長い 雰囲気は良い
とにかく長い。一応、それぞれサブヒロインのルートに本筋に関わるような伏線を仕込ませるという工夫があるとは言え、正直、サブヒロインの個別の必要性はその一点しか無いように思えてならなかった。先生のルートなんか特に若干のヤケクソ感を感じた。ED後の二人が棒立ち担っているCGを見て、すごく悲しくなった。そこまでやる気がないのなら、却って作らない勇気もまた偉大だということを知った。エロゲは文庫本のように、すぐに前のページに戻ることができない。だから、数日経過した後に続きを始めると、一体何の話をしていたかについてはもう漠然としてしか覚えていない。そんな媒体で、ただ作りましたというようなお話を眺める苦行は、ただの害悪に止まらず、もう何で良いよという諦観を惹起し、ともすれば作品全体へのやる気を著しく損なう恐れがあるという危険性は、見逃すべきではない。現に自分がそうだった。攻略サイトを調べたら、先生のルートは別にシンセミアルートに必須ではなかったことを知って悲しくなった。
「星空のメモリア」をプレイした時も思ったが、作品の大きな謎を最後に持ってくるという構造のあまり、そこに至るまでのヒロイン攻略の過程が半ば義務化されて、至極退屈な時間を長時間強いる姿勢は如何なものかと思う。その過程が面白かったら許せるが、無駄に長い応酬かつ数分後には恐らく覚えていないだろう無味無臭の会話であるために、容赦無くプレイヤーの集中力や気力・活力を奪っていく。妹周りの話は気合が入っているだけに、余計その辺りの冗長さは目立つ。単純につまらないとか退屈というよりは、早くメインディッシュを出せ、という気持ちに近い。無駄話をして時間を稼いでいるというような、身も蓋もない感想を抱いた。もちろん、その退屈な過程を描く必然性は理解できるにしても、本作の場合、そのスパンがあまりにも長くなるという事情は予めある程度は考慮しておくべきだと思う。映画ならせいぜい1、2時間で済む前振りを、たっぷり10時間くらいかそれ以上本作は費やして実行している。もうその頃には、大半のプレイヤーの心は離れていてもおかしくはない。そんなにゲームに気持ちを傾注できる余力を持つ人間は多くない。退屈とわかり切っている時間を過ごすのは、人間の本能的に心苦しい。期待感や興味を抱こうにも、早々に潰えるのは分かり切っている。
本作の問題点のもう一つの問題点は、引きが少ない点にある。不穏を感じさせる場面が少ないと、換言もできる。プレイしていても、謎がほのめかされるばかりで、もうひと押しが足りない。その謎についても、酷く迂遠な言い回しで、明言するつもりがないなら言うなという気持ちになる。山童襲撃シーンは不穏ではあるものの、山から降りてくる危険性はないので、イマイチ怖さに欠ける(無差別攻撃を開始したら、それはそれで別ゲー感は否めないが……)。個人的考えだが、エロゲと空気的に不穏な描写というのは、結構食い合わせが良いと思う。クロスチャンネルなんかは、その空気的に不穏な感じが全面で展開されている傑作の一つで、あるいは、ever17もその辺のほのめかしはうまかった(Traum in der Dunkelheitは不穏曲として名曲)。変わった例で言うと、車輪の国なんかも、法月がこの役割を果たしていた。こいつが出てくるだけで、良くないことが起こりそうな印象をプレイヤーに与え、画面が引き締まった。エロゲは長丁場なだけに、こういうシナリオの本筋でないところに起伏を設けておくことで、効果的にプレイヤーの眠気なり退屈感なりを振り払うことができる。本作は、その辺の引き締めが思うにゆるゆるだった。ゆるゆるな画面のまま、思わせぶりな発言を聞いても、正直集中することは難しい。基本的にギャルゲー路線の作品であるから仕方がないのかもしれないが、大半の時間を、真相を明らかにしない伏線の時間として費やす以上は、何らかの引き締めが欲しかったとは言わざるを得ない。とは言え、この指摘は、私的嗜好が多分に含まれているところもあるので、一概に悪い点とは言い難い。その緩さが良いのだと言われたら、それもまた事実だと思う。
まとめると、本作はどうにも蛇足部分が多過ぎる。描きたい部分が妹関連であるにも関わらず、割合長い時間を、それ以外のお話に拘束するので、どういう伏線なり言及なりがあったか、とうに忘れてしまう。代わりに、画面で展開される無味無臭の会話に顔をしかめていた。前述したように、ボリュームを持たせるための時間稼ぎが作品全体に施されているような具合で、それはもう本末転倒ではないかとさえ感じる。「そして明日の世界より」では、作品のほとんど冗長な長さというのが、一種の感動に転化される構造だったのに対して、本作はそういう効果も薄い。達成感よりもやっと終わってくれたという安堵が先に来た。もっと焦点を絞って、シナリオ自体をタイトな作りにした方が、少なくとも話は理解しやすくなったと思う。あるいは日常シーンをもっと面白くするか、もっと不穏な場面を挿入するか。いっそのこと、さっさとシンセミアルートをさくや攻略時点で解放するのも手だったと思う。味気ないと言えば味気ないのは確かだが、かといってその白眉に辿り着く以前に完全にやる気を喪失させたら、それはそれで大失敗には間違いない。
本作のBGMは結構良かった。曲を聞きたいがために文章をしっかり読もうと思う時もあった。例えば、「御奈神村」。夏感と田舎感と歴史感と神社感の全てが一曲の中で体現されていて、出色の出来だと思う。注意して聞くと、本曲の1m50sと2m20sくらいに、大型トラックの発進音的なSEが挿入されていることがわかる。これが個人的に、本作でもっとも感動したところで、これだけで、上でくだくだと述べた大部分は許せる。誰のアイデアか知らないが、本当に素晴らしいアイデアだと思う。こういう気づくか気づかないか微妙な、些細な部分への配慮こそ、作品の作り込みが感じられて嬉しくなる。
逆説的に言うと、別段シナリオに重きを置かない人だとしたら、田舎感や夏感を体感できる雰囲気エロゲとして、本作は非常に良い線に到達している作品だと思う。「御奈神村」以外にも良曲は存在するし、CGは良い感じの田舎が演出されているし、個人的に壺だったのは、環境音について。川に行くとしっかり、川の環境音が流れる。至極当然の演出には間違いないが、やっぱりせせらぎは良いなと思った。完全に個人的感想で申し訳ないが、作品世界に川が出て来て、せせらぎが聞こえて、という設計が好きだった。この点は、論理的に説明することができない。こういうのが好き、以上のことが言えない。のどかな感じが良いのかもしれない。割と本作では、川がよく出て来るので、川好きにはたまらないところが少なくない。環境音がアブラゼミの鳴き声だったり、ひぐらしだったりと、使い分けも意外に細かくなされている。
シナリオについては、色々と小難しい点や忘れた点が多くて、正直あまり把握できていない。Opが結構なネタバレをしていたのだということは理解できたので良しとする。もうあの量をやり直す力は残っていない。あと、オールクリアが推奨されているが、あまり胸を突かれるような感動とかはなくて残念だった。焦らされすぎたのかもしれない。
総じて、シナリオ重視だとがっかりで、雰囲気重視だと合格、大体こんな感じの作品だと思う。期待以上の面白さはなかったが、それ以外は大体良かったので概ね満足した。エロゲ特有の登場人物は全員18歳以上です云々というお決まりの文言が、本作の場合、ほとんどヤケクソみたいになっていて面白かった。このことを書いて、結びとしたい。