ErogameScape -エロゲー批評空間-

gripeさんのオトメ世界の歩き方の長文感想

ユーザー
gripe
ゲーム
オトメ世界の歩き方
ブランド
Orthros
得点
95
参照数
360

一言コメント

とんでもなく面白かった。ギャグとシリアスのバランスも良くキャラ達も生き生きしていて魅力的で、最初から最後まで楽しく読み進められた。分隊の雰囲気が本当に好き。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

元々NYAONさんのシナリオは好きだし、オトメドメインも好きだしで、今年一番楽しみにしていたゲームで正直本当に期待値が上がっちゃっていたのだけれど、期待を超えてくれて嬉しい。流石にこんなに自分にぶっ刺さるとは思っていなかった。

ありがちはありがちな、AIが人間を不要と判断し、そのAIと人類が戦争をし続けている世界。対抗のためには結局AIを生み出し、そのAIに頼りながらも完全にすべてを委任する訳ではない形で運用。
これだけでも十分にゲームが一本作れる設定だが、そこに男嫌悪が行き過ぎた社会で男女隔離法が制定され、男女は基本的には分断され、異性への嫌悪が強い社会。
背景の設定だけでもかなり設定がモリモリで、これだけでワクワクしてしまう。
主人公たちの通う学校が大統領寄りの組織なので、女性世界の中では男に嫌悪感が薄めだということもあり、世界観設定の割には男は糞みたいな雰囲気はあまりなく、むしろフェミニストは頭おかしい、みたいなノリなのは意外ではあった。


主人公のユイちゃんの過去が重いのも良かった。女装する理由が薄めの女装主人公ものが増えたなあと思っていたけれど、本作は世界観の設定的にも男と露見するとかなり危険で、身体も意図して女性に見えるようにしているという本気ぶりなので、ただ可愛いだけじゃないのは印象が良かった。
湊くんのように心も割と女性寄りなのも、女性社会で生き続けてきたことが影響しているのかなと思う。それでいて男性的な性欲は出てきてしまうというのも、設定的にかなり自然で良かったと思う。

本作はストライクウィッチーズとか、スカイガールズとか、あの辺りの女性キャラだらけの軍隊物の雰囲気が強く、個人的には滅茶苦茶大好物。実際の軍隊と比較したりするとかなり緩いのだとは思うが、かといって軽く描いている訳では無く、辛い一面もきちんと描いているのが好印象。こういうの本当に好き。
表現の自由戦士の活動もいつもの面子にしていることで、分隊メンバーの絆が深まっていく様子が感じられ、この5人での仲間感が強くみんな好きになることが出来、とても良かった。
好感度自体は最初から結構高めだったと思うけれど、どんな人なのかというのは時間をかけて少しずつ知っていく感じで、そこは個人的にかなり刺さった。
後半はみんなリン先輩のことは優しい人だと思っているし、片桐姉妹はバーサーカーだと思っている辺りは分かりやすい。

しばらくこのゲームは軽めの内容ですよ、という雰囲気を見せておいて空からガイアが攻めてくるところや、男たちと共同作戦をするところでヤバい!という気持ちにさせるのも上手だなと感じた。特に空からガイアが攻めてきた時は一気に日常が崩壊した感じがあってドキドキした。
最終盤のアカリが子供を産む機械にされているシーンなんかは本当にやめてくれ…!という気持ちにさせられ、いい意味で辛い気持ちにも結構させてくれた作品だったなと思う。

ユイとアカリの設定はまるでロミオとジュリエットのごとく、立場的には仲良くなるのもあり得ないような設定で凄いなと。
フェミニスト過激派の党首の娘で、男を皆殺しにすることを目標としていて、学校的にも敵対に近い立場。しかもユイからすると親は仇でもある。こんなの無理じゃん…。
そんな感じでもお互いに人となりを知っていって、どんな立場だろうと、アカリはアカリ、ユイはユイだから好きなことは変わらない。こう思えるようになっていったのは素敵だなと。特にユイは何度も躊躇ったけれど、それでも放っておくことが出来なくなっていってしまったのはお互い惹かれ合う運命だった感が強くて良かったと思う。
そんなアカリに女装がバレても受け入れてもらえたのは本当に嬉しかっただろうなと。
ずっと守られてきたアカリがあなたを守ってあげると言うのはかなり良かった。戦闘面では結局守られることの多いアカリではあったが、精神的には確実にユイを支えていたと思う。

強いて言うなら、学校の全員に女装バレしたのに、誰も何も言わないのはやりすぎかなと思う。こればっかりは世界観的に流石に無理があると言わざるを得ない。真面目でみんなから好かれていたのだとは思うけれど。

最初のED。個人的には本当にあそこで終わったかと思った。
アカリは母の顔色ばかり窺っていた自分から抜け出し、自分なりの愛を見つけて後悔しない生き方を最後にして、死に場所を見つけた。この終わりは個人的には結構綺麗だなと感じていたので、あそこで終わっても今ほどじゃないけれど高評価にはしていたと思う。
やってくれたな!という気持ちになっていたけれど、ED明けは余計にやってくれたな!と。

後半のミク先輩パート、こちらも抜群に面白かった。
前半とは別の面白さなので、どちらかが肌に合わないという人はそれなりにいそうだけれど、個人的にはどちらも大好物で大満足。
途端にタイムリープ物の様相になり、どんどん人間らしくなっていくミク先輩を見守ることとなる。
男の娘ものである点はかなり鳴りを潜めるし、アカリ、ルリコはかなり登場頻度が減る。基本的には前半で問題だった出来事を問題なくしていくので、派手さも薄くなっていくので、この辺りが前半の雰囲気好きすぎるときついかなと。
これは製作者の意図通りだと思うけれど、アカリとユイが惹かれ合わないのも辛さを感じる点だと思う。これは私も感じた。

とはいえミク先輩はきっちり可愛いし、ユイが絡まない時のキャラ達が見られる点、単純にタイムリープものらしい、知識があるなりの問題の解決していく様など、このパートがあったからこその面白さもたくさんあった。実際私は後半パートの方が手が止まらなくなった。
1週目よりアカリが打ち解けられてない…?という寂しさを感じたのも製作者の意図通りっぽいので、もう手のひらの上で踊らされている。

1週目ではアカリなりに母親とは違う愛を見つけ、2週目ではミク先輩なりに愛に折り合いをつけた話で、ユイはきちんと主人公していたけれど、ユイの物語というよりは、アカリとミクの物語だったなと感じた。
最後にユイが3人の中で一番あたふたしているのもアカリとミクがかなり覚悟が決まっているというか、色んな出来事所以の成長をしたからかなと思う。決してユイちゃんが成長していないわけではないのだけれど。

良い方向に向かっていると思われるような説明はあったが、ガイアとの戦争を筆頭に、世の中は決して良くなっていないし、色々決着はついていないのだが、アカリとミクの物語としてはかなりまとまっていたと感じたので、中途半端なところで終わったような感覚は無かった。
それどころか読後感最高だったと思う。もうほんと3人で幸せになってくれ。

立ち絵、CGともに本当に美麗で驚いた。
mignonさん、エロゲの仕事はほとんどしていないようなので、失礼ながらCGで少し粗が見えたりするのかなと勝手に想っていたのですが、最初から最後まで美麗だった。アカリがギャグ顔している時の口の位置が少し気になったくらいで絵については大満足だった。
それだけイラストが綺麗なので、Hシーンも6回しかなかった割に、そっちの用途としても強い作品だったように思う。

声優の演技としても少なくとも分隊メンバーはとても良く、歩サラさんはオトメドメインでも実績があり安定として、小波すずさんが個人的にMVPかなと思う。ヤエカはギャグもシリアスも演技が抜群に良くて、本当に生き生きしていたキャラだと思う。

キャラ、シナリオ、声優、イラスト、Hシーンどれも強い、本当に素晴らしいゲームでした。



一番好きなキャラ:リン

ミク先輩と悩むが、一番好きなキャラはリン先輩。
前半も後半もそれぞれ違った不器用な愛情がひしひしと感じられて、良い先輩だなあと思う。ルート欲しい気持ちも無いではないが、良き先輩、良き友達である本作での立ち位置が見事にはまっていたのかなと思う。
ヤエカとのコンビも本当に良かった。