ErogameScape -エロゲー批評空間-

gonさんのセカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~の長文感想

ユーザー
gon
ゲーム
セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~
ブランド
日本一ソフトウェア
得点
77
参照数
545

一言コメント

今作も正に深沢さんの特色が色濃く出ていた。しかしながら、作業だと感じる要素は拭えないし、過去作と比較して面白かったかと問われると正直微妙・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 深沢さんのシナリオの特色である、何とも意味が分からないまま物語が進行し、綺麗に回収するいつもの手法は今作からも十分感じられた事はとても喜ばしい事なのですが、深沢さんの過去の作品と比較(主に書淫と比較してしまうと・・・)正直物足りなさを感じてしまう。深沢さんの過去の作品を引き合いに出すので、そちらもプレイしようと考えている方は回避推奨です。ついでにこの作品が好きだった方も出来れば回避していただければと思います。

 一番気になったのは、Story⇔Fragmentの行き来が非常に多い事。この作業は物語のあらすじ作成の意味合いがあるのですが、序盤は楽しく感じたこの作業がだんだん面倒になってくる。というか、頻度が多くStoryが途切れ途切れになるので、とてもテンポが悪い。彩野の記憶が15分しか持たない事を考慮すれば、この作りは理に叶っているので、作品としては正しいのかもしれない。だが、私個人の見解では、あまり好きにはなれなかった。

 そして、過去の作品『或いは失われた夢の物語。』『忘れものと落とし物』をあえて作中に表現し、手法を今作に取り入れているのがあまりに露骨過ぎて面白みに欠ける気がした。この部分に関しては、ファンとしては嬉しい事の様な気もするので私の感じ方の方がおかしいのかもしれませんが。

 深沢さんのシナリオはユーザーの想像(創造)に委ねられる方式というのが、最たる特徴であるのだが、この点も今作の印象は正直弱いです。これは『忘れものと落とし物』でも感じたのですが、ユーザーの想像に委ねるという点を否定はしませんが、正直説明が多すぎる(というより、物語がある程度完結している)ので、自由度は低いと感じてしまいます。率直に言えば、想像する楽しみが見出せないといった方がいいのかもしれません。これは単純に深沢さんのシナリオに私が慣れてしまったというのが一番の原因かもしれませんが、想像する楽しみがない。想像する楽しみという点について言えば『書淫、或いは失われた夢の物語。』が一番だったのではないでしょうか?
 今作のポイントである『直哉の死』は覆りませんし、『彩野の後遺症(15分しか記憶ができない)は治る事はない』でしょうから。彩野に関しては若干の変化があるかもしれませんが、解決はしないと言った方が正しいのかもしれませんが・・・
 このストーリーの先を想像する事にどんなに意味があるというのでしょうか・・・?私には良く分かりません。

 そして、サクラが仮に死ななかった物語も少し心を暖かくしてくれるものの、得られた感想はそれだけ。
 千秋の紡ぐであろうこれからの物語も言ってしまえば『夢の物語』である。夢物語を想像する事に意味はあるのかな・・・←この点は自信もって断言できる所ではないので、話半分で聞き流してもらえると助かりますww

 そして何より、『自殺の理由が・・・』オチが合わなかったという点ですかね。どんな事なのかと思えば、要は薬の副作用ということですか。筋は通るし、作品の経過から言ってもとても良く納得できる。現実問題として、薬の副作用は社会問題でも取り上げられているのは、皆様ご存知の事ですよね。そういう意味では、リアリティのある内容でオチとしては恐ろしい程なのかもしれません。だからこそ、評価すべき点なのだろうと、頭では理解していても、感情がそうはならないのです。私の中では、『書淫、或いは失われた夢の物語。』が好きなのです。あの作品のオチは素晴らしかった、雪山遭難で、愛する人の血肉を食い生き長らえた主人公。そして、夢の物語世界への逃避。そして物語の最後に迎えた世界は現実か?それとも夢の世界?この作品の構成・内容に感動を覚え衝撃を受けたいつかの日の私を超えるモノがこの作品には感じられませんでした。

 気になる点が、悪い方向の事ばかりしか記述してないですが、今回はこの辺で記述を終える事にします。脱線しまくりで作品の良かった所とか記述しておりませんので、(あまり意味はないですが、ファーストノベルの【二十一番の喪失】は非常に素晴らしかったという点を追加しておきますww)参考にならない感想で心苦しく思いながら、最後に一つだけ。私が言っても説得力に欠けますが、深沢さんのシナリオはその辺のライターさんと比較すると一線を画してます。その表現描写や構成は独特で、もしプレイしていない方は、是非その世界観に触れて欲しいと思います。このライターさんの作品をプレイしていないというのはとても勿体無い気がします。『忘れものと落とし物』は実際フリーみたいなものなのですし、とても身近なライターさんだと思いますので。それではまた・・・