極彩色で彩られた一人の少女のビルドゥングスロマン。CG+音楽(音声)+テキスト、それぞれの持ち味を最大限に引き出す。そんな18禁美少女ゲームというジャンルの特性を生かしきった総合エンターテイメント。物語を想像しながら読み描きする事が好きな人、舞台演劇等を楽しめる人、そのような人達にオススメの珠玉の一本です。
その世界観は非常にナンセンスであり読む人間を導入部分から突き放す。読み手には徹底して能動的な作業を要求し、受動的に楽しむことをさせてくれない。ある程度の読書能力とそれに対するノリの良さと、理解してやろう!という根性までもプレイヤーに要求してくる。読み手が純粋すぎると物語の難解さと数々の圧力に嫌気が差し読みきる前に投げてしまうかもしれない。
この物語を楽しむためには「前向きな読解」「第三者的視点(感情移入をしないという意味はありません)」が必須でかなり読み解き難い。もっとも重要なのは読み手の想像力で、足りない部分はひたすら自分の想像力だけで読み進める必要がある。灰流は我々の視点の一部を担う主人公(登場人物)ではあるが、「森」という物語りの主人公ではなかったりします。灰流の視点に固執しすぎると一気に物語が見えなくなります。物語を読解しつつ、感情移入先を固定しない、地の文に固執しない、フレキシブルな感情移入を実現するための、柔らかい回頭性も物語を、より楽しむためには必要だと思います。音声と音楽の重要性は他のゲームでは類を見ない程に重要なので、耳の穴はかっぽじっておいた方がいいかも知れない。3点の要素、音、絵、テキスト、これら全てに集中しないとならない上にAVG的な読解も必要になるために、プレイ時にかなりの集中力が必要になると思います。およそ1プレイ7時間程度。その7時間の間、息を付く暇がない。
毒味が強く、それで居ながらウィットに富んだ言葉の数々。時に役者の視点から。時に観客としての視点から。時に一人の紡ぎ手として。時に舞台劇の役者達にすら知覚される我々プレイヤーとしての視点から。外から内からとプレイヤーを揺さぶってくる構成。徹底して韻を踏んでくる文と音声と。まるで劇中劇を思わせるその演出の数々。音声による、いわゆるセリフ回しから物語を認識する必要があって、演出も手伝ってまるで演劇でも見せられている気分になる。音声で物語を認識し、想像するというのは実際にやってみるとビックリする程難しい。
中身を開けてみると、理解出来ない事象がどうしても多く読み手には前向きな読解を求めてくるわけです。AVG的な「読み解く」という作業、この部分をゲームとしていかに楽しむか。本当に「解らなかった」場合、ENDロールが流れたところで、何一つ物語を理解出来ずに読み終えてしまう可能性すらある。まあ、初回プレイ時の私の事なんですけどね。典型的なメタフィクションであるものの虚構と現実が常に入り交じっており非常に判りにくい。演出的にたびたび第四の壁をぶち破ってくるために読んでる側としても「今どっちだっけ?」と虚構と現実のラインをあっちにこっちにと常に揺さぶられ続ける。
CGは場面演出の裏方に回ってる形で自己主張は弱く、作風的に様々なキャラクターの感情を読み取らないとならない都合上、個に対する感情移入のレベルも低めなために当然萌えることは難しいし、Hシーンに居たっては使い物にならないように思える。ただしこれは悪いというわけではなく「世界観」という演出においては多大な貢献をしている。色合いから絵柄から絵本ぽいというのかな。小お洒落な感じでポップというかなんというか。絵を使った演出も凝っていますね。単純な立ち絵ではなくて背景の奥行きを利用した演出など(いつもLiarですが)、なかなか手が込んでいる。シンプルな構成の絵だけに音声や音楽やテキストを食うこともなく、高次元で調和が取れている。このポップな絵が陰湿な虚構と現実が綯交ぜになった世界で、強烈な違和感を発揮するために、より恐怖を煽ってくれる。
音声が本作の大きな魅力の一つなわけですが、正直この音声の使い方には驚いた。音声的な演出でここまで成功している作品は少ないように思える。そのおかげでテキストや絵のみでは絶対に味わえない余韻を残す。「音声があった方が良い」「音声は必要ない」というADVは散々プレイしたが「音声無いとダメ」なんていうエゴを押し付けられたのは、ぶっちゃけ初めてでした。夢中になってテキストを読みふけっているとウッカリと伏線を読み飛ばしたり回収し忘れます。あれ?と思ったら通りすぎずに耳を傾けてみましょう。声優さんの迫真の演技により感情豊かに表現される音声側にこそ、その答えが隠されていたりします。音声の可能性、その重要性を再認識。
テキストそのものも普段なら冗長ととも取れるような回りくどい言い回しなのになぜか格好良く心地良い。さらに韻文と相まって非常に魅力的に映る。抜群のテンポの良さを活かし、そこに「音」による演出での味付け、読書が好きな人間にはたまらない読後感がある。
「児童文学」モチーフにイメージを流用している部分が多いですが、原典を知っている必要があるかというと、実際のところ詳しくは知っている必要は無いと思います。アリスにしてもピーターパンにしても「こんな話だったよな」程度知っていれば良いかと。それ以外もディズニー作品になっていたりする物がほとんどですので「まったく触れたことが無い」なんて人は少ないとは思います。
ハチミツが大好きなクマと少年やら、大人になれない空飛ぶ少年とか、ワニに片腕を時計ごと食われた鍵爪の船長だとか、傘にぶら下がって風に乗ってやってくる家庭教師とか、妖精の女王に、ねずみの騎士に、銀剣を持った少年剣士にものいうけものたち、兎を追いかけて不思議の国に迷いこむ永遠の少女。どれも子供の頃にディズニーのアニメや、保育園や幼稚園で与えられる絵本で一度は出会ったことのある連中ばかりだと思います。幼い頃に接したことのある思い出深いキャラクター達が、姿形を変えてシュールなセリフを吐くものの、そんなこと全然関係無く物語は進みますし、登場人物の、この『Forest』という「物語り」上における個性さえ理解していれば十分だと思います。この部分を取って難解というのは無いと思います。アリスとピーターの話の流れとメインの登場人物達について色々と知っていると、より楽しみやすいというくらいでしょうか。即席としてはWikipedia等を使うと良いと思います。キャラクターの背景を読むだけならばそれで十分。
1時間程プレイしてみて「なにか良くわからないけど面白い」という感想に行き付ければそのままプレイ続行。「なにか良くわからなくて面白く無い」という感想に行き着いたら、楽しめない可能性の方が高いです。基本的に序盤のその空気をラストまで引きずります。物語に「乗る」そのノリの良さは必要です。ですから「合わないな」と思ったら、そこで放棄してしまうのも手。
楽しむためには積極的に世界を理解し世界に参加する必要がある。頬染めて恥かしがってロールプレイングに参加しないでいるとまったく楽しめない。妖精だとか魔法だとか魔物だとか意味のわからない物があるからこそ、現実では感じ得ないファンタジーならではの「おぞましさ」を持った恐怖があるのだが、しっかりと参加できていないとその気持ち悪さも味わい難い。そして想像力が足りないと何も見えてこない。読み手が受け手に甘んじているとあっさりと物語に置いていかれる。この楽しむツボが理解できるようになるまでビックリする程時間がかかる。
これがサウンドノベルと呼ばれるようなADVにおける総合エンターテイメント性のある種の終着点なのかも知れない。声を付けることにより、読書のペースが作り難かったり、想像力の入り込む余地を狭め物語に集中し難いという弊害もあるという認識だったのですが、人の声による演出の可能性というのはまだまだ奥が深いのだなと痛感しました。
腐り姫などもそうだが星空めてお氏及びLiarSoftのライター陣は、虚構と現実を綱渡りするような作品の演出がやはり抜群に上手い。物語を読みつつ集めてまわった、ほどけて散らばった物語のカケラ達。そのバラバラにバラけたパズルのピース達が最後に収束し一つの結末を導き出す。この一貫したシナリオの精巧さは見事だった。こんなにも観衆である我々幻想に生きる(笑)エロゲーユーザーを露骨に否定する作品が、商業ベースで出てしまったことがすごい。そんなエロゲーを逸脱している本作ではあるが、それでも18禁であるという多大なメリットは感じることができた。
「読み手を選ぶ」と言えば聞こえがいいが、ここまで突き抜けていると本来の18禁ADV(美少女ゲーム)を購入し楽しもうと購入した層は間違いなく置いていかれると思います。読み解く事以上に数々の挿話の底にあるテーマが、次々と綴られながら一丸となって「エロゲーマー」いわゆる空想に耽る私のような人間の事を否定してくる。すなわち、ここに”在る”のはエロゲーへの徹底したアンチテーゼ。正面切って数々の”炸裂”する言葉で否定してくれる。
結局のところ中身はと言うと、とてもシンプルな一人の少女のファンタジックなビルドゥングスロマン。そして常に現実がちらつく演出が素晴らしかった。プレイヤーは様々な視点から常に虚構と現実との境界線を意識させられ続ける。アマモリという一人の少女が物語の中で成長して行き、ぐちゃぐちゃで汚い世界の中で、現実を見据え、明日へと向かうための”希望”を手に入れ、現実へと立ち返る物語。ラストはあんなに綺麗な終り方をするとは、まったく予想ができませんでした。
アマモリという少女の視点から現実を付きつけてくる。この終わり方は、本当に私のような幻想世界こそが生命エネルギーみたいな、生粋のエロゲーマーには耳やお腹が痛い……。大人に…早く本当の大人にならなくっちゃ……。…でも直視するの辛いんだよね…色々と……。と、色々と辛い(当たり前な)事を強制的に思考させられてしまう。この作品、感動すればする程、オタクである自分を否定したくなる。いわゆる「オタクである事をやめた方がいいのかな」なんて事を前向きに思考させられてしまう。そんな幻想に嫌悪感を抱き始めている自分に結構ビックリ。ここで提示される現実は、色々と辛いけど虚構よりは少しだけ甘そうなのだ。だから思わず現実を見つめ帰ってみたくなってしまう。感動もするし最高に面白いのだけど、心の中に微妙なしこりと余韻を残す。そして最後の最後に最高の「おやくそく」である、この幕切れ。面白かった。
エロゲーというジャンルで、このような舞台劇に出会えたことを正直嬉しく思います。プロの人達の本気の「朗読」劇はすごかった…。自分のように楽しめた人間にはとてつもなく贅沢な作品だったように思う。映像、テキスト、音楽、音声、演出、どれが欠けても物語は出来上がらなかった。それほどにハマると一つ一つ全ての要素がとても魅力的でした。読後の余韻も本当に素晴らしいかった。没頭していた集中時間の長さからくる、この気持ちの良い気だるさは普通の小説や映画でもなかなか出会えません。読書後の腹の底から噴出すため息。物語に翻弄される感覚が本当に楽しい。読んでも読んでも、どこまでも底が見えないこの感覚。ゾクゾクする。
極上のエンターテイメントでした
本が好きな人や、想像で物語を描くことが好きな人、演劇等が大好きな人、そういう人達に、ぜひ1度味わってもらいたい作品です。
作品自体の有り方がとても抽象的で、どうしても私の感想も抽象的になってしまうのが、とても申し訳なく。いくらでも楽しめる……プレイするたびに想像力が加速する。なぜか1点ずつジワジワと増えていってついに99点まで来てしまった……。次回プレイ時にはついに100点の大台に……したら自分を否定する事になりそうなのでそれはありませんが。
このゲーム、スルメのようにプレイする程に味が出る。私は、いったい何時になったら、この森から出られるのだろうな…。
……そして私は何時になったらエロゲー(森)を卒業できるのだろう…。
正直、良くこんなの出したなって感じですね……。
このような自由奔放な売れるのかどうかすら怪しい作品を世に送り出してくれたLiarSoftを心から尊敬します…。