よくわからない
全文書き直した感想になります。もう一度、本作について色々考えて見たんですが、やはりどう考えても、シナリオ面は大きく評価できません。というのも、あまりにシナリオの方向性がしっちゃかめっちゃかだからです。1~3章でやっていたこととそれ以後でやっていることがまるで違いました。電波ゲーなのか妹ゲーなのか、前半及び後半の関連性がいまいち見えてこなくて、後半はあまりのめり込めませんでした。高島ざくろの扱いも評価を下げるポイントです。彼女の存在意義が最後までよくわかりませんでした。彼女は前半しか出てこない上、ざくろ視点ではただ自殺までの経過を追うだけという単調なものでした。正直、3章の必要性は疑問です。ただ、「高島ざくろが自殺した」という事件を追っているだけで、目新しい情報が何一つなかったからです。しかも、それ以後ざくろはほとんど登場しなくなります。
そこから考えて見ると、本作は2つのシナリオが存在して、それを1つにまとめあげた結果、齟齬が生じてしまったという作品ではないでしょうか。キャラの移り変わりというのが一番そのズレを感じさせる一端ではないかと思います。前半にしか出ないざくろと後半ばかり出てくる羽咲(ちょっと前半でも登場はします)がそれです。この両者の登場がどちらも一方向に偏っているため、話の関連性がなんとも薄い気がしてしまったのです。同時に、テーマ性の変化も違和感の一つでしょう。前半は、狂気やオカルトが前面に押し出されていましたが、後半では、一転して、妹ゲーになり、話もかなり現実よりのものになってしまいました。前半部分を冗長だと思っていた方々には後半部分は楽しめたかもしれません。ただ、自分は前半部分の方が好きだったので、後半の、趣旨が全く違う展開には頭を抱えました。前半シナリオからどうやったら、妹を守るぜ的なゲームになるのかって話です。全く何がしたいシナリオだったのか終始わかりませんでした。この辺りが、シナリオの方向性がしっちゃかめっちゃかだと思う所以です。
シナリオ自体もよくわからないというのがいちばんの印象です。妙に哲学めいた言葉ばかり出てきましたが、それがシナリオとどういう関連性があるのかと考えると、あまりなかったように思えます。でも、こういう哲学めいたこと言っているだけで、案外シナリオ自体も高尚に見えてくるので、これはこれでありかなと思いました。ちょっと原本をかじったりして見たんですが、あまりに難解でぶん投げました。考察せん固めに、ここまでの疲労を必要とするのかと身体が痛くなりました。哲学的言葉がシナリオに深く関わっていたのなら、もう少しそのヒントが欲しかったところです。言われてるだけじゃ、全然わからないので。
このようにシナリオに関しては、お世辞にも面白いとは言えませんでした。ここまでの大きな物語を構想するというのはすごいと思いますが、それがしっかり話として収まっているかとは別の話です。話がでかくなりすぎて、ライターも途中でよくわからなくなったんじゃないでしょうか。
本作は頭を空っぽにして、BGMとCGを楽しむゲームだと割り切ると、かなり楽しめます。特に、BGMの「夜の向日葵」は素晴らしい。筆舌しがたい情緒があります。エロゲには勿体無いくらいの名曲です。そういう意味で、本作は序章の序章、つまり由岐が屋上から空を見上げているシーンで完結していると言っても過言ではありません。このシーンほど胸を圧倒され、画面にのめり込む瞬間はないです。ゲームの冒頭というのはプレイヤーを引き込むという点で、大きく重要な点となりますが、もしも、エロゲ冒頭大賞なるものが存在したならば、本作は確実に大賞受賞作です。それくらいには素晴らしい出来です。今でも何回か見返しますが、何回見てもやはり美しく、幻想的です。そして、この場面で夜の向日葵が流れるわけです。初見時から鳥肌しか立ちませんでした。絶対神ゲーやと思ってたんですけどね…。
シナリオに関してかなり酷評しましたが、本作には86点をつけました。理由は前半部分が間違いなく面白かったからというのと、夜の向日葵を始め良BGMが多かったから、そしてCGもまた綺麗であったからの3つです。特に、本作ほど良質なBGMを取り揃えているゲームは例がないんじゃないかと思います。シナリオ自体はそうでもないが、他の要素がうまく助け合っている作品です。あまり気張らずプレイするといい作品だなと最終的には思いました。繰り返しますが、「夜の向日葵」は本当に素晴らしかったです。これと同じくらい良いBGMにまた巡り会いたいものです。