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gluttonykingさんのさようなら、援交娘さん。の長文感想

ユーザー
gluttonyking
ゲーム
さようなら、援交娘さん。
ブランド
夜のひつじ
得点
90
参照数
1496

一言コメント

自分の人生に望むような兆しを見出せず、且つEDで虚しさを抱えて生きる主人公と援交娘が出会い、大の大人に蹂躙され続けてきた彼女の過去を徐々に掘り下げていく陵辱アフターADV。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最終的に他人事になってしまうのだが、原因がわかっているくせに「結局、~しなければよなかったんだよ」と簡単に解釈できるものではなく、「なんでこうなったんだろうな」と生易しくはないやるせなさや哀れむ気持ちを経て虚しさ強く込み上げてくるような作品でした。


人には弱さがある。それが個性だ。次に強さを身につける。けれどそれは状態に過ぎない。強さはいつか消える能力だったり、運動神経だったり、記憶力だったり、若さだったり--。強い状態にあるときはいつでも孤独でもある。だがやがて弱さへと回帰していく。弱さだけがいつまでも生き延びて、命にこびりつく。


じゃあ何を以って彼らは生きていくのか、自分が今ここに存在しているしているという実感を得るのか。いつまでもこびりついているその弱さにすがっていくしかない....しかしそんなことに意味なんて無い。

後半、揺子が主人公に告白するシーンで「それでも愛して欲しくて、ごめんなさい」という台詞はまさにそんな事を象徴しているのではないのでしょうか。
彼女がよく「面倒くさい」「重い」と言われるのは相手が自分を見てくれるという承認欲求が強いからだ。でもそれはそれにすがっていくしか自分には無い、抱き合って体温を感じる悲しみの中にしか自分は存在しないからである。
傍から見れば、「んなこと知るかよ、てめえが悪いんだろ」と片付けられてしまう事柄であっても、彼女の胸の内に抱える、何度も中に出され混ざり私では無くなってしまったかもしれない、曖昧なように見えて簡単に分かってしまうかもしれない、でも分からない寂しくぐちゃぐちゃな感情を垣間見たら簡単なもので終えてはいけないと感じて止みません。(こういう不憫な子が小生好きであります)

ヒロインの”揺子”、どちらかと言えば”瑶子”という字をよく見るのですが、彼女は「ゆれる」という意味を持つ字を使われておりプレイを終えた後に”揺”を改めて調べてみると

「琴などを弾くとき、余韻を波うたせるために左手の指先を軽く弦に当てて揺すること」

と書かれており「ああ...」と納得してしまいました。彼女はまさにそんな人物で彼女の口から溢れる一言一言に自分の琴線を淡く揺らされ、それがいつまでも波のように小さく残り続けます。淡いけど胸が締め付けられます。

血を受け入れる事が殺されるということではない。好きな人に殺してもらうのが恋や愛なのではない。それが希望ではない。でもそうあったら良いなという望みや哀れみを込めて主人公は最期に彼女に向けて死ねと言い放ったのではないでしょうか。

シーン中であってもなにもないシーンであっても、テキスト一節一節胸に迫るものがありました。それの側で流れるBGMがテキストの雰囲気と合っていて不気味なくらい心地よく先ほど書いたのような余韻に嫌でも浸らせられます(褒め言葉