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gggrrrさんのアステリズム -Astraythem-の長文感想

ユーザー
gggrrr
ゲーム
アステリズム -Astraythem-
ブランド
Chuablesoft
得点
85
参照数
631

一言コメント

一途な愛に生きた2人の男の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この話の魅力は、なんと言っても「おにいちゃん」と「博士」です。この2人の愛する人へのどこまでも純粋な尊い想いに心打たれました。

時間を遡って失われるはずだった愛する人を助けても、それは「助ける可能性」の世界を生み出すだけであって、本当に彼らが愛した存在を取り戻せるわけではない。加々見利通が愛した妻も、桜塚白雲が愛した姉も、失われたまま。

だけど、自分によって生まれた「愛した人が生きている世界」には、当然「その世界における自分」がおり、愛する人のそばには「自分」がいる。そこに介入することを2人はせずに、ただ彼らは「愛する人が生き、幸せに暮らしている」光景を見続けるだけ。それだけで満足した、気高い2人。

本当に好きです。博士の優れた頭脳と理性による割り切りも、白雲の葛藤の果てに別世界の自分に愛する人を託した決意も、最高にカッコイイ。1章2章は割と恋愛要素やそれに伴う感情模様のシーンが多かったですが、3章は博士の奥さんを助けるために、大震災という途方もない脅威に立ち向かう2人の男の話でした。


時間軸を単純化すると

第1世界:加々見ねねも桜塚名月も死亡する世界
第2世界:加々見ねねも桜塚名月も死亡し、桜塚白雲が加々見利通に協力を望む世界(加々見利通がタイムリープすることによって発生)
第3世界:加々見ねねは死亡するが、桜塚名月は生存する世界(桜塚白雲がタイムリープすることによって発生)
第4世界:加々見ねねは生存するが、桜塚名月は死亡する世界(桜塚白雲と加々見利通が共にタイムリープすることによって発生)
第5世界:加々見ねねも桜塚名月も生存する世界(『第4世界の桜塚白雲』がタイムリープすることによって生まれた世界)

となり、2人とも死んでしまうしかなかった世界から、2人とも生きる世界を作るために、2人の男が奮闘した物語です。


1章と2章の主人公は、「第4世界の桜塚白雲」で、彼の物語は第5世界の分岐させる時点で終わります。

しかし、この作品の真のスタートは第3章から。1章2章で途方もない存在感を放つ「おにいちゃん」が主役となり、その「おにいちゃん」の正体は「第2世界の桜塚白雲」になります。

この「第2世界の桜塚白雲」は、3つの世界を巡る旅路を歩みます。まず、彼がもともといた第2世界、そして姉を助けたことにより発生した、桜塚名月が生存する第3世界。さらにそこから過去に遡り、加々見ねねを助けた第4世界。

1章2章の主人公である「第4世界の白雲」と似ているようで、異なる歴史を歩んできたのが、この「第2世界の白雲」であり、その歩みは「第4白雲」よりずっと過酷なものでした。

最愛の姉を自身が原因で失った、という事実は同じですが、「第2白雲」が愛していた「第2名月」には、『初恋のおにいちゃん』という存在はおらず、あくまで姉弟という関係と年齢差からの葛藤だったのでしょう。それでも2人は結ばれたということは、この第2世界において生まれた2人の愛は、本当に混じりけのない純粋なものであると言えます。

「第2白雲」は彼の時代である2012年で、後輩の女の子を不良から助けられ惚れられていますが、姉一筋の彼はその好意に気づくことすらありませんでした。

私は、この時にいうなれば『世界の要素』として『桜塚白雲と桜塚名月の揺るがぬ愛』という『因果』が生まれたと思えます。第2世界で2人が長い葛藤の末結ばれたが故に、例え時間軸を超えても世界に刻まれた『因果』。そうであるがゆえに、例え僅かな時間であろうとも、年齢が逆転していようとも、「桜塚白雲と桜塚名月」である以上、互を深く想わずには居られない。そんな因果が生まれたのだと。

そして、「第2白雲」は姉を取り戻すべく時を越える。彼が訪れたのはタイムリープによって生まれた「第3世界の1999年」であり、当然その時代の博士こと加々見利通は、彼のことを知らない。ただ事情を話せば協力してくれたでしょうが、そもそもどこにいるかを白雲は分からない。だから、「第2白雲」はこの孤立無援の1999年で、相当の苦労をしたのでしょう。救うべき対象の名月にすら、初めはストーカー扱いされ、それでも2人は「白雲と名月」なのですから、互いに意識しあい、想い合う関係になります。その後彼は名月を橋の崩落から助ける代わりに、自分が崩落に巻き込まれ行方不明になります。彼はその後おそらく「第1世界からリープしてきた加々見利通」の助力を得て2012年に帰還しますが、帰還したのは彼が名月を助けたことによって派生した「第3世界の2012年」でした。

よって、彼が愛し、取り戻したかった「第2世界の名月」は、どうあっても助けることは出来なかったのです。博士はそのことを理屈としては理解しており、それでも妻を助けたいと決意していましたが、白雲が割り切るのにかなり葛藤しました。

しかし、「第3世界の白雲」と出会い、彼とともに「第3名月」を助けることによって、葛藤を振り切り、博士に恩を返すために1996年へ行くことを決意します。姉を怪我させたことをきっかけに強くなろうと幼い日に決意した「第2白雲」でしたが、この「第3白雲」の決意のきっかけは「自分と姉を助けてくれた強いあの人」になろうとしていたことでした。そして「第3名月」は自分を助けて行方不明になってしまった「第2白雲」を想い続けていましたが、この「第3白雲」ならば彼女を任せられる、幸せにしてくれると確信し、「第3白雲」に正体を告げた後に、1996年に渡ります。私も、この第3世界の2人は幸せになると思います。「第3白雲」は決意をいっそう強くするでしょうし、「白雲と名月」の愛は、どの時間軸でも普遍であると思うからです。

「第2白雲」はこの時、自分の愛する「第2名月」は取り戻せないことを理解した上で、それでも、どんな世界であろうとも「桜塚名月」が幸せに生きている世界がある、という事実があるということを胸に、納得したのです。ここに彼の気高さと心の美しさを強く感じます。

そして時を遡り1996年、これまで博士1人では何度やっても救えなかった、加々見ねねを助ける試みをします。ここで出会った「加々見利通」は、「第1世界」と「第2世界」の「第3世界」の3人の加々見利通が、同じ座標軸にタイムリープしたことにより合一した存在でした。別の時間座標ならばそれぞれ別の時間軸になるところが、同じ時間座標に同一人物が移動したことにより、3つの世界の記憶を持つ「加々見利通」となったのです。この事実はエピローグで重要となります。

また、やはり一度刻まれた『因果』は決して消えることなく、ここでも「桜塚名月」と「桜塚白雲」は出会い、互いに想い合います。一度強固に結ばれた縁は、何度時を超えても離れることはないのです。

そうして白雲と利通の2人は奔走に奔走を重ねた果てに、ついに「大地震」という脅威から加々見ねねを救うことに成功します。これによって「加々見ねねが生存する第4世界」が派生することになります。しかしその代償は「第2白雲」の命でした。彼は加々見利通を助ける代わりに犠牲になり、ここで彼の長い旅路は終点を迎えます。

この物語の真の主人公は間違いなくこの「第2白雲」です。彼の残した影響は非常に大きいものとなっていきます。第4世界以降の加々見一家はとても幸せな家族であり、この「第4世界の加々見利通」は、おそらくタイムマシンを完成させることはないでしょう。あれは、妻を助けるべく狂気の域で研究した加々見利通だからこそ出来たのです。そして、彼に救われた「第1~3世界の記憶が融合した加々見利通」は、この第4世界で生き続け、いつの日かくるであろう時のために、着々と準備をしていきます。彼が目立って活動しなかったのはおそらく、不必要に世界の分岐を作らないようにしたためであると私は考えていますし、足が不自由な彼では名月を助けることは出来なかったでしょう。

そして、「第2白雲」は「第4名月」にも大きな影響を与えています。彼女はその後10数年間「第2白雲」を想い続けており、同時にそれは「第4白雲」にも影響を与えました。なぜなら「第2名月」に時には、そうした『想い続ける人』はおらず、それ故に「第2白雲」はまっすぐに「第2名月」に想いを告げることができましたが、他ならぬこの「第2白雲」の存在が、「第4白雲」にとって『ライバル』、しかもとても勝ち目のなさそうな『ライバル』になったからです。この『ライバル』の存在は「第4白雲」の感情を「第2白雲」よりも複雑にさせ、そこへ加々見美々が登場することにより、「第4白雲」が「第2白雲」よりも優柔不断のように思えさせます。

しかし、この加々見美々も「第2白雲」とは切っても切れない関係の存在なのです。なにしろ、「第2白雲」が居なければ生まれることすら出来なかった存在なのですから。ここにもある種の『因果』が発生してます、加々見美々にとって、「桜塚白雲」は無視することなど到底できない存在であるのです。しかし、その『因果』は『白雲と名月』のものより強固なものではなかった、ということなのでしょう。

そして「第4白雲」がタイムリープする際も、この「第2白雲」に影響により、「第2白雲」よりはやや優柔不断になった「第4白雲」は、自分から姉を取り戻す行動は起こさず、そこへ機を伺っていた「第1~3統合加々見利通」が現れ、タイムリープを行うという形となります。

この「統合加々見利通」は、相棒であり恩人である「第2白雲」と、彼が導き手となる「第4白雲」を別人として捉えています。彼の中の「桜塚白雲」は、自ら時間旅行の実験台となることを志願してきた、自身と同じ狂気のような熱量を持った男であり、その愛を守った果てに自身と別時間軸の妻を助けてくれた男でした。そうした彼の視点からすると、別時間軸とは言え『娘』である加々見美々を振り、自暴自棄になっている「第4白雲」はいささか情けなく見え、記憶の中の強く美しかった彼とは同一視出来なかったのでしょう。しかし、これは「第4白雲」を責められません。彼には「第2白雲」にはいなかった『勝てないライバル』がいて、かつ「第3白雲」のような『目指すべき強いあの人』がいなかったのです。

ともあれ、そうして「第4白雲」は「統一利通」の助力を最大限に得ることにより、彼がタイムリープしたことにより分岐した「第5世界の名月」を救うことに成功し、「第2白雲」の時のように、自身が身代わりになることもなく、全員無事に危機を脱することに成功しました。これも「第2白雲」の影響が大きい場面です。「第2白雲」は孤立無援の状態で1999年を生きていたため、崩落した橋から脱出する力はありませんでしたが、「第4白雲」は「第2白雲」に救われた「統合利通」の援助で、不自由ない生活を送ることが出来、かつ「第2白雲」の遺したバンダナのおかげで乗り越えることに成功しています。

本当に、作中のほとんどの場面で「第2白雲」の影響を見いだせないシーンはないほどです。しかし、その本人は苦難の道筋の果てに、死んでいるのです。ですが、彼の遺した多くのものが影響し、遂には「加々見ねねが生存し、加々見美々が誕生し、桜塚名月も生存する世界」が生まれることが出来たのです。

エピローグで、「統合利通」が「第4白雲」の帰還する時間座標に、姉を失わずに生きている「第5世界の桜塚白雲」をリープさせることにより、自身の時のように「記憶を統合」させるこに成功します。これによって、「第4・5世界が統合した桜塚白雲」が生まれることになりました。

この「4・5統合白雲」を待つのは

1996年に「第2白雲」に初恋し
1999年に「第4白雲」と出会い、再び想いを重ね
2012年に「第5白雲」の想いを受け取った

「第5世界の桜塚名月」です。

彼が何をして、彼に何が起こったかは「統合利通」によって説明され、「第4白雲」と「第5白雲」が統合したことにより、彼女は1999年に想いを重ね約束した『九十九』と再会し、自分に想いを告げた『一人の男として見るようなった弟』を、矛盾なく受け止めることができるようになります。

しかし、それだけでは「第2白雲」への想いだけは、刺として彼女の心に残り続けることになりますが、そこへ「統合利通」から渡されたのが、「第2白雲」が遺した『手紙』です。これは元々「第3名月」へと書かれたものでしたが、「第3名月」と「第5名月」はかなり重なる点が多いため、彼の想いを余さず受け止めることができたでしょう。

これによって、「第2白雲」の想いを、その強さを、その真実を受け止める「名月」が生まれたのです。「第4名月」は彼の想いの真実を知ることなく亡くなってしまいましたが、終に「第5名月」は知ることが出来たのです。




こうして、2人の男が自身の最愛の人を救うために足掻いた物語は幕を閉じます。たしかに、彼らは『彼らが愛した人』を取り戻すことは出来ませんでした。しかし、彼らはそれで『良し』としたのです。自身の気持ちに『納得』したのです。『最愛の人が幸福に生きている世界』があること、例え自分はその輪に入ることはなくとも……それで『満足』することを選んだ男たちなのです。

その、気高い決意を、私は尊く思います、とても私の美観に沿う生き方を魅せてくれました。

だからこそ、この物語に大いに満足できました。











余談ですが、この話のサブヒロインの存在のために「一途な愛の話じゃない」という意見もある様ですが、これは私から見れば鼻で笑う愚にもつかない意見です。

なぜなら、「そうしなければいい」だけの事だから。サブヒロインに関することは「選択肢」として提示されます。それも、ごく分かりやすい形で。ならば、その話を「一途な愛の話」にしなかったのは…… そのプレイヤー自身です。

言うなれば、「一途」さを試されたのは「桜塚白雲」ではなく「プレイヤー」自身なのです。「一途な愛の物語」を期待して作品を進めたのなら……… 貫けばいいだけの話ではないですか。自分で選んでおいて一途な話じゃない? いったい何を言ってるんでしょうね。そんなのも、ただ「選ばなければいい」だけの話です。そのさじ加減は、プレイヤー自身の「一途さ」だけです。それをどうして「桜塚白雲」に転嫁できるのか。まったく謎な思考です。

この選択をすれば、一途な愛の物語ではなくなる、それでいいのか? と問われ、「YES」と答えたくせに、こんなの違う、と文句を言う感性は、私にはわかりません。