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gorira431さんのWHITE ALBUM2 ~closing chapter~の長文感想

ユーザー
gorira431
ゲーム
WHITE ALBUM2 ~closing chapter~
ブランド
Leaf
得点
90
参照数
1055

一言コメント

かずさエンドについて

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 かずさエンドは問題大有りだと思っています。理由は後述します。ところで、このエンドに至るまでの過程は主人公にとっても雪菜にとっても悲惨なものだったに違いありません。主人公は親友、職場、雪菜の家族から見放され、それでもかずさを守るために、必死で奔走しますが、結局、かずさの母、曜子さんにまでも軽く見放されます。絶望という言葉では表せないほど主人公は苦痛していたことでしょう。雪の演出やBGMが悲嘆を物語っていました。


 ただ、この男に同情できるかとなると話は別です。普通に考えて、彼の行為は不倫といっても差し支えがないクズ行為です。当然、あのくらいの痛みを味合わなければ、かずさとの関係は手に入れられないはずです。場面場面、主人公をかわいそうだなと感じていながらも、ざまあみろという気持ちがあったのは無視できません。
 また、一連の周りからの失望は、雪菜を裏切るという、全て主人公の身から出た錆であるために、主人公がとても滑稽に見えました。この後、かずさに裏切られるなんてルートがあれば最高に面白かったと思います。よくよく考えると、雪菜さんばかり絶望している話だったので、ワンルートくらい主人公に多大なトラウマを与えるのもありだったんじゃないでしょうか。


 話変わって、最大の被害者、雪菜の登場です。雪菜は主人公の裏切りによって多大な被害を被りました。生憎、かずさルートでは雪菜視点が存在しないため、明確な心情は把握しかねますが、主人公やかずさの視点から見て、いかに雪菜がぶっ壊れていたかは容易に理解できると思います。あれだけ仲よかった家族に当たったり(しかも主人公をいじめるのは許さないという理由で)、主人公とかずさについていくと無理な要求をしたりと、見ているのが辛くなりました。考えてみると、結婚前提で付き合っていて、家族にも友人にも仲を認められている相手を、その相手が昔好きだっただけの女に突如としてかっさらわれるわけです。狂うなという方が無理な話だと思います。上げて落とすという言葉がありますが、彼女はまさにその言葉通りの体験をしたのです。バンジージャンプでもここまでの高低差はないでしょう。彼女の行動は極めて当然の成り行きであったと言えます。


 しかし、あのような状況になった一端は雪菜さんにもあると思います。一番致命的なのが、全然主人公に連絡しないことです。さっさと連絡しろよ100回くらい思ったんですが、願いが叶うことはありませんでした。あの辺が事態をややこしくした行動の一つだと自分は思っています。いつも見ているよとか信頼してるからねとか送っとけば、よかったんじゃないかと思います。メンヘラっぽいですが、雪菜さんは元々メンヘラなので、問題はありません。

 
 ちょっと余談&愚痴になりますが、codaのルートには一切かずさを無視するルートが存在しないです。一応、ノーマルエンドはかずさを捨てたと解釈できなくもないですが、思いっきりかずさを忘れない的なことをエピローグ部分で言っているので、完全な切り捨てエンドとは言えないでしょう。かずさ切り捨てエンドをすごい期待していた身にとってはそこが少し、いやかなり残念でした。あれだけ何人もの雪菜が犠牲になっておきながら、最終章にぽっと出のかずさはどのルートでも明確に不幸にはならず、挙げ句の果てに幸せになるルートも存在するという、なんだこれ状態です。ゲームも商業ですから仕方がないんですが、どうにかならなかったんでしょうか。この辺は雪菜派だからこその肩入れなのでしょうか。

 
 話を戻します。それで、なぜかずさエンドが気にくわないかというと、ハッピーエンド調で終わっているところです。物語はいい感じで終わった方がプレイヤー側からしてみれば、いいのかもしれませんが、予定調和的なハッピーエンドは生憎、ノーサンキューです。このエンドの閉め方は、雪菜は主人公に裏切られてからも強く生きているという旨のビデオレターが主人公とかずさの元に届くというものです。正直、肩透かしもいいところです。なぜ救いのある終わり方にしてしまったのか疑問でなりません。三角関係ものなのですから、もとより本当の意味でのハッピーエンドはありえないわけです。なら、そのハッピーエンドを迎えた側と対比して、バットエンドを迎えた側もしっかりと暗く描くべきです。
 
 
 ic、ccではその辺りが明確に描かれていました。毎度のように雪菜が振られ、雪菜が泣いて、そして主人公の元を去っていくという構図です。悲しい話ですが、誰かを選ぶとはもう一方を選ばないということです。本作のテーマにはそういう部分が盛り込まれていると自分は思っています。だからこそ、なぜ安易な救いをかずさエンドで入れてしまったのか不思議で仕方ありません。何年か経ったから、禊も済んだということなんでしょうか。少なくとも、あれだけ徹底して振って、ボロボロにしてきた雪菜さんを最後の最後でちょっとだけ救うというのは統一感がなさすぎです。最後もきっちりと救わないで欲しかったです。決して、雪菜が嫌いというわけではなく、統一感の問題です。

 
 何より主人公たちも救われているという終わり方というのが気に入らないのです。倫理的に許されざる行為をしておきながら、雪菜は強く生きているんだ、よかった的に終わるのがやめてほしいです(明確な言葉はありませんが)。icに関しては、高校生ならよくある二股劇として解釈できますし(それにしても酷かもしれませんが)、ccに至っては主人公と雪菜は元恋人いう関係性でしかないので、主人公が他の女性へダイブすることに問題は一切ありません。しかし、codaでは雪菜との結婚という周りからも認められた既成路線をぶち壊して、主人公は昔の女を取りに行ったわけです。状況が全く違います。九分九厘、叩かれても弁解のしようがない行為を主人公は働いているわけです。なのに、いやーこの娘選んで正解だわーという終わり方にどうも納得できないのです。雪菜がぶっ壊れた状態のビデオレターならまだ納得できたんですが。


 あれだけの目に遭ってきたのだから最後くらい雪菜は救われたっていいじゃないかと考える人がいるかもしれませんが、何度も言うように、あれだけの仕打ちを受けてきたからこそ、最後まで、雪菜はボロボロにされるべきなんです。でなければ、本作の、どちらかを切り捨てる悲しみというテーマ性が失われてしまいます。なんだ、強く生きてんじゃんで終わってはダメなのです。しかも結婚まで匂わせておいて結局、別の女と結婚するというクソのような所業をした主人公に対して、雪菜が許しを与えてしまうと、ic、cc内での雪菜の涙が茶番化してしまうわけです。あそこまでの裏切りを受けても数年そこらで完治しちゃうんだなと。あれだけの裏切りも時間が解決しちゃうんだなと。浮気助長の作品なのかと思ってしまいます。


 繰り返しになりますが、本作のテーマ、ストーリーからして、後味よく終わることは不可能です。なのに、スッキリ爽快と言わんばかりにハッピーエンドをねじ込んでくるのは違和感を禁じえません。不幸になる者と幸福になる者、その両者を明確に区別して、終わりを描いて欲しかったです。安易なハッピーエンドではなく、救いのないエンドのほうが本作に関しては、よほどしっくりきます。自分があまりかずさを好きじゃないというのも、上記のようなヘイトを集めた理由なのかもしれませんが、それを差し引いてもかずさエンドの不自然さは消えないと思っています。シナリオも、cgもbgmも歌もキャラも全て高水準にできていただけに、かずさエンドだけが本当に心残りです。