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gorira431さんの金色ラブリッチェの長文感想

ユーザー
gorira431
ゲーム
金色ラブリッチェ
ブランド
SAGA PLANETS
得点
76
参照数
472

一言コメント

レイナルートについてとその他の感想

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

レイナルートで、主人公が前の学校を退学した理由を明かします。レイナに膝枕までされて、主人公はワンワンと泣きじゃくるで、このシーンは非常に感動的に仕上がっていますが、個人的には興醒めの結晶を眺めているようでした。


退学した理由は、野球部でのいじめだと吐露されます。
経緯はやや面倒ですが、だいたい以下の通りです。


①吹奏楽部の一部が参加予定だった軽音楽のコンテストの日程が野球部の試合の日と被る

②監督が伝統やら精神論を盾に吹奏楽部は野球部の応援に全員で来るべきだと主張する(一応、監督は後援会がどうとかで難しい立場であったということがほのめかされてはいる)

③主人公がそれに納得できず、考えを改めるよう監督に直訴する

④監督の癇に障り、主人公が干される

⑤主人公はキャッチャーであり、チームのエースで主人公の幼馴染でもあった島が、主人公の不在の不安や違和感からか極度のスランプに陥る

⑥試合当日、結局吹奏楽部全員はスタンドに連行され、島もスランプから脱出できないまま、チームは大敗を喫する(主人公は干されたまま)

⑦主人公が無駄な行動をしなければ良かった、と部員が悪態をつき始める

という感じです。


とにかく問題点が山積みなんですが、一番は、エースが調子を落としたのに、主人公を復帰させない点でしょう。意味がわかりません。部員と監督はずっと夢でも見ていたのでしょうか。


また、キャッチャーが変わった程度でスランプに陥る島くんにも重度の問題があります。作中では、大谷翔平選手を彷彿とさせる語り口で描かれているし、負けたのはたかだか地方予選の一回戦なので、いくらスランプでも流石に勝てるはずです。


監督に干される原因となった吹奏楽部の一件については、何よりもまず、主人公が直談判しに行くような話ではなく、吹奏楽部が職員室に押しかけて先生方に憤激して抗議するのが筋です。それくらい監督の主張は暴論です。論理のへったくれもありません。暴論過ぎて、どこがどう暴論であるかを説明できないくらいの暴論です。これを、はいそうですか、と盲目的に受け入れる方がどうかしています。まさに無理が通れば道理がひっこむで、こんなことはそもそも罷り通らせているのがおかしいのです。その意味では、主人公以外に誰もその点を突っ込む人物が見当たらないのもおかしな話です。


主人公が干されてから試合当日まで何をしたかについてが、本編ではごっそり語られないことも問題点の一つです。試合当日まで日数はあったはずなのに、ずっと意気消沈して沈黙を貫いたとでも言うのでしょうか。監督に直談判する気概があるのなら、もっと別の働きかけを試みるのが至極自然に思えます。少なくとも、他の先生へ事態の理不尽さについて訴える事くらいはできたでしょう。ちなみに、このことは、他部員や島くんについても同様に言えることです。野球部が、主人公が干された瞬間から試合当日まで、まるで時間が凍結したのかと思えるくらいには動かなくなるのです。


この経緯でなぜ主人公に対してヘイトが向くのかも大いに謎です。まず、主人公の、監督に直訴するという行為は、賞賛されるべきというよりは、常識のど真ん中です。青信号で手を挙げて横断歩道を横切っているのと変わりません。それくらいまともな行為に逆ギレした監督がそもそも諸悪の根源です(その論理で行くなら、吹奏楽部があるいは一番悪いかもしれません)。また、百歩譲ってそれを受け止めるとして、島くんもかなりの責任があります。繰り返しますが、地方予選の一回戦です。島くんは、160kmの球を投げられるし、ホームランもよく打ちます。そんな奴が、キャッチャー一人が変わった程度で打たれて打てないでは、メンタルが虚弱にしても程があります。そして何よりも、エース一人の不調を穴埋め能わず、地方予選一回戦で為す術もなくやられてしまったチームの脆弱さを小突いてみたくなります。そのことを思い当たる部員はいなかったのでしょうか。そのことが少しでも頭を掠めれば、主人公が悪いなどという安易な結論は早々にちんけであると理解できるはずです。


最後に、主人公が悪者にされるという状況を許容したとして、なぜこれが退学へと繋がるのかが腑に落ちません。自分は、主人公に落ち度は全くないと思います。先述のように、主人公のしたことは、青信号の横断歩道を横切るのと同じです。もっと自分の正統性に自信を持つべきです。それを断罪されるようなら、秩序の崩壊と同義です。その点において、主人公を擁護する声も一定数は確実に出ると思うんですが、本編を見る限りは窺えず、これも自分にはわだかまりとして残っています。それに、百歩譲って野球部の退部でしょう。わざわざ退学する大仰さの根本がよくわかりません。


以上が主な疑問点でした。自分としては、ガバは多少あっても問題ないと考えていますが、このシーンが、さも主人公にとっての不幸すぎる悲劇であって、恰も癒えないトラウマ的要素を帯びているという描き方や、自責の言葉を並べながら涙する主人公、それに主人公を悪くないと膝枕までして慰めるレイナの様子が、全く受け入れられませんでした。そもそもの経緯が空々しいのに加えて、そんな空々しい事柄に基づいて主人公が泣いていたり、レイナが慰めたりというのが、また一層空々しく、それ以降の本作への熱も一気に失った程でした。私って可愛くないよね、と宣っておきながら、実際は可愛いという言葉を大いに期待している某のような、そんな徹底的な空虚さが自分を襲ったのです。重箱の隅をつつくような点で作品をダメ!だなんて言いたくはないのですが、本作のこの場面に関しては、無視することができないくらいには受け付けませんでした。感情的に、有り体に言えば、「気持ち悪い」という言葉に全てが集約されます。経緯だけならガバガバですが、許容できました。その上に、涙やら慰めやら悲哀を乗せたのが、本当に気持ち悪かったのです。


余談として、レイナとの初のHシーンについても、当時呆れ返りました。部屋に媚薬的なものが充満し、部屋に隠れていた別の女を交えて3pをする、というのがそれに当たります。その後、中出しを決められたレイナが孕んだかもしれないと言い出し、それがきっかけとなって、主人公とレイナはめでたく恋仲へ発展します。色々とこの展開に意見はあると思いますが、3pして中出しして孕んだかもしれないから付き合おうというのは果たして正気の沙汰か?、と当時切に思ったのを覚えています。真面目にこのようにしたとしたら、自分としては受け入れられないもので、ギャグでやったとしたら、頼むからもっと真面目な展開にしてくれ、と言いたくなります。自分にはこのシーンが、どうにも、ただただやっつけ仕事をしたとしか思われず、それが興醒めした要因です。本当に理解不能だったのです。これも、本作全体へのやる気を削ぎ落としました。


理亜ルートについては、一点だけ個人的な見解を言うと、作品全体としての調和として見た時、若干浮いているなと思いました。特に、本作の日常BGMは明るい基調のものが多く、またそれらは概してあまり悲しげな感傷的要素を含んでいないため(具体的に言えば、「秋空風に乗って」、「ノーブルたれ」、「September garden」、「ordinary day」など)それらの曲群と頗る相性が悪かった印象です。明るいBGMが流れてるけど、理亜は死にかけているという取り合わせが壊滅的でした。悲しいBGMがないわけではないんですが、自分は、明るいBGMに対する違和感を取り去れませんでした。だから、もしも理亜ルートを中心に据えるなら、作品全体として、感傷的要素をもっと多く打ち出した方が具合は良かったのではないかと感じました。


ダサい余談として、理亜ルートのラストでいかにも泣かせようと畳み掛けて来る演出を、絶対に泣くわけにはいかないという決意で見つめる自分がいました。レイナルートのあの粗雑さがどうしても頭を過ぎり、そんなゲームでは泣きたくないというプライドがとうとう邪魔をしたのです。基本的にのーてんきにプレイしているので、過去の場面など大抵覚えていないんですが、本作の場合は、執念深く記憶されていました。


ともかく、レイナルートの膝枕の場面に囚われたゲームでした。全体をやり終えても、やはりその点に関して全く釈然としない感は払拭されず、感動よりもそのモヤモヤが本作を考えた時真っ先に意識されます。それくらいには、悪い意味で印象に残りました。BGM、歌、CG、声優などはどれも高水準だったと思います。あんまり印象的な曲はないなあとか思いながら、結局サントラは買ってしまったので、シナリオと自分との相性が悪かったにしてはそこそこ楽しめた感じです。期待を下回った出来だったのは確かですが、酷評で埋め尽くすほどの作品でなかったのもまた事実です。上で語ったレイナルートの膝枕の場面が特に問題とは思わない人は、きっと楽しめるでしょう。