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gripeさんの蒼の彼方のフォーリズム Perfect Editionの長文感想

ユーザー
gripe
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition
ブランド
sprite
得点
90
参照数
87

一言コメント

架空のスポーツをここまで面白く魅せられるのは凄い。媒体の関係で動きはそんなに無いはずなのに、情景がしっかり浮かぶ。 成長物語としても出来が良い名作。みさきルートには100点あげられる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

●各ストーリーについての感想 ※各ルートクリア時にそれぞれ感想を記載

攻略順:真白→莉佳→みさき→明日香

〇共通

ずっと気になっていたゲーム。評判も良いし、大好きな渡辺僚一さんもライター参加しているし。
FCという架空のスポーツを主題に夢破れた主人公が、素人の女の子に影響されて、
その子を含む、部活のコーチを始めるお話。

スポーツものというのはエロゲ界隈では結構珍しく、誰かのルートでだけ関係するとかそんなのばかり
なのだが、本作はFCが完全に軸なので単純に目新しい。とな恋ぐらいしか他に思いつかないかも。
あれもマネージャーなので、主人公が選手としてどのルートでも活躍するゲームってあるのだろうか。
閑話休題。

明日香以外の2人は結構雑に入部したのにはちょっとびっくりだったけれど、まあ見せたいのは入部後
だからってことだとは思う。全員集合まで長めにとってもそれはそれで楽しそうだけれど。
明日香は本当にスポーツもの王道主人公みたいな存在で、初心者だけどすごい技をいきなり披露。
その後鳴かず飛ばずだけど、大会で一気に頭角を現し、才能の違いを見せ付ける。
みさきも、わかりやすく天才肌の道を辿っていて、とても王道スポコンものの道を進んでいる。

ヒロイン4人のバランスが良く、それぞれのヒロインがそれぞれの形で、どう成長していくのか楽しみに
なる構成になっている。みさきも含めて共通時点で未熟な部分をしっかりだしているのが良い。
やっぱりスポコンものといえば成長物語だよね!という感じでわくわくする。
主人公もまだまだコーチも試合中の指示も未熟なので、ここの成長も楽しみになる。

部長や真藤さん等、男も活躍し、スポーツものらしく対戦校のライバルたちもちゃんと数いるのも良い。
こんなにキャラを用意するのは大変だからスポーツものは流行らないのもありそう。
だけれどこのゲームはきちんと相手を用意しているので、敵対敵ですら楽しめるようにしている。

ヒロインとしてライバル校の子がいるのも個人的に〇。ヒロインの立ち位置はばらけるに限る。
その一ノ瀬との交流も自然と出来るようになっているし、仕方も自然。よく考えられている。
それこそ恋ちょこの皐月は結構無理やり交流させていた感じがあったので、spriteなりの進化か。

少なくとも共通までは、欠点らしい欠点は無い。盛り上がりもあり、ヒロインとの交流も丁寧。
ヒロイン勢も可愛いし、男連中も気持ちのいいやつらだし、文章は読みやすいし、
試合の情景もCG多いのも相まって浮かびやすい作りになっている。
また、真白や一ノ瀬がちょっとお話的に空気になってきたころに話にきちんと絡んで、
存在感が出るようなつくりになっている。あれ、本当に悪いところないな…?


〇真白

とても良かった。話の主題的に大会とかの話が無いので、大会で他校と戦った時の真白の様子は
見て見たかったけれど、まあ無い方が話としての締りは良かったと思うので、満足。

ルート入ってからは真白が晶也のことを結構早めに好きになるが、約束するところは格好いいので、
しかたない。自覚するまではそれなりにかかるし、自覚してからも恋人になるまでもかかるので、
晶也をなんとも思っていなかった真白が、恋愛で一喜一憂する姿がいっぱい見れてとても可愛い。

それでいて、どんどんFCに本気になっていく真白も見ていて気持ちがいい。
ついつい自主練もしてしまって、スピーダー同盟も結んでしまうほど練習してしまっている姿は、
ラストのみさき戦での努力が楽しいにもつながっていて、みさきについて来ただけだった真白が、
例え晶也が直接絡んでなくてもFCに本気になっているさまをしっかり表現出来ている。

みさき全肯定だった真白が、みさきを意地でもFCに戻すべく頑張ったというラストも良い。
引っ張り上げてくれたみさきを引っ張り上げる、その構図が良い。
まだまだ精神的にも弱い真白だけど、晶也に支えてもらいながら頑張る様が本当に良かった。好き。

ルート入っても一ノ瀬さんにもいっぱい見せ場があったのも良かった、
ルート入っても他のヒロインがいっぱい出てくるゲーム好きです。

真白が晶也を好きになっていく様も良かったし、一ノ瀬との友情、みさきを初め部員との関係、
恋人になってからのいちゃラブも良く、これまた悪いところの無いルートだった。
強いて言うなら、もう少し盛り上がりが欲しいかも?っていうのと、有梨華との試合は見たかった。
ただそれも難癖レベルなので、手放しでほめていいお話だったと思う。
個人的に、レズっぽいヒロインはほぼほぼ好きになるのだが、無事好きになった。


〇莉佳

若干の強引感もありつつ、いい話だった。プリキュアの敵幹部が仲間になる回みたいな良さ。
わかりやすい敵が登場し、成長したヒロインによって、正しい道へと戻っていく…王道だね。

日常シーンは正直今までで一番微妙だったが、面白さの一定ラインは超えていたように思う。
つまんないのではなく、共通、真白ルートが強すぎるだけ。決してレベルが低い訳では無い。
あんなに親身になって自分の悩みを聞いてくれて、ばっちりコーチしてくれていたらまあ、
晶也に落ちるのも致し方なし。莉佳も支えたくなるヒロイン感はガンガンに出ていたので、
晶也もひいきしちゃうよなあ…。彼女にしたいタイプの子。

序盤から、打倒霞を目標にひたすら莉佳を鍛えるようなお話なので、中盤は若干の中だるみはある。
莉佳が似たようなことでずっと悩んでいるので、まだそこで悩んでいるのか…みたいな感じはあるが、
それはそれで莉佳が真面目で融通が利かない感じを出せているのでいいのだが、まあ中だるみはする。

空に浮いている時は触れ合えない設定だったはずだけど、その設定ガン無視だったのは
設定のすり合わせとかやり切れてないなとちょっと残念な気持ちに。
複数ライターの時点で誰かやりそうだなーとは思っていたが。

佐藤院さんがいい働きするルートでもあり、莉佳の最後の後押しは晶也より佐藤院さんが持ってっていた。
基本はずっと晶也が支えているので、主人公なのに…みたいな感じにもならないので、
いい塩梅での佐藤院さんの活躍だったと思う。試合でも活躍してくれ。

この世界線での霞対莉佳をもっと見て見たくなる、そんな良さには溢れていたルートだった。
あと水着エプロンのえっちシーン無いのなんで…?約束したじゃん…。


〇みさき

最後にやるべきだったかもしれないなと思うくらいとってもきれいな終わり方だった。
終わり方だけでなく、本当にずっと面白かった。真白ルートも十分ずっと面白かったけれど、
そんなレベルじゃない。みさきルートだけなら100点近く付けたくなるような出来だったように思う。
やっぱり私は渡辺僚一さんが好きだと再認識。

天才が、自分よりも下手だと思っていたさらなる天才に打ちのめされ、そこから立ち上がるお話。
晶也が打ちのめされた時と同じ流れをみさきも辿り、そのことがわかった晶也がみさきを立ち上がらせる。
自分を打ちのめしたみさきが立ち上がってくれないと、自分も立ち上がれないという説得は、
決して飾らない晶也の気持ちが伝わってきて良かったし、それがみさきの心も突き動かしたのだろう。

一貫して戦うこと、負けることへの恐怖、そしてプレイすることの楽しさ、勝ちたい気持ちについて
向き合う話になっており、テーマもとても分かりやすい。
あおかな全体のテーマとしては楽しむことで強くなるみたいなところだと思うけれど、
みさきルートとしてはそれプラス、向き合うことの恐怖との付き合い方が重視されていて、
挫折を味わったことが無かったであろうみさきと、すでに大きな挫折を味わった晶也を絡めることで
見事に表現出来ていた。

最後まで決して恐怖を克服することの無かったみさきに引っ張られることによって、
嫉妬から逃げられないまま突き進むことになった晶也。負の感情と常に寄り添いながら、
それでも大切な人に支えられながら、楽しむことを、お互いに出来るようになったのだろう。
負けたくないからじゃなく、勝ちたいから、それが好きだから戦う。この結論が好き。

心情表現が見事だっただけでなく、練習を重ねてどんどんみさきが強くなっていくのが分かりやすく、
秋の大会が迫ってくるのが本当に楽しみになり、大会は本当にどきどきした。
また、みさきと晶也の掛け合いのギャグセンスもハイセンス。かなり笑わせてもらった。
ここに関しては本当にいつもの渡辺僚一さんなので、いつも笑わせて頂いていますという感じ。
えっちシーンも笑えてえっちなものに仕上がっており、本当に穴がない。

他のヒロインが中盤以降ほぼ登場しないのが寂しくもあるが、その代わり部長や覆面選手が
ずっと登場してくれるので、みんなで頑張っている感もしっかり出してくれている。

天才"肌"キャラの成長物語としては完璧なものをお出ししてくれたと思う。


〇明日香

王道スポコンもののメインヒロインルートはやはり滅茶苦茶王道だった。
ずっとこの作品が訴えていた通り、楽しむこと、それが一番の強さであることをこれでもかと出してくる。
乾さん…というよりイリーナをわかりやすく敵キャラとして配置し、みんなで明日香を鍛え、
晶也も過去を乗り越えていく…そして乾さんとの決戦。ハッピーエンド。
これを王道と言わず何を王道と言うのか。本気の王道を見せてもらいました。

ぶっちゃけみさきルートの方が好きなのだが、最終決戦の盛り上がりについては明日香の勝ち。
練習してきたことを全部出して、それでもやられそうになって、それでも晶也と立ち上がって…
そして楽しみながら、最後は晶也の技で勝つ。晶也が駆け付けてくれたというような構成で、
本当に決戦のお手本のような盛り上げ方。最高でした。

また、一番晶也が復活するルートでもある。みさき、真白ルートでも復活の兆しはあったけれど、
ばっちり復活したのはこのルートだけ。真白ルート、みさきルートでのトラウマっぷりを見ると、
明日香の癒し効果がすごすぎる。最初からかなり飛べているじゃねえか…。
それでもコーチに専念するのは良い判断だったと思う。今までの練習を無にして、
晶也が復活して勝利するルートだったら、結構辛い評価をしていたと思う。

莉佳ルートプレイ時みたいな感想になるのだが、全体的に面白さは高水準なのだが、
みさきルートが良すぎたために、面白さのハードルがちょっと上がっていた感じはある。

今までのルートだと必ず明日香が晶也を好きだとわかるシーンを挟んでいたので、恋愛面での期待も
あったのだが、単純に一緒にいることで惹かれ合い、順当にくっついたのでこんなもんか感はあった。
とはいえどのルートでも軽く相思相愛だったわけで、何もなければそうなるか。
恋人になるまでのお話としてさほど盛り上がらないのに、イチャラブもまあ、私がそんなに明日香の
キャラクターを好きではないのもあってそこまで楽しめなかった感じはある。
まあ何度も言うけど、みさきルートが良すぎてハードルが上がってしまっている。

主人公と昔出会っていて、お互いそのことを覚えてないまま最後まで迎えるのはかなり珍しいと思う。
最終決戦がそのおかげで何だか趣があったので、こういうのもありなのか…と思わされた。
ここに関してだけは王道から外れていたかな。一応幼馴染的位置だけれど、そうならない感じ。


全体の感想

一番好きなキャラ:みさき

とても面白かった。王道スポコンものという、エロゲではあまり接種することの無い題材だが、
漫画やアニメではよくあるタイプではある。
あまりスポコンがエロゲに無いという時点で、そもそも相性が悪いことを示しているはずだが、
そんな相性の悪さを感じさせない王道の面白さを追求出来ている作品だった。
架空のスポーツを題材にすることで、ある程度のCGで上手く魅せるよう考えられている。
あまり複雑でないルール、移動がわかりやすいように線が出る設定。それでいてまだまだ発展途上の
スポーツとすることで、戦術の穴があることも変じゃないようになっていたりと、
こんなにいい架空のスポーツを考えられたことに脱帽。

ある程度のCGで出来るようにとは言ったけれど、試合中のCGはかなり多く、腕の違いやスピードの違い
なんかも線からわかるようになっていることがすごい。またあえて現実的ではないくらい、
目にエフェクト付けたり強キャラの強キャラ感を出す表現も上手。
絵の上手さはそこまで面白さに影響しないと普段は思っているが、この作品については、
絵での魅せ方がかなり面白さの向上につながっている。

テーマがわかりやすいのも良い。一貫して好きこそものの上手なれを地で行く構成。
そしてみさきルートではそれを否定しないうえで、苦しむことが力になることもあると、
楽しまなきゃダメ!というわけでもないことも示す。この辺りの分かりやすくも、
単純じゃない感じが大好きだった。

莉佳ルートだけ若干落ちる気はするが、全ルート読みやすく、ヒロインを可愛く表現できており、
盛り上がりどころではしっかりと盛り上げ、試合も常に面白かった。
結構長いゲームだったはずだが、最後まであまりダレず、一気に読むことが出来た。
また、キャラが多いのはこのゲームにおいては利点で、各校に実力者がいることを表現できており、
水産の二人以外は、きっちりと役割を与えられていたと思う。あの二人はもう少し活躍欲しかった。

あえて弱点をあげるなら、恋愛で好きになった理由が弱めのことが多かったこと、
そして、続きがありそうな作りにしていること。
イリーナの言うお姉さまだったり、晶也が完全復活している訳では無かったり、
Finaleでの会話だったりと、続き考えてますよ感が半端ない。
恐らく、開発中止になっているtweiへの示唆なんだと思うが、あまりそういうのは好きじゃない。
あとまあ、大したことではないが、個人的には佐藤院さんにもう少し大会で活躍して欲しかった。
初めて戦った相手であり、どのルートでもある程度目立っていて好きなキャラだったので、
佐藤院さんとの白熱バトルは見て見たかった。

珍しいなと思ったのは、各ルートで、他ルートの内容示唆があったこと。
みさきが部活やめていたかもと語ったり、真白が本気でやってみれば良かったかも…と言ったり。
他にもいくつかあり、結構面白い試みだなと。個人的には結構好きだが、ネタバレと思う人もいそう。

明日香ルートとみさきルートが少し対比になっているのも面白い。
明日香ルートはイリーナの言う革命とは違う革命を起こすようなお話になっていたが、
みさきルートではイリーナの革命に乗ったうえで楽しむようなお話になっていたので、
みさきルートはイリーナの思惑通りにFC界が進んでいく感じがある。

また、主人公が終始フォローに回っていたのが好感触。
昔凄かった系主人公はほぼ最終的には昔の凄さを発揮していくものだが、本作は
主人公が復活してもフォローに回ったおかげで、ヒロインの格が落ちず、
各キャラの強さの序列みたいなものが揺るがなかったように思う。

きっと好きな作品だろうなと思ってはいたが、思った通りに期待に応えてくれた。
色んな人が楽しめそうな素晴らしい作品だった。