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gggrrrさんのChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-の長文感想

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gggrrr
ゲーム
ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-
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インレ
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一言コメント

(GiveUp) 「忠臣蔵」のパロディだが、パロディになれていない作品

長文感想

この作品は江戸時代の史実である赤穂浪士の吉良邸への討ち入りを題材にした「忠臣蔵」を、パロディとして18禁美少女ゲームで構成されたものです。

この作品の評価はこのサイト内でもトップクラスに高いですが、私はこの点で大いに同意すると同時に、ある一点において多大な疑問を持っています。

この作品は18禁美少女ゲームとして高い水準を持っています。女の子のキャラクター性、肉感的なイラスト、豊富な立ち絵、豪華な声優陣、場面に沿った音楽、ふんだんに見せる美少女の裸、自己投影しやすい主人公造形といった具合に、ユーザーを満足させる要素をこれでもかという具合に込めています。こうした点によってエンターテイメントとして高い評価を得るに足る作品であることは疑いありません。

しかし、これが「歴史題材ものとして傑作」という評価を受けていることに私は首をひねらざるを得ません。

私はこの作品を「異世界ファンタジー」であると認識しています。歴史題材としたものであるとは思えません。いうなれば歴史にあった事柄をコピーしたファンタジー、でしょうか。

有名な「恋姫無双シリーズ」と同じ認識ですね。しかし、「歴史パロディ」としての出来であるのなら、私は恋姫シリーズに軍配を上げます。このchushinguraという作品は「歴史パロディ」になりきれていないからです。

私がこの作品を歴史モノとして評価しきれない理由は、第一にその世界観の構成の拙さに依ります。この作品の過去の江戸時代は、一見すると時代考証がしっかりされているように見えますが、それによって却って、世界観の無茶苦茶さが現れているのです。

何よりまず、女性が普通に男性と同じ格好をして両刀を腰に帯させることに、特に理由がないこと。

この作品の世界では、私たちの歴史の江戸と同じような格好で生活している女性もいれば、男性の格好と名前と立場を得ている女性もいます。この線引きが分からないのです。

この世界の女性は、生まれたときにどんな基準を以て男の名前と立場を与えられるのか、女の立場と名前を与えられるのか、その基準が描かれていません。これによって、世界観の稚拙さが浮き彫りになっています。

前述した恋姫シリーズの世界観は「外史」という言葉にまとめられており、言葉飾らずに言えば、個人個人が思い描いた妄想世界であるため、史実の偉人、武将たちと作品内の美少女は重ならない。言うなれば演劇のようなものである。華琳という真名を持つ少女がいて、彼女は曹操孟徳なのですが、つまりは「曹操孟徳役を担っている華琳という少女」であるわけです。なので恋姫世界における女性の男役と女役の違いは、宝塚における男性役と女性役のようなものあると言えます。

真名というシステムを用いることにより、史実の人物と創作のキャラクターを上手く乖離させることに成功しています。そしてそれにより、三国志のパロディ作品として上手く成立させています。

しかしこの作品は、赤穂浪士たちの名前を一切変えることなく、男性名のまま使用しています。パロディであるならば通常改変するこの点を、この作品は踏襲していません。

 
また、他にも「ラストキャバリエ」という、かなりしっかりと歴史を描いた作品もあり、これは逆に世界観をしっかりと描き、歴史のIFの可能性などを重点的に描いたため、先に述べた18禁美少女ゲームとしてのエンターテイメント性を大きく失っていました。

しかしそれ故に世界観の構築はしっかりとしていました。歴史の人物で女性になった人物は、いうなれば超常の器物により、本来その人物の母になるべき女性がその子の能力と才能を奪った存在、ということになっています。その代償としてラストキャバリエの女性化した人たちは、「子を宿す」という女性にしか出来ない能力が無くなり、「男でも女でもないモノ」として蔑視されることもしばしばです。代償を得て、女性として登場してるのですね。ですので18禁ゲームでのEDとしてのひとつの形である「主人公との子供を産み、幸せに暮らす」ということができないのです(最もこのゲームは半分のEDで主人公が死んでますが…)

このラストキャバリエでも、女性化した人たちの名前は、一部を改変しています。本当の史実の人物との乖離はしっかりさせており、逆に男のままの人物の名前はそのままです。

忠臣蔵の赤穂浪士の主要人物を女性にする、という段階ですでにパロディですので、ならばこそ、その物語と設定の一部を使わせてもらうのならば、そのままの名前の使用は回避すべきではと思うのです。それが元ネタに対する敬意というものではないでしょうか。

そして、一見時代考証されてるようにみえる設定ですが、かなりいい加減というのが分かります。例えば浅野内匠頭ですが、彼は江戸の民たちから「火消しの浅野」と言われるくらい、火事の消化が上手かった人です。というより、性にあっていたのでしょうね。火事になると自ら陣頭指揮を採って行動するアグレッシブな殿様でした。その豪快な性格も相まってああした刃傷沙汰を起こしたわけです。

しかし、この作品の浅野姫(敢えて姫といいいます)は、非の打ち所のない深窓のご令嬢です。見事なお嬢様です。

まあ、このあたりは重箱ツンツンなので、言っても仕方なないところですね。

根底に有るのは、先ほど2作品を例に挙げた「女性が男性の立場に居ることへの納得できる理由」が有るか無いかであると思います。

恋姫は外史という舞台での演劇でした。
ラストキャバリエは、男性の立場を得る代わりに、女性の機能を失いました。

ではこの作品は? どちらに近いといえば恋姫に近いでしょう。しかし、この作品の世界の江戸は「別の歴史の世界」であり、恋姫のような「ありえない妄想世界」としては説明されていません。むしろそう説明されていればすんなり納得できましたが、されていません。

そうでありながら、女性でありながら男の名前と立場を得ているキャラクターは、一切の制限を受けていません。男性と同じ、どころ凌駕する膂力を持ちながらも、女性らしい体つきを失わずに子供も産めます。

つまるところ、この作品の男性立場に居る女性は、一切の代償も世界背景もなく、「ただ女になった」だけです。女性の肉感的な裸を見せるためだけに女にされているのです。

おい、エロゲーに何言ってんだアホか、という声は多いと思いますが、たかがエロゲー、されどエロゲー。しかも実際に生きた人物たちの話を使わせてもらっているのだから、そこを疎かにしてはいけないと思うのです。

そして「ただ女にされた」が故に、とても悍ましい事実が生まれています。それは登場女性キャラクターに対する「切腹」です。

切腹は斬首と違います。武士としての尊厳を持たせたまま刑を執行する儀礼でもあります。しかしこの作品はその儀式を女の体を持つ人物にさせています。女性の腹というのは、新たな命を宿し育む大切な場所です。その場所に刃を突き立てる行為を、この世界では「武士としての尊厳を持った儀礼」としているのです。正直、生物としておかしいと思います。

先ほど述べたラストキャバリエでは、男性立場にある女性に切腹は許されていませんでした。さらに重箱の隅をつつくと、江戸時代はまだまだ子供の死亡率が高いので、正直女に公務をさせたりしていたら、支配階級である武士だけであっても、人口はどんどん減っていくかと思います。

女性でも男性と変わらない立場と能力がある世界観であるならば、それに沿った歴史があって然るべきですが、この世界は一部の服装などを除いて、我々の歴史と相違ない道筋をたどっています。本当に、違う点といえば「ただ女になった」くらいで、そうであるがために生じてる歪が大きく感じられます。

赤穂浪士たちには、それぞれの人生がありました。彼らは神話の人物などではなく、300年前に当たり前の人間として、精一杯に生きた人たちです。その彼らの物語を借りるのであれば、もう少し彼らにたいして敬意を持って欲しかった。なんの世界設定も背景もなく「エロゲーだから、はい女にしよう」では、あまりに失礼ではないでしょうか。パロディにはパロディであるが故の礼儀があると思いますが、この作品はその礼儀を欠いている作品であると感じました。

こうした過去の、歴史に登場した人物への敬意を欠く作品を「歴史題材モノ」として認識してはいけないように思うのです。もっともこれは私個人の認識で、単に私の頭が固いだけであることも理解しています。しかしどうして言いたいことでした。

故に、得点はつけません。付けることができません。


長々と書き連ねましたが、私はこの作品が「忠臣蔵」をモデルに構築したオリジナル世界での話ならば、3章までなら文句なく高評価をしました。しかしこの作品は忠臣蔵を台本にした作品であるがゆえに、4章以降の台本無しの「アドリブ」が非常に残念なことになっています。武士の生き様そして死に様を描いた忠臣蔵と、美少女キャラクターを侍らえて幸せになるFDへつなぐEDが、非常に食い合せが悪い為だと思います。精進料理にガムシロップかけて、美味しくなるはずありませんからね。