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gorira431さんのそして明日の世界より――の長文感想

ユーザー
gorira431
ゲーム
そして明日の世界より――
ブランド
etude
得点
90
参照数
635

一言コメント

全てに意味がある

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

やっている最中はかなり退屈なシーンも目立ち思うように進みませんでしたが、トゥルーをやり終えるとようやく全貌が見え、目頭が熱くなりました。


この作品に無駄なシーンは一切ありません。なぜなら、登場人物が全員死んでいるからです。しかし、それは個別やノーマルエンドでは言及されることはあれども、現実味がないまま幕を閉じます。これから死ぬのかあくらいです。初めて意識されるのは、トゥルーの現状と合わせて、最後の一枚絵が出てからです。
 

不思議なことに、その楽しそうな写真を見ながら、写っている人物全員が死んだと認識した瞬間に、それまで退屈としか思えなかった日常シーンの数々が急に色づいて懐かしく思えました。別に大切なことを話しているわけではなく、大半の会話は数分もすればすぐ忘れるたわいもないことばかりです。それでも、なぜか愛おしい気持ちになりました。おそらく、それはぼんやりとした感覚でしかなかった死が現前化したことにより、彼らの息遣いや力強さ、そして優しさが鮮明になってきたからだと思います。そういう意味では、トゥルーを終えてからが本番の作品と言えるかもしれません。余談ですが、本作のBGM「風野原」を聴きながら色々考えるといい感じになります。
 

ゲーム全体を意味あるものにするのは難しいと思います。本作はその難題を荒技ながらやってのけた数少ない作品です。そして、最後の最後までプレイしないとそのことがわからないのが憎いところです。トゥルーまでは長いですが、決してそこまでの道のりは無駄ではなく、むしろトゥルーを見終えてからこそ真価がたくさん見えてきます。名作でした。また暇があれば初めからプレイしたいです。