、大きな存在感を持ってして再び我々の目の前に
表れる、決して拭うことの出来ない、逃れられない呪いであることに。
あなたは今後「名作だ」と感じる作品が出てきた時に、
サクラノ刻と比べることなく語ることが出来ると断言することが出来ますか?
断言できると答えた人は心が強い方だ。
しかし、少しでも悩んでしまい、この質問に対する回答を出すのに躊躇してしまった方は
既にこの作品の呪いに蝕まれているのです…。
私といっしょに、決して逃れることの出来ないこの呪いを背負ってエロゲーマーを続けましょう。