ErogameScape -エロゲー批評空間-

geek_agentさんのFate/stay nightの長文感想

ユーザー
geek_agent
ゲーム
Fate/stay night
ブランド
TYPE-MOON
得点
84
参照数
430

一言コメント

ライターの熱量がそのまま伝わる作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今更レビューを書くのもどうかと思うが、自分のサマリーに指標として点数を表記しておきたい、
点数を入れるのに、中身を書かないのは失礼かな…と感じたのでちょっと?だけ。

優れた考察や熱い感想なんかは、他のレビュアーさんの方が読みやすいと思うし、
今回はただ感じたことをつらつら書くだけなので、私の感想は読むだけ無駄かも…。
散文的なので、ちょこちょこ修正加えるかも。









昔「月姫」をプレイしたときは、普通の作品ぐらいにしか感じなかったが、
この「Fate/stay night」は良くこれだけ話を展開して纏めたものだとライターの構成力に驚かされた。

何気ないことだが、公式ジャンルが伝奇活劇「ビジュアルノベル」と言い切っているのも、
ゲーム性ではなく、物語の中身を楽しんで欲しいという姿勢を先立ってユーザー側に示しており、
非常に好感を持ったことを覚えている。

数年後にフルボイス化した際に、作中のテキストを大きく変更することなく魅力を引き出せたのも、
先を見越してPC版の段階でセリフ廻りを整理していた可能性が高く、作品の完成度以上に
かなりの先見の明がある恐ろしいメーカーが現れたものだと感じていた。
(実際に、多方面への展開の早さには目を見張るものがあり、ライターに限らず人材が優れているのだろう)


原画については、まあ普通(中の下)。
八宝備仁氏のように美麗で繊細というわけでもなく、特段優れているとは感じないが、
大衆受けする絵であるのは今までの人気から理解できる。


音楽についても普通(下の上)。
作品の雰囲気を損なわないぐらいには頑張っているが、
抜きん出て素晴らしいという印象は残らなかった。

エロについて(下)
…語る必要ある?



以下、シナリオについて感想雑記








一番好きなのは桜ルートの「鉄心エンド」。

衛宮士郎の人格に一番ブレが無く、衛宮切嗣を経て英霊エミヤに至る。
私はこの作品を思い出すとき、どうしても 「BALDR SKY Zero -バルドスカイゼロ」を思い出してしまう。
(※BALDR SKY Zero -バルドスカイゼロの方が、ずっと後の作品だが…)

戦争を減らすための戦争、つまり、誰も死なない世界を実現するために、多くの戦友、
最愛の女性すら犠牲にし、それでも立ち止まることなく戦い続けてきたヴォータン。

より多くの命を救う為、身近な人間を犠牲にして聖杯戦争を勝ち抜いた衛宮切嗣。

この2人の目的の達成に不可欠な、酷く現実的な考え方や生き様が重なるのだ。

桜を犠牲にした衛宮士郎は止まらない。

「そうだ。俺は切嗣と同じだ。恨むのなら、イリヤは俺を恨んでいい。」

言峰綺礼の言うとおり、衛宮士郎は衛宮切嗣に成り代わる。
何故なら、彼にとっての「正義の味方」とは切嗣そのものなのだから。
そして切嗣と同じように絶望し、それでも他人を救う理想を諦めきれない衛宮士郎は、
英霊エミヤになってしまうのだ。

この見せ方は、凛ルートで不足していたアーチャーと士郎の類似点を補う描写としても非情に上手い。
英霊エミヤの歩んできた道を、ユーザー側が想像しながら補完できる素晴らしいルートだと思う。









次に好きなのは、そのままの桜ルート。

ヴォータンに重なる鉄心エンドに対して、本ルートはゼロのエドワード准尉と重なるものがある。

「……誰か一人でも、助けられる人になりたい」
そんな子供ながらの純粋な思いを、最愛の少女の体を解体して
売り歩くしかなかった非情な現実によって叩き潰された子供時代のエドワード。

それでも、
「人は殺せるが、見捨てることは出来ない」

と語るエドワードの言葉と、街に住む大勢の命を犠牲に桜一人を選んだ衛宮士郎の姿は、
理想が潰えたとしても、自分が決断した道への歩みを止めない、確かな意思と力強さを感じた。



また、味方陣営や敵対するサーヴァントを入れ替える案も、非常にライターのセンスが光る演出だった。
各ルートでライダーって雑魚じゃん…と思わせる印象を一気に覆したのが面白い。





もう、全部エンドについて書くか…。








凛ルート
衛宮士郎を救済する物語。
「正義の味方」への考え方は変わらないものの、己の先の姿と対峙することで、
英霊エミヤから一番遠ざかるルートに感じた。

金ぴかVS士郎は、本編のギルガメッシュは、宝庫を持っているだけで、
武勇は他の英霊に劣るという設定自体が、武勇に優れたと言われる神話から乖離しているため、
そういうもんなんだという割り切りが必要になる。

元ネタに忠実だと、士郎じゃ絶対倒せないもんね…。

過去の自分を見て惑うアーチャーの歩んできた歴史は、
10代の若造の歩んだ道のりより、浅く、弱いものだったのか…?

其処に至るまで、何を犠牲にしてきた?
犠牲にしたものは、過去の自分を消し去りたい欲求に負けるほど些細なものだったのか?


桜ルートで見せる彼の散り様と、このルートで士郎に対峙する彼の在り方が違いすぎるので、
個人的には一番好きになれなかったルート。








セイバールート
王道物。
矛盾を抱えあうもの同士が惹かれあい、お互いの姿から成長していく物語。

砕けた言い方をすれば、可愛いセイバーといちゃいちゃするだけのルート。
最後に安易なハッピーエンドを持ってこないところは好評価。











気になったところ

この作品は言い換えれば、ファンタジーを含んだdeath gameだ。
なのに全ての登場人物が「死」に対しての緊張感が薄い。
故に登場人物の「命」に対しての重みを感じない。
キャラクターがバッタバッタ死んでいくのに、ふーん、脱落、そうか。で物語が進んでいく。
確かに読み物としては続きが気になる。
だが、仮にも命のやり取りをする訳だから、もっと葛藤や見せ方があってもいい筈だ。

確かに面白い作品ではあるが、「死生観」というPOVには疑問が湧く。
作者の情熱は伝わるが、「感動」というPOVも正直、私には理解できなかった。

Fateの登場人物は、設定は深いが造詣は浅い…という印象が強い。


例えば、私が学生時代に読んだ王領寺静(藤本ひとみ)氏の「黄金拍車」はある意味完成されている小説だ。

史実を織り交ぜながら、主人公の一人称で進む冒険活劇は、
一度読み始めたら最後まで突っ切ってしまう面白さがある。
魅力的な登場人物、一癖も二癖もある敵役。
並のエロゲーを凌駕する扇情的なシーンに、戦場と日常のメリハリのある文章。
年の離れた兄貴のようなロランの散り様は、時を経て今見返しても目頭が熱くなる。
オリビエの最後に、胸を打たれない奴は居ないだろう。
星の騎士団との絆、『こいつあ、すげえぜ』と刻まれたカズマの愛剣ドゥーリンダルテは、
どんな聖剣や魔槍にも勝る唯一無二の絶対的な魅力がある。
何度読んでも、何度もまた読み返したくなる魅力がこの本には溢れている。
(まあ、経歴も作家としても次元が違うので当たり前だが…)


ついでに脱線するが、原案:安田均・著:北沢慶氏の「アーヴィン英雄伝」も実に魅力的な作品だ。
登場人物の心情や生き様を丁寧に書いており、胸が熱くなる展開や描写が非常に多い。
水野良氏の話題先行型の「グランクレスト戦記」よりも、遥かに優れた作品だと個人的には思う。


これらの作品に登場する人物は、物語に動かされているのではなく、
作中で考え、悩み、己の意思をもって行動する。
そこには確かな「感動」がある。
故に作品が完結した後でも、読み手の想像の中で物語は続き、彼らはどんな人生を歩むのだろうと
余韻に浸ることができる。



話を戻す。
私が Fate/stay night で一番好きなキャラクターは誰ですか?と問われれば、
迷わず「言峰綺礼」と答えるだろう。
物語の都合によって行動が一貫していないアーチャーと異なり、
己の願望に忠実で、自発的に動く人間に映るからだ。







文章量に対して、日常描写が足りていないのも気になる。
桜ルートにおいて、衛宮士郎ほどの歪な価値観を矯正するには、それなりの説得力が必要。
桜を妹のように大切にしているのなら、尚更、心を揺さぶられるような思い出の記憶が欲しい。


せっかく作ったサーヴァントのパラメータ表示も、本編で活かして欲しかった。















総評
良作。
文章の質はともかく、ライターの構成力と非常に考えられた独自の世界観の確立は見事。
エロが極めて薄い為、ボイスのあるコンシューマー版のほうがオススメできる。