間違いなく人を選ぶ作品。この点は、どんな作品でも当たり前の様に言える事ではあるが、この作品はそこの部分が色濃くでる。しかし、受け入れる事ができたならば2008年度の作品の中でも、10指に数える事ができるのかもしれないと思ったり、思わなかったり・・・
一言でも書いたとおり、間違いなく人を選ぶ作品である事は間違いない。理由は、この作品のシナリオが確実に万人受けしない為。
下記に記述する条件に当てはまる方は手を出さない方が良いかもしれない。
1.結末はやっぱりハッピーエンドがいい(悲しい余韻で終わる作品は嫌だ)+結末は明確なモノを求める
2.ジークンドーのマスタークラスの実力者・戦争で日本刀を両手に外国兵を血の海に染めた剣豪・学生ではありえない程高スペックな
その孫(天井を移動したり、抜刀した姿を写真に撮ったら後ろに怨霊写る妖刀持ってます)等の突飛な設定が嫌いである。
3.平坦なシナリオ展開では忍耐強く読み進めるのは無理。
4.主要登場人物の考え方が、子供であるのは見ていてムカつく。
この4点の条件に該当する項目があれば、もしかしたらこの作品を好きになれないかもしれない。
逆に、この作品の良い点は、まず最初に思いつくのは、テキストの素晴らしさ。情景描写・心理描写はこれでもかと言うぐらい補足がある。逆にクドすぎる感が無いわけではないが、個人的な意見としてはとても良かった。
また、シナリオにおいて構成が素晴らしい。現在→過去→現在の形で進行していく為、複線的な意味合いが好きな方には悪くないと思う。
悲しいニュアンスの結末ではあっても、余韻を楽しむ事ができる方にはオススメ。私はこの作品に対し、雰囲気ゲーという認識でいる。この作品の中途半端な結末は、これで形を成していると解釈している。あくまで、ユーザーにその先をイメージさせるのが前提。その理由は・・・
帆月に関していえば、エピローグ後の話をつくるのは無理。これは、主人公・帆月両方が近親相姦を否定している為。よってこの先はもっと悲しい結末もしくはご都合展開の無理矢理しか話は続けられないだろう・・・
涼・くるみに関しては続きを書く糊しろは残っているとは思う。しかしながら、この作品の結末から自分でその先を想像するので十分。なぜなら仮にハッピーエンドとした場合、成長した主人公戻ってきて結ばれる・・・?幸せな結末・・・?多分これは違う気がする。そして、全ルートに対し言えるのだが、これ以上の悲しい展開はどうなのだろうか?多分そこには何も生まれない気がしてならない。
あくまでこの作品は暗の部分を主題に置く為の手法として、汚い言い方をすれば、主人公の幸せを完全に否定したと言っても過言ではない。主人公の自己犠牲により、この作品は成立する。そして、主人公の安否をあえて明かさない事により、ユーザーに考える糊しろを残した形で幕を閉じる。人によっては考え方は様々。主人公を死んだと考えるのも良し、主人公に同情しその先に幸せな結末を想像するも良し。
また、敬介の存在理由も謎のままで幕を閉じた件について。作中で、主人公が自分の存在しない殺伐とした世界を気にかけ姿を変えて戻ってくる。これは単純に偽善的な行為なのかもしれない。しかし、そんな行為の中に主人公の優しさが感じられると解釈するのは安易なのだろうか?明確にしないことで見えてくる素晴らしいモノというものがこの作品には存在していた様に思う。
もし、一つだけ明確なテーマを挙げるとするならば、短絡的な思考は悲劇しか生み出さないと言ったある種のメッセージ性を孕む内容であった様に思えてならない。
この作品の漠然とした形に対し、中途半端な作品だったと考えられるのかもしれない。しかし、私はその様な考えには至らなかった。漠然としていながらも、作中で各ヒロイン・主人公の永遠はしっかり終わったのだから・・・
私の勝手な解釈だとは分かっていますが、私は以上の理由からブランドに敬意を表したい。ユーザーに良い印象を受ける様な作品ではなく、あえてこの仕上がり。暗い話でありながらも、救いがないわけではない。(人によっては救いはないと解釈も出来そうな事は否定しませんが・・・)
私は悪くなかったと思います。
ただやはり思うのは、惜しいなこの作品。田舎の再開発問題・学校の廃校問題・人間関係が話の軸になるのだから、普通に考えて華やかになる筈はないですよね。
それをカバーする為のモノが、最初にあげた条件の2番の様な、突飛な設定であったのだろうと思う。テキストの情景描写・心理描写が素晴らしいと先に述べたが、この作品はもっとリアルな感じで作品を作ってよかったと思う。それでも魅せれるぐらいテキストに力はあったと思う。
しかし残念な事に、話の主軸と登場人物のバランスが見事に取れていない。とてもチグハグな印象。だって、現実的な話題の中に現実味のない設定が入ってバランス取れると思いますか?幽霊が普通に出てきたり、武道においては異常な人物ばかり登場してくるわけです。それなのに扱っている内容は田舎の再開発であり、作品全体のテキストの調子は少し硬い感じの文章が目立つもの。複数ライターの作品みたいなので、そこの所の弊害といった所なのでしょうか・・・
多分、私個人の中ではこのふざけた設定とそれが反映されるシナリオ部分がなければ、間違いなくもっと評価が高かったはず。展開が平坦ではあるが、テキストにセンスを感じるシナリオは好きだったりする。この悲しくはあるが、作品のプレイ後の余韻は結構気に入ってます。この作品の設定とシナリオの一部、ほんとに残念でならないです・・・