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greatyoshidaさんの運命予報をお知らせしますの長文感想

ユーザー
greatyoshida
ゲーム
運命予報をお知らせします
ブランド
ヨナキウグイス
得点
90
参照数
733

一言コメント

フラグ管理系恋愛ADVユーザーは必ずやるべき作品。言いたいことの賛否はあれど、エロゲーに内包される問題点を浮き彫りにしており、そしてそれに対して綺麗事でなく率直な言葉でもって断罪しようとしてくる。長文は雑多な考察につき注意

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作は4ヒロインに対して分岐が3つ、つまり

・光ルートに入るor光を振る
・夕紀ルートに入るor夕紀を振る
・観月ルートに入るor夏帆ルートに入る

という構成になっている。通常のフラグ管理型エロゲーとは若干異なるが、こういうタイプの分岐の仕方は別にそれほど珍しくもなく、本質の部分も変わらないと言えるだろう
要は「4人のヒロインから誰を選ぼうか」、という話になるわけで、通常エロゲーを攻略する上でもSLG型のエロゲーでもない限りは似たような形になるはずである

この構成の何が問題なのかは、作中でメインヒロインである篝火夏帆が端的に述べている。夏帆はルートに入り、自分に告白してきた主人公に対し、こう話すのだ

「――あなたは本当に、私のことが好きなの?」
「あれでもなく、どれでもなく、誰でもなく。そして――私?」

主人公の恋に本質的な何かがないということを問いかけてくる。
ここで冷静にユーザー目線から考えるとこの指摘にも頷くことができる。主人公は夏帆のことを最初から気にかけていて(そもそも初恋の相手だった)、だけれども光や夕紀、観月などの他のヒロインと接近し、そして離れてという行為を繰り返している。最後の「分岐先」として見れば、それはこれまでの選択肢を全部切り捨ててきた結果、残った相手のところに来た、と考えてしまっても仕方がない
「それでも自分を好きでいてくれるのならばいいじゃないか」と言われてしまうかもしれないが、更にここで致命的なことに、主人公が夏帆に対して幼少期に一度目の告白をした際、そこに主体性がないことが夏帆には既にバレているのであった。結果、夏帆は好きな相手からの告白にも関わらず、主人公を振ってしまう

本来エロゲーユーザーがまるで問題にしようともしてこなかった問題点がここにあることは明白である
好感度積み重ね系ではなくフラグ管理系のエロゲーは、つまるところ的確な箇所でセーブをしておいて、その地点から正確に選択肢を選んでいくことで全ヒロインを攻略できてしまう場合が大半である。この場合において、セーブする以前に関しては何ら関係がなく、つまりヒロインAとヒロインBを攻略する際の分岐の前段階が一緒でも何ら問題ないということになる。恋愛に対して主体的・本質的なものを必要とするならば、そんなことが許されていいはずがない

その意味では、ある種昔の主人公の行為は酷い行為ではあるが、理にかなった行為であると言うことができる。この主人公はなかなかに歪んでおり、そのことは作中にて明らかに悪役として配置されている帚木景色の発言及び主人公自身の独白中において明言されている
この主人公は完全無欠なヘタレ主人公であり、しかも過去は非常に打算的かつ利己的な人物であった。
そのひどさたるや恐るべきもので、本作はヒロイン4人中3人が昔からの知り合い(覚えているいないは抜きに)であるのだが、その3人全ての人生にこの主人公が悪影響を与えているのである。恋愛観を歪められたという意味での夏帆については、8割方帚木先輩の影響なので仕方ないにせよ、観月と光については100%の純度で主人公が悪く、特に光についてはその後真っ当に生きていくことが難しくなるような歪められ方をしてしまっている
そんな主人公が行った行為であるが、彼は意中の相手である夏帆を射止めようと、その友人である観月に目を付け、夏帆と近づくことだけを目的として観月に近づいたのであった。当然褒められた行為ではないし、事実観月はこれが原因でありもしない幻想を主人公に抱いてしまうことになるのだが、少なくとも「主人公が篝火夏帆というヒロインを一直線に想う」という意味合いで捉えれば、まだ優柔不断な現在の主人公より遥かにマシであると言える
しかしこの主人公がやはり決定的にダメなのは、ここで観月と関わる内に観月に対して情が芽生えてしまい、結果観月との関わりを投げ出してしまうことである。それもただただ後ろめたいという理由だけではなく「この関わりの継続によって、自分の夏帆への想いが揺らいでしまう可能性が怖い」という自分勝手かつ優柔不断の極みとも言える理由も多分に含まれている

ここまで主人公の問題点を長めに語った。お分かりの通り、この主人公のダメさが物語のキーとなっており、それを解決に導くのが篝火夏帆ルートになっている。しかし、最初に述べた通り、この問題点とはフラグ管理型エロゲーユーザーが遍く抱える問題点であり、他人事だと笑うことができる状況にはない。
この物語を通じて伝わってくることは「恋愛をする上で必要な真剣さと主体性を考えなければならない」ということである。この「考える」ということが非常に重要だと私は考えており、通常エロゲーユーザーには主体性こそあれど、主人公が恋愛をするということについて考える行為が圧倒的に不足していることに気づかされてしまった。夏帆の言葉を借りるならば、「受動的な感情」を「愛とは呼ばない」のであろうと、そういうことである


考察が長すぎたので、他の評価点も述べたい。もちろん、先述した恋愛に対する考察をさせるシナリオについては大満足であり、荒削りであったり賛否両論あったりする点も含めて高評価をしたい内容ではある。そこに加えてもう一つ評価をしたいのは当然、この物語を彩った圧倒的に個性的なサブキャラクターである帚木景色と、そしてむしろメインヒロインとも言える早蕨林檎の存在である

本来の意味でのヒロイン4人はどれも魅力的な人物であり、夕紀の良い意味での普通っぽさや光の盲目的な依存、観月の弱々しい部分と清々しい部分を併せ持つ所、夏帆の王道的でいながら根深い悩みを抱える姿など、特筆するべきところはあるのだが、最近のエロゲーと比較するとやはり尖った部分は少ない
そこで、先述の2人が出てくる。当然単なる脇役ではなく、帚木先輩は主人公やヒロインを「否定」する立ち位置として、林檎は主人公を「許容」してあげる立ち位置として出てくる。この対比が巧く機能していて、お互いに「主人公」と「ヒロイン」という立場には絶対に乗らないようにしながらも、主人公には積極的に関わってくるのだ。しかし、2人が決定的に違うのは、帚木先輩が「夏帆ちゃんへの愛情」を原動力に動いているのに対し、林檎は「主人公への愛情」を原動力に動いている点である
帚木先輩が夏帆に対して何となく好意を持っているだろうということは、雰囲気から何となく伝わってはきた。それが本心なのか、本気なのかは怪しいところではあるし、現にラストの林檎との会話においてそんなことを匂わせている
しかし林檎が主人公のことを好きということは、申し訳ないが明言されるまで感じ取ることができなかった。これは単に私が鈍いだけかもしれないし、林檎が「そうならないようにしていた」ということも相まっているのかもしれないが、ここには本当に驚嘆させられた
結局林檎は、どこまでも主人公のアシストをし、主人公が林檎との関係性を満更でもなく思っていることまで理解していながら、最後の最後まで主人公に自分の想いを見せず、弱みも見せず、選択肢すら与えなかった。ヒロイン勢にですら、その好意を看破されたのは観月のみである。この深い愛情には恐れ入った。作中終盤、つまり夏帆ルート終盤は、夏帆ルートであることを忘れて林檎の想いの深さにひたすらため息をついていた。それだけ林檎の存在は重く、林檎の想いを感じ取ることだけでも本作を読む意味がある
対して、帚木先輩は「意中の夏帆が自分と結ばれないくらいなら、誰とも結ばれない方がいい」という極めて利己的かつ潔癖的な、それでも一途な歪んだ愛情でもって、作中の様々な関係を歪めにくる。その暗躍っぷりはまさしく「悪役」の二文字がふさわしく、帚木先輩に共感できるような部分はほぼ0と言っていいだろう。しかし0ではないのだ。帚木先輩が作中で主人公やヒロインの甘えた部分を、鋭い言葉で断罪していく。そこにあるのがいくら利己的な理由であったにせよ、その言葉は飾る部分などない、帚木先輩に言わせれば「真実のみを口にした」内容であった。帚木先輩の意図はどうあれ、主人公や我々ユーザーが考えようとしなかった問題を考えなければならなくさせた、という功績は大きい
それに、確かに大きく歪んでいたとはいえ、彼の篝火夏帆への愛の深さもまた、それなりに大きなものだったのだろうと私は考える。でなければ、誰が自分の使えるだけの能力と時間を費やして、主人公との恋愛の可能性を摘もうとするだろうか?この点に関しては迷うことなく尊敬に値すると私は思う
そして、こんな想いの深い二人だからこそ、終盤に放課後の教室で対峙するシーンは興奮したし、そこで今までにないくらいの本気度で啖呵を切る林檎のカッコ良さに打ちひしがれた。サブキャラクターのみの会話でここまで盛り上げられる作品はそうないと思う

しかし評価できる点だけではない。他のレビュアーの人も言っている通り、やっぱり絵と誤字に関してはどうにも目立ってしまうし、この時世において音声ズレが修正後も残ってしまうのはやっぱり致命的だと思う。そして必要なこととは言え、やっぱり主人公の本質的な部分のクソさがなあ……いや、格好いいところもあるんだけれども、それを差し引いてもね……
あと、作品の性質上仕方ないことではあるが、全クリをする上では必ず「3人を振る」ことが必要になるわけで、これが結構キツい。特に光と観月が好きな人は、主人公のクソさも相まってかなりキツく感じるかもしれない。そこはきっと狙ってやっていることだとは思うけれど、もう少しだけケアが欲しかったかなあ