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gggrrrさんの旭光のマリアージュの長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
旭光のマリアージュ
ブランド
ensemble
得点
85
参照数
140

一言コメント

第一ルートのリアルートがメイン。この媒体ゆえの構成という縛りの中頑張っていると思う。しかし結局は「複数ヒロイン」という「ルール」に物語の完成度を損ねさせられた作品。真・リアルートをいつか見たい気持ち

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想



なんだか最近、「媒体、もしくは業界のルール故に完成度を損ねてる作品」についての愚痴しか書いていない気がしますが、まあこれも年歳故の小言グセだろうか。

正直、色々と不満はあります。それは主に設定の練り込みの甘さだったり、サブキャラの掘り下げ不足だったりとしますが、それを補うほどのメインキャラクター関係の魅せ方は良かったです。

個人的に一番気に入っているのはリアルートであり、アラドとリアの関係性が綺麗すぎて、ぶっちゃけ他2ルートはいらないんじゃないかと思えるほど。というか、他ルートは伏線回収をするだけをなんとか一つのルートに引き伸ばした感があり、かなり冗長になってしまった印象があります。何よりもあの2人を「ヒロイン」、つまり恋愛対象にすることに無理がありすぎた。

いやだって、どう考えてもアラドの嫁はリア1人でしょう。アラドがリア以外を選ぶ理由が思いつかない。他2人を選ぶ展開というか過程にも強引感がありますし、実際ライターもかなりここに苦戦した形跡がみられます。

そんな、リア以外をアラドが選ぶためにライターがとった手段、それが「主人公をアラドでなくす」なんですよね。

実際、復讐を胸に10年という時間を重ねた『アラド』という人格がそのまま残るルートはリアルートだけです。素となった青年は人格を分裂させており、元々のぶっきらぼうだが優しい青年であったアラドから、怒りや憎しみという感情と悲劇の過去を担わせた人格『アラド』と、悲劇以前の記憶だけを持ち、さらに元々のアラドから負の感情をに抜かれたがゆえに、元々も人格よりも陽気で快活な性質になった人格『スレイ』に分けられた。この場合主人格は『アラド』の方。まあ元々の名前を持った方になりますよね。

一人の人格を「陽」と「陰」に分け、「陰」の人格アラドは暖かい記憶などはあくまで情報として持っているが実感はできない状態で、悲劇の怒りと憎しみだけを忘れないように燃やし続けている、一方「陽」の人格スレイはアラドが切り離した暖かい家族との記憶を、10年の間アラドの奥で繰り返しているため、アラドが歩んだ10年間の記憶がない。

分かる人にはわかる例え話をすると、25年以上前のRPGゼノギアスの主人公フェイに似ており、スレイが臆病者、アラドがイドといった具合。

そして、3つのルートの内で、人格統合がされ、本来のアラドという人格に戻るルートはリアルートのみ。つまり、本当の主人公の人格は、最初のルートにしか出てこず、他ルートの人格は本来のアラドではないということになります。

クロエルートでは「陰」の人格アラドが消滅することにより、片割れの「陽」の人格スレイだけが残る。アラドの記憶の情報こそ持ってはいるが、実感はない状態。アラドが担っていた元々の青年の無念、怒り、憎しみと、10年の積み重ねが消えている。

フィーネルートではもっと断絶が顕著で、一回存在をリセットされてます。ここで個人的な考察なのですが、「指輪の精」は、その担い手に無条件で好意を持つように設定されていると思われます。そうでなければ、ラスボスである初代指輪の精さん(名前忘れた)は、即簒奪者を殺していたでしょうからね。強制力とは別に、悪感情を抱かいないギミックは確実にあると思います。リアが途中で担い手がアンリエッタに変わった時も、アンリエッタにかなり好意的だったので、これは明言されてないが間違いないと思います。そんな状態で一度指輪に戻されて再顕現しているので、『フィーネに無条件で好意を持つ』という前提条件を付加されているのが、このルートの主人公。そしてこのルートでも「陰」と「陽」の人格の再統合はされません。

私はこの物語を死者の物語だと思っています。理不尽に墓の中に叩き込まれた死者が、墓穴から這い上がって理不尽に復讐する物語。そうであるが故に、その到達点は、「納得できる死」であるべき。自分の最期に納得できない死者が、望む終を求めてもがく物語、私はこの物語をそう定義します。アラドは『満足して死ぬ』ために、10年足掻き続けたのだと。

故に、その物語の担い手は死者であるアラドその人でなくてはならない。そして人格統合を果たし、元の人格、家族を愛し、その家族を理不尽に奪われた経験をきちんと有した存在に戻れるのは、リアルートだけ。

なので、他2ルートは人格が元のアラドに戻れないことが決定した段階で、もう別視点、もしくは第3者視点で物語を書いたほうが良かったように思えます。


また、起点となる設定もかなり描写不足があり、その最たる例が「指輪の精」の設定の曖昧さ。もっとも破綻してるのがフィーネルート。2人とも対して魔力がない状態でフォーネが妖精化した時、その顕現に必要な魔力はどこから?という疑問で話に入り込めなかったです。生きながらに妖精になったクロエでさえギリギリセーフで、その上で負担魔力が凄かったから彼女はああ成り果てたのに、そこでフィーネが妖精化はいくらなんでもご都合すぎるでしょう。という様な。

あとは、サブキャラの掘り下げが甘い、特にルシエラが酷い、自分は思考放棄の馬鹿女という印象しか残ってません。嫌いですね、こういう大人振ってるくせいに全面的に他者に依存して責任から逃げ続けてる屑は。何も向き合ってないし、実は自分がしてることが一番恩人を侮辱してることに気づいてない。もしくは気づいてても止められない。前者なら馬鹿で、後者なら屑です。


まあ不満点はいくつかありますし、正直リアルートだけで良かったような気がとてもしますが、やって後悔するような作品ではなかったですね。しかしやはり、リアルートを軸に、クロエたちの伏線も回収できるような形になるのが最上だった作品かと思います。これはやはり「ヒロインは複数用意しなければならない」という業界のルールに縛られた結果なのだと思います。本来一つのルートだったものを、重大な伏線だけを分離させて、肉付けしてルートに仕上げたような感じ。無理だとはわかってはいても、いつか「真・リアルート」が見たいですね。