ご都合主義が一切ない、『死』というものに正面から向き合った物語
死生観を扱った物語は特に好きですが、この「アズラエル」はPCゲームの中では私的にトップ3に入ります。
物語が短いことが欠点のようにも見えますが、私は逆に短いからこそ、淡々と物語を綴るからこそ、より「真摯に死に向き合う」という印象が強かったです。
この手の物語は、かえって引き伸ばさないほうが話ととして引き締まるものだと思います。
死を告げられた人間が、どのような行動を取るのか。受け入れるか、拒絶して忘却するか、果たして自分はどうなるだろうかと考えさせられたゲームです。
主人公を含め、メインとなる5人(悪魔を入れれば6人ですが)は全員が味のある良いキャラをしていました。メインとなるのは3章の幼馴染のいずみですが、その前の2人の話もとても良かったです。
いずみに比べれば前2人はあっさりとしていますが、逆に彼女たちに深入りしすぎたら、その時点で主人公は他者の死に向き合うことが出来なくなるでしょう。しかし、ここで個別ルートの分岐のような構成にしてしまうと。「死神代行として死者を送る」というコンセプトが生きていきません。
1章のかつて交流があった年上の女性「玉梓冬美」、2章の初めから死ぬことをわかっていた上で情を交えた「安芸月依子」を送ったあとだからこそ、主人公はいずみの死に対して、逃げることなく向き合うことができたのだと思います。
また、相棒役である「死神」こと「天使アズラエル」もまた良いキャラ造形でした。見た目も声も悪役然としているのに、言動は真面目でちょっと天然入ってるところもあります。人間に共感はできませんが、人間の感情を理解はできるため、気遣いもできるいいやつです。
EDは3つに分かれます。
いずみの死に抗うもやはりいずみは死んでしまい、その死を厳粛に受け止めるED。
いすみの死に抗うために悪魔に魂を売り、いずみは助かるけどの記憶から主人公のことがなくなり、主人公は悪魔の眷属になるED
主人公がいずみの代わりに命を捧げることで、死の肩代わりをするED
正直、どれも好きです。2番目の悪魔EDはこれまでの相棒だった死神を裏切ることになるのですが、死神こと天使アズラエルは「お前の信念に基づいた行動なのだろう」と恨み言ひとつ言うことなく消えていきます。悪魔も悪魔で、彼女の「愛」は人間的ではないものの、確かであることが伺えます。
身代わりEDの場合は、前2章でどちらかの女性と深い関係になっていた場合、死後の世界でその女性が待っていてくれます。安芸月依子の場合だと、このCGのみ眼帯で片目を覆っていな彼女の姿が見れます。
ですがもっとも好きななのは、いずみの死を看取るEDです。どんなことをしても死を回避することはできない。けれどその大事な人の死と向き合い、受け止め、乗り越えて生きていく主人公の姿に感動を覚えます。
本当にやってよかったと思えるゲームでした。興味にある方はOPムービーだけでも見てください。あれだけでも見る価値ありです。