条件が3つ。瑛莉を許容できるか。佐藤さんの不憫さを我慢できるか。主人公に感情移入できるか。自分は全てを満たしたのでこの点数
恋をするとはどういうものなのか?というありふれたものながら答えの出ない難しいテーマについて、自身の破れた初恋を引きずったままの主人公とヒロイン達が、日常の何気ないやり取りで距離を縮めながら手探りをしていく話
攻略順に沿ってルート別に感想を
1.美奈ルート
主人公が美奈を想い続けて、だけれど美奈とはそれが叶わない関係になってしまっていて、おまけに親友は美奈に好意を寄せている
ありきたりな設定に感じるけれど、主人公の心情をこれでもかというくらい丁寧に描ききって、悩んで悩んでそれでも答えを出せないということを繰り返していく……これはもう、ありきたりなシナリオの域を越えている
どんどん主人公と同じように美奈が好きになっていくのに、主人公は10年悩み続けた関係から踏み出す覚悟も勇気もないまま、親友が勇気を出すのを見届けることしかできない、だけどそれは、仕方ないこと……プレイ中はとにかく胸が痛かった
これだけ感情移入をさせた時点で、もう既にライター側としては勝利と言えるだろう
美奈ルートの終わらせ方については多分賛否両論あるだろうし、ここも瑛莉が嫌われる一因でもあるのだと思うけれど、自分としてはどんな形にせよ、美奈が最後は笑ってくれていて、主人公が10年間想い続けたことが報われた、という事実だけで満足できる
2.綾ちゃんルート
美奈ルートでは実はこうだったのにね、といった感じで、綾ちゃんとくっついたifルートみたいな感じ
綾ちゃんかわいいからずっと癒しだったよ。清涼剤みたいな感じ。このルートを美奈の前に持ってくる人が多いみたいだけど、自分は我慢できずに美奈ルートから攻略したし、こっちが後で問題ない気もする
3.いろはルート
身体から始まる恋はあるのか?という問いかけ。この字面だけ見ると不純なものに感じるけれど、言い方を変えて「キスから始まる恋はあるのか?」と変えるとロマンチックになる
基本線はいちゃラブ。恋人ではないんだけれども、キスに夢中になってしまって、いろはとキスしまくる。正直ニヤニヤが止まらなかった。小動物っぽいのもすげえ可愛かったし
身体の傷のことや家庭のことについてあっさりと終わらせたのは良かったのではないかと思う。掘り下げすぎて無駄にシリアスにするようなテーマ性でもなかったし、このルートに関してはこれが良い
そして瑛莉の名誉挽回の時。味方につけるとこれほど心強いものはない
4.瑛莉ルート
恋を知らない瑛莉を、恋に臆病になった主人公が落とす、その過程で瑛莉は恋愛について知る。そういう契約をして関係性が始まるのがこの物語
だけれど次第に瑛莉は、自分が恋を知るためだけの天体観測部が好きになり、環境が好きになり、そして主人公が好きになる。だけど好きと言うことができない。それは「恋を知らない」から
恋をするという感覚を知らないまま、主人公が好きな気持ちだけ募っていって、だけれども当初の契約では「瑛莉が主人公に惚れた時点で、主人公は瑛莉をふらなければならない」
……という感じで瑛莉の過去や、瑛莉の空虚な部分が埋まっていく様子だとかが垣間見えて、最後は主人公の対応次第
天体観測部というサークルを、因果応報ではあるけれど失わなければならなくなって、そこで初めて失いたくないものに気づいて……という流れはなかなかじんわりきた
TRUEルートでは主人公が契約どおりの結末を嫌がって、瑛莉に好きだと言い、関係性を終えずエンド
……と思ったらエピローグからがすごかった
主人公と瑛莉、さらに今までの登場人物達も含めてのその後50年を超える未来の話を、ラフCGとはいえかなりの枚数を使って描写
妊娠できる確率がかなり低くなってしまった瑛莉に、奇跡的に子供ができて、そこからつながっていく家族や友人達との関係
そして、お互いもう長くない時期になってからの瑛莉の一言
ここでもうボロ泣きだった。正直そのセリフが出る前から、「ああ次にあの一言を言うんだろうな」と思っていたのに、分かっていたのにも関わらず、涙が出てきて止まらなかった
そして最後の望遠鏡のシーン……ここまでの一連の流れは卑怯すぎる
こんなルートを最後の最後に見せられたら、高評価をしないわけにはいかないじゃないか
5.佐藤さんルート(エクストラ)
佐藤里沙というヒロインは特殊なヒロインで、公式のキャラクターページにもパッケージにも、さもメイン格のように描かれているのに、通常では攻略することすらできない
しかし、佐藤さんの各個別ルートでの活躍ぶり、及び名言の連発ぶりは凄まじく、それでいて主人公に真っ直ぐで純粋な好意を向けながらも必然的にふられるという立ち位置もあって、全ルートをクリアしていく中で、佐藤さんというキャラクターへの感情移入の度合いは、主人公に対するそれと同じくらいか、下手をするとそれよりも大きいくらいになっていた
それが報われるのが、この全ルートクリア後に現れるifのルート。佐藤さんという存在の偉大さと、佐藤さんというキャラクターの可愛さを知っているのならば、この「何も起きないけれど、何も起きないからこそ順当に主人公と佐藤さんが結ばれて、佐藤さんのひたむきさが報われる」というルートをプレイしない手はない
各ルート毎の感想が長くなったが、全体についての評価をすると、瑛莉ルートがとにかく素晴らしいので、正直あのルートだけでも高評価をできるくらいではある。自分は更に、美奈という妹を可愛く思えたことに加えて、主人公にしっかりと感情移入できたことから、もう少しだけ高い点数にした
引いた部分としてはまず、色々なレビュアーの人も言っているが、テキストミスやボイスの割り振りミスが多すぎて目に付くという点。あとは、佐藤さんにはやはりまともなルートくらいあげてもよかったなあという点。減点箇所はこの2つくらい
一言感想に書いたとおり、主人公の悩む様に感情移入できない人や、佐藤さんと結ばれるシナリオが最後の最後まで読めないことに我慢できない人、そして何より、とても癖のあるキャラでありながら、この作品の中核を担う美汐瑛莉というキャラクターを許容できない人は、ここから大幅に点数が引かれるだろうことは想像に難くないので参考にして欲しいところである