エロゲでしか描けない思春期の鬱屈とした心に迫る名作
セックス、自殺、といったエロゲだから描ける描写をテーマにした本作。各ルートそれぞれに悩みを抱えたヒロインとの関係が丁寧に描かれ、没入感が高かった。個別ルート単体でのメッセージ性、心理描写で優れていたと思うのは須磨寺雪緒ルートであると思うが、個人的に好みなのはしのぶルート。本作のテーマである体と心の繋がりを考えるうえで最も刺さったルートであった。後半にしのぶと心からの繋がりを求める主人公に対して「私の身体以外求めないで、心まで犯さないで!」というしのぶの拒絶。二人の心は物語の最後まで交わることはなかった。しかし、ラストの主人公の語りで「俺たちはきっと永遠にひとつになれないのだろう。ひとは生まれてから死ぬまで、ずっとひとりっきりなんだ……。それでも…。それでも永遠に平行線を辿る道筋は、不思議と悲しくも怖くもなかった。いまは、かすかにふたりの指先が触れ合っているから。」という言葉。体だけの繋がりを低俗なものとする観念はデカルトの心身二元論でも登場し、当たり前のこととして受け入れられている。しかし、体だけの繋がりしかないしのぶとも、触れ合うことで心の繋がりとは違う確かな温かみを感じることができたことは前向きにとらえられる。一見BADエンドにしか見えないこのルートだが物語のテーマの一つのアンサーを提示し、「天使のいない」この世界にも希望を見いだせるのルートだと思うので個人的に好みだ。