遥彼方に逝こうとも、その人生は多くの影響を遺した。個人的にはクリスノーマルと病院ENDが好きです。綺麗に死のう
比較的に初期にやった作品。OPの曲が好きで何度もリピートして聞きました。今でも時々聞いてます。
主人公の彼方くんは、ノベルゲーではとても珍しい主人公。不治の病に冒されたヒロインという設定は多いですが、不治の病に冒された主人公というのは非常に珍しい。
ゲーム特有の架空の病気だったり、症状をぼかしているようなことはなく、「癌」であるとはっきりと明示されているのも特徴的です。
そして、その「闘病」の様子もかなりしっかりと描写されており、彼の苦しさが伝わってきます。
その上、彼が余命わずかということを宣告された時点で両親を亡くした天涯孤独の身でした。そうであるのに彼はその死と向き合い、「自分が死んだ後の世界」を想像して生きているうちに様々な行動をとります。
それがかえって意固地になってしまったところもありますが、それが誰に責められるでしょうか。そのあたりも、彼は聖人君主ではなく、間違いなく死を恐れる人間であったのに、それと正面から向き合い、自棄になることなく自分の答えを出したという、真剣に生きた人間であったという証左ですから。
この物語には吸血鬼や吸血鬼ハンターというファンタジー要素が含まれますが、それはこの作品に幻想的な雰囲気をプラスするのに役立っていますが、やはり本質はそこではありません。この物語は死病に冒された少年が、どのように死と向き合い、どのように死んだかが綴られる話です。
クリスルートのもうひとつの結末も好きです。クリスのために今までの全て擲つという選択も彼ならば有り得るでしょう。ですが、やはり彼が人として幕を閉じる結末の方が好きですね。
彼にもっとも影響を受けたのは、同じく病弱の少女「朝倉 優」でしょう。彼方と出会えなかった彼女と、彼方と出会えた彼女では、その後の人生がガラリと変わったはずです。narcissuという作品において、死に逝く者と残される者の関係を、フランダースの犬に例えて前者を「ネロ」、後者を「アロア」と表現していました。そして、この2つは決して理解しあうことはないだとも。優という少女は「ネロ」でした。自分はいつか大事な人残して死んでしまう、ということを察していた彼女は、本当は大好きな祖父や、周囲の人間に無感情になろうと努めていました。それは、残された「アロア」を悲しませないための幼い彼女なりの思いやりだったのですが、彼方と出会えて彼女は「アロア」の気持ちを知ったのです。
彼方と優ちゃんが出会ったとき、優ちゃんは臓器移植を受けられれば助かる可能性がありましたが、彼方はすでに末期であり、余命半年でした。優ちゃんの病状では半年以内に死ぬようなことはなかったので、彼方は確実に優ちゃんより先に死に逝く存在です。そうして初めて「残される者」の気持ちを知った優ちゃんは、祖父や友人と交流し、本来の少女らしさを取り戻します。
遥彼方という少年が生きた証は多くの友人に刻まれていますが、私はこの「朝倉優」という少女に与えた変化を、もっとも尊い証だと思っています。どうか彼女の未来が明るいものでありますように。
遥彼方という少年の死に、残されたものは大きな悲しみを負ったでしょうが、それ以上に尊いものを得られたように思います。彼の人生は短いものでしたが、その死に顔はとても安らかでしたから。綺麗に死んだ彼の姿は、多くの者の心に清いものをもたらしたでしょう。
私も死ぬときは彼のように、綺麗に死にたいものです。