決して悪辣な展開のみが美点ではない、人間(現実)と物語という主題を丁寧に綴ったシナリオ
短い中で様々なことを考えさせられた。
確かにこれぞアダルトゲームにふさわしい、排撃された者たちの幸福論だと思う。
演出はハッキリ言ってレベルが低く、システムも微妙ではある。音楽もまあ凡といえば凡、OPムービーもない。だが全てをなぎ倒すほどのシナリオは完璧であり、そしてそこに華を添えるキャラデザも魅力的だったと思う。
以下メモ書きまがいの感想↓
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人間を一冊の本で表現できるのではないかという思考実験は古典的なものだと思う。他者の視点からの観測と、自省の視点さえあれば人間を構成できるというのはフィクションの定番である。大抵の創作ではそれは不可能であると片付けられるが、この作品では主人公を据えることで、可能性を残している。思えばNoeSIS2もそういう話だった。紙まほはもっと一般向けする話だが、決してその主題から目を背けては居ない。
人間の物語を神が書く。神学での古典的な問いで、神が万能なら人間の所業はすべて無意味かというものがあった。
壊れた主人公という意味ではこれも古典的で、fateを思い出してしまう。ただfateと違って紙まほは物質的に一度壊れている=死んでいるので、感情移入しやすかった。
考えてみるとこの主人公、作中でなにもしてない。徹頭徹尾ヒロインについて語っている。ルートに入った時の展開はすべてまがい物で、入らない選択肢の後の物語こそが真実である。ルートに入らない、すなわち失恋に真実があるという形で(かなたちゃん以外)構成されている。ひでえ。でも最高。
かなたちゃん最強ゲームには違いないが、やっぱり妃が一番魅力的に感じちゃうのは仕方ないよね、ゆるちて
理央や夜子と違って、妃ルートは割と主人公が能動的に感じるのは自分だけだろうか。なんとなく天使のいない12月の雪緒ルートなんかを思い出してしまう。雪緒ルートは人間の感情が移りゆく事への恐怖だったが、こちらは用意されたシナリオから逃れるための心中だった。どちらも死ぬ理由は主人公にはなく、ただヒロインのために死ぬ話である。美しすぎる。