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gggrrrさんの黄昏のフォルクローレの長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
黄昏のフォルクローレ
ブランド
Citrus
得点
90
参照数
179

一言コメント

大正ロマンの退廃的な雰囲気を上手く表現している。しかし反面、平成・令和のサブカルチャーに慣れた人には馴染まない作風

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『ノスタルジック浪漫譚』の名に恥じない作品でした。

作中通して、静謐な雰囲気で話が進み、ドタバタ喜劇なシーンはない。楽しげで賑やかなシーンもありますが、やはり場所が名家のお屋敷ということもあり、上品な雰囲気を崩さない範囲で収まっています。

その傾向は登場人物にも踏襲されており、特に主人公の隈形有馬さんが、感情を前に出さずに平静を崩さない在り方を貫きます。そんな彼の視点で物語が進むため、山あり谷ありのサスペンスを期待された方は、肩透かしを食ったかもしれません。

しかし、私はとても好きです。この時代の上流階級に仕える者としての姿勢をきちんと表現し、またこの時代の、特に社会の上層に位置するものは、感情を荒げたり動じたりすることを恥と思う人が、まだまだ多かった時代です。そうした時代的な雰囲気をしっかりと作中に出しているこの作品は、個人的に好みでした。

何より、主人公の行動は一見わかりづらいようで、実はとても分かりやすいから、安心して物語を追うことが出来た点も良かった。この物語はとことん隈形有馬と乙部すぴかの物語であり、脇役の方々はその物語に彩を加える存在という点を、決してブレることなく貫いたのは、素晴らしい。また、私は物語を第3者視点で読むタイプなので、主人公の人格がしっかりと確立され、その行動が一貫している作品は、とくに好むところになります。故に、この作品はとても好みに合いました。

昭和前半までは、この国の男性は愛情をストレートに伝えることはしませんでしたし、そんな男は恥とされた文化でした。この隈形有馬もその例に漏れず、作中でヒロインのすぴかに直接的に愛を語る描写はほとんどありません。ですが、それこそ大正という時代を感じさせて良い。もう今の時代にはない文化、過ぎ去った時間を感じ、ノスタルジックな気持ちにさせてくれます。逆に、直情的に『愛してる』『大好きだ』などと語る主人公ならば、それは現代の学校を舞台に作ればよく、大正時代の話にする意味も必要性もありません。この隈形有馬はよく作られた『大正時代の上流に仕える主人公』であったと思います。

あと、地味に有馬さんと月子さんの姉弟関係が気に入ってます。実は髪型と目つきがそっくりな姉弟。