「魍魎の匣」のマーケティング
本作自体を否定するつもりはないですが、分岐が多かったり、選択肢をミスったりして、純粋にシナリオが追えない人も多かったのではないかと思います。また、本作は、攻略難易度も高いため、もういいやと途中で放棄した人も中にはいるかもしれませんし、自分は分岐が面倒で、話の大筋が掴めたら、真エンディングを見ることなく満足してしまいました(だいぶ後になってから一応は見ました)。
個人的に、本作から得られる一番のものは、猟奇や狂気の中にどこか惹かれてしまう、自分自身の心ではないかと思います。グロい描写にひいたり、うわーこいつ頭おかしい、とか思いながらも、話自体にはグイグイ引き込まれてしまう、ちょっとした矛盾です。本作は、その部分をCGやBGMなどを駆使して、最大限に表現していますが、先ほど言及した問題により、若干の阻害を受けている感があります。要するに、贅肉のような部分が話に余計な幅を与え、そのことが、シナリオが本来持っているはずの力を減らしてしまっているのです。これは、ノベルゲームという性質上仕方がないことですが、もったいないことでもあると思います。
その意味で、本作を簡潔に一本道で表現したのが「魍魎の匣」になります。ただ、順番的には、「魍魎の匣」の方が世に出たのはだいぶ早いです(そのため、本作は「魍魎の匣」のパクリ云々と議論があるようですが、個人的にはオマージュ作品だと考えています)。この小説には、本作が表したかったであろう、猟奇、狂気の世界が詰まっていました。分岐などに左右されることなく、頭のおかしい人たちの連鎖が味わえます。自分は読み追えて、本作の意図の一端がようやくわかった気がしました。そして、本作のタイトルBGMの「殻ノ少女」の出来が抜きん出ていることにも改めて気がつかされました。元から素晴らしい曲に間違いなかったですが、俄然深みが増しました。そのため、ある意味で、「殻ノ少女」のテーマ曲でもあり、「魍魎の匣」のテーマ曲であるとも言えるかもしれません。
本作を別の視点で捉えることも可能だとは思いますが、個人的には、頭がおかしい奴らの話と考えるのが一番しっくりきます、そして、その考えの元だと、「魍魎の匣」は、本作への評価や理解をより深いものにする不可欠な要素だと思います。かなり分厚いし、読むのも面倒だと思いますが、そういう人には、「殻ノ少女」をリピートで聞きながら、読んで見ることをお勧めします。何はともあれ、自分としては、「殻ノ少女」について、まあいいゲームだったなあと漠然と終わらせた人に「魍魎の匣」を是非お勧めしたいと思います。本作がいかに忠実に、その空気感を表現しようとしていたかが体感でき、あるいは認識がガラッと変わるかもしれません。自分はそんな感じでした。とは言え、これまでの話は、結局、ただのパクリだと糾弾されれば全ておしまいです。悲しいので、そこだけは、どうにかならないかと勝手に思っています。