雰囲気の良さとシナリオの良さを混同しちゃいけない
BGMがとても良かったです。水月さんは本当にハズレのない素晴らしい曲ばかりお作りになられていて、すごいと思います。
賛否両論ある本作ですが、シナリオの整合性以上に、作品が醸し出す雰囲気が最高に好きだったので、雑さとかはあまり気になりませんでした。ある意味、エロゲでしか出せない雰囲気だったように思えます。BGMやCG、加えて曲が良ければ、シナリオの出来自体はそこそこでも、見栄えや印象は良くなるということを体現していました。現にもはや終盤の展開はほとんど覚えていません。
真っ昼間とか、真夏にやってはこの作品の良さはあまりわからないでしょう。真冬の深夜に、外で降る雪を眺めながら、こたつにでも入ってプレイしてみると、見方が180度変わって、感傷的にプレイできる人も増えると思います。程よく寒いとなお良いです。松尾芭蕉の有名な俳句に、「閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声」なんてものがありますが、本作を楽しむには、こんな態度が必要だと感じます。その面を考慮すると、蟲師のようなアニメが好きな人にはたまらない作品に違いありません。
上記は完全に主観なので、色々と疑問点もあるかもしれませんが、要は先の雰囲気を楽しめるかどうかが本作の評価を分ける分岐点だと思います。つまり、シナリオが面白い!と聞いてやった人にとっては、雰囲気面にあまり目が行かず、低評価になり、逆に前評判を聞かずにプレイした人は、雰囲気の良さがシナリオも良いと錯覚させ(個人的には普通に面白かったですが、真実は不明です)、今のような評価に落ち着くというわけです。端的な結論を言えば、本作は雰囲気頼りで、肝心のシナリオもその雰囲気に依存していたというところでしょうか。別段悪いこととは思いませんが、拍子抜けする人が多いのも納得できる気がします。
結局、雰囲気に対する評価がいつの間にか、作品全体に対する評価へと置き換わった結果、色々と面倒になったというのが本作を形容するにふさわしく思えます。つまらないわけではなく、単純に雰囲気が良いからこそ、シナリオもいい感じに見えてくるのが本作です。その過程をすっ飛ばして、シナリオが良いという側面に目を向けても、その状態では作品に入り込めていないと思われるので、低評価に落ち着くのも極めて自然に思えます。入り込んでなお、つまらないという結論なら仕方がありませんが、本作のポテンシャルは間違いなく、雰囲気、つまりは、BGMやCGなどのシナリオ外の側面に散りばめられているので、その点を考慮しないのはもったいないです。
とにかく、水月さんの音楽が素晴らしいということを再確認できる作品には違いありません。あとは好き嫌いの問題になってくるので、断定的なことは言えませんが、自分はすごい好きな作品でした。何よりも、BGMの可能性について考えさせてくれる点が嬉しかったです。そのあたりの要素を含めてエロゲなんでしょう。