エロゲーでは何故か珍しい恋愛を真っ向からしっかりとテーマにした作品。「ひこうき雲」「雨」「望遠鏡」などの象徴的な言葉を使った文学表現にとても心打たれた。そしてそれらの表現をシナリオに組み込んで練り上げる構成力は素晴らしい
・いろは√
特にこれといった面白みはない。強いて上げるなら後に繋がる瑛莉の嫉妬と自身の身体へのコンプレックスとも言える肉体からの恋愛の否定が観れるところか。
・綾√
雨から逃げて傘をさしてもらう話。ルックスと性格的には綾ちゃんが一番好みだったので愛の逃避行はかなり良かった。初見だと、美奈の「私も彼氏欲しいな〜」でちゃんとポカーンとできるようタイトルに飛ばしたのは好演出。
・美奈√
お互いにとって雨であった兄妹という関係性を晴らす話。特に1週間の雨の期間はかなりえげつないもので、NTR耐性があまり無いためかなり精神を削られた。そこで綾ちゃんへの逃避もできるのが素晴らしかった。最終的には佐藤さんに叱咤激励され、恋愛する覚悟をするシーンはとても良かった。ただ恋人関係になってからは割とあっさりしていた印象。
・瑛莉√
この作品の全てと言っても過言ではない。他のルートが「ひこうき雲」や「雨」を象徴的に使っているのに対して、瑛莉は「望遠鏡」
「望遠鏡」では、水泳部を覗けなかったように近くのものは覗けずにただ遠くのものを覗けるだけ。また夜のキャンプでやっていたように「望遠鏡」は心もとない暗い明かりでは何も見ることができない。
瑛莉√の肝となるのが恋の観察を続けるかどうか。
瑛莉を振ると恋の観察(望遠鏡を覗くこと)はやめて、近すぎて見えなかったあの1ヶ月を目視することができ、大好きだったと告げることができる。
瑛莉との約束を反故にすると、瑛莉は恋の観察(望遠鏡を覗くこと)を続ける。しかし望遠鏡では近くのものは見ることができずに、中々「好き」という言葉を使うことができない。そして月日は流れて、卒業して同棲してデキ婚して結婚式をして子どもが産まれて成長して子どもが結婚して孫が産まれて、ながーいながーい年月が経って恋の観察ができるほど遠くまできた。しかし望遠鏡は暗くても見えないが、この年月は十分すぎるほどの幸せであって十分すぎるほどの明かりであったのだろう。瑛莉はやっと近くに居ながらでも遠くを観察できた、あの頃から美汐瑛莉は「大好き」と言える。そして最後にその象徴として、康司が好きと言った翌日には書いていた「大好き」という文字が近すぎて見えなかった望遠鏡の中から発見される。「望遠鏡から望む近すぎる君へ」
・佐藤さん√
雨を受け入れる話。エクストラにふさわしく、瑛莉√で雑に扱われていた美奈関係の話を雨(兄妹関係)の時期も悪くなかったと肯定できておりしっかりと回収できていた。
ラストのプレイヤーに語りかけるようなメタ表現は嫌う人も多いだろうけど、要するにモニター越しにエロゲー(遠くからの他人の恋路の観察)なんてしてないで現実で恋でもしなさいということかな?まあ自分はこのような素晴らしい作品に巡り合えることもあるのだから、覗くことはしばらくはやめれそうにないけどね。