有佐里亜ちゃんだいしゅき
毎年。12月発売のエロゲは 波乱をもたらしてくれると個人的には思っていまして
その中で一番ぼくが期待していた作品が、本作「空に刻んだパラレログラム」でした。
ウグイスカグラ(ルクル作品)といえばシリアスな作風が売りであるだけに
前情報だとどう見ても爽やかなスポーツものにしか見えない本作には
困惑の声が大きかったように思います。
自分もそのうちの一人で、ルクルさんがこういう作品を作ったら
どういう化学変化を起こすんだろうかと期待半分不安半分といった感じでした。
体験版をプレイすると、たしかに青春スポーツ的な作風ではあったんですが
ルクルさんの色がちゃんと出ていて、
これはあくまでウグイスカグラの作品なのだと確信しました。
総プレイ時間は30時間程度
そこそこボリュームがあったかと思います。
原画はいつもの桐葉さん
イストリアよりもさらに淡く優しい色彩で、個性が前面に出ていてよかったと思います
登場人物が多いことと、試合用の立ち絵が必要だったので桐葉さんへの負担は大きかったんじゃないでしょうか。ウグイスカグラ君、スタッフ少なそうですしね…(小声
音楽もいつものめとさん
ウグイスカグラの切ない作風を支える縁の下の力持ちですが、本作も良かったです。
特に本作は演出に力を入れていたので、スポーツの臨場感を出すために音楽の力は必須でした。
テレプシコーラの一進一退の攻防を上手くアシストしていたと思います。
余談ですがそろそろウグイスカグラのコンプリートサントラ出してくれませんかね…
生放送で要望があれば~みたいなことをスタッフの方が言っていたそうなので楽しみにしています
絶対買うので
ネタバレしない程度にシナリオにも触れていきます
まず本作を語る上では外すことができないテレプシコーラについて
ルールはヘイローと呼ばれる球体を相手のゴールにぶつければ自チームに得点が入り、
試合終了までに多くの得点を獲得した方が勝利という単純明快なもの
3vs3で試合時間は前半15分後半15分の計30分
作中でも例えられていましたが、バスケットボールの3on3に似ています。
バスケットボールと大きく違う点は二点。
一つはフィールドが空であるということ
バスケットボールは平面上のスポーツですが、テレプシコーラは立体的に戦うスポーツです
攻撃の際の選択肢が増えるため戦略の幅が広がります。
もう一つはオラクルの存在
人それぞれが固有に持ち合わせているもので、RPG的に言うとMPのようなものです。
持っているその総量は人によって違います(持っていない人もいます)
ポイントは、オラクルの使い方を練習することはできてもその総量自体を増やすことはできないということです。
このオラクルは空を飛ぶこと、そしてヘイローを保持するために必要でありオラクルが尽きると
空を飛ぶことはできなくなります。
プレイし終わって改めてこのスポーツについて考えてみてルールの穴が目立つと感じました。
特にファールについての基準とペナルティが曖昧であることが気になりました。
バスケットボールでは接触において、ディフェンス側の方が不利になるようルールが設けられています。
テレプシコーラはディフェンスが圧倒的に有利なスポーツということで、このあたりの調整をもうちょっとうまくしてほしかったとぼくは思いました。
それと架空のスポーツだであることと、基本的に敵を抜くか裏を取るかの駆け引きしかないため
文章での表現になると盛り上がりに欠けると感じました。
実際にスポーツとして見るわけではなく、演出とテキストで状況を把握する必要があるため
中々のめりこみにくいです。
あくまでこのスポーツ自体は作品を作り上げるための土台であり、
テレプシコーラを通じたキャラクターたちの心理描写がメインになっているとぼくは感じました。
ここからはネタバレありきで少し感想を
まず、同じ空を飛ぶ架空スポーツを題材にしたあおかなのFCと比較したぼくの印象について
正直、舞台設定を含めて似ている部分は結構ありました。
例えば、柚のキャラクター象があおかなの明日香とモロ被りだったり、主人公の立ち位置だったり。
ただFCとテレプシコーラでは「チームスポーツか否か」という決定的に違う点があります。
あおかなは基本的には試合に介入するのは主人公とヒロインの二人であることに対し、
テレプシコーラはヒロイン三人+αで戦っていくため
試合中に各ヒロイン同士の抱えている思いのぶつかり合う場面が多いです。
少し話は変わりますが
この作品の一番の魅力は登場するキャラクターたちにあるとぼくは思います
エンプティアウル、エアロパーツ、カーディナルス、オリビア、プリティスターズ、クックロビン
どのチームも本当に魅力的で
それはどのチームのメンバーもそれぞれ違う形で、勝利を目指しぶつかっています。
「テレプシコーラにおいて個人技だけのスタイルが通用するのは中等部まで」
というワード作中で頻発するのですが、まさに各チームがこの言葉を体現していて
それぞれ別の形ではありますが、勝利につながるためにチームプレーをして戦っています。
以上のことから、本質的にはあおかなと似てはいないだろうと思います。
少し話が脱線してしまいました
繰り返しになってしまいますが、本作の魅力はシナリオよりもキャラクターにあると思います。
スポーツは勝ち負けという優劣が結果として現れます。
各チームのメンバーには抱えている思いは違えど、それぞれに負けられない理由があります。
ですが、いくら思いが強くとも実力差はかんたんに埋められるものではありません。
この作品では第一と第二という選ばれたものと選ばれないものの線引き、チーム内でのチームをけん引していく選手と足を引っ張ってしまう選手という格差のように対照的な存在がよく描かれています。
特にオラクルというどうしようもない先天的な枷があるので、オラクルに恵まれた天才とオラクルに恵まれなかった凡才がはっきりと分かれます。
この、与えられたキャラクターと与えられなかったキャラクターという線引きが
ルクルさんの持ち味であるやるせなさや切なさを上手く演出してくれていました。
メインとサブ、含めてどのキャラクターも魅力的ではあったのですが
その中で、ぼくが特に心惹かれた娘が有佐里亜という女の子です。
里亜はオラクル欠乏症により、生まれつき負け組の烙印を押されてしまっています。
それでも自身はオラクル欠乏症により満足に試合に出ることもできないのに翼を失った歩のために、
亡き大切な友人である紅の願いのために、そして何より飛ぶことが好きな自分のために
自分の弱さを受け入れてずっと水面下でできることをやり続けてあがく姿は本当に美しかったです。
ぼくのこの作品で一番好きなシーンが
自らチームのために身を引いた里亜の代わりにほたる先輩をレギュラー起用したアウルに対して
遊佐硝子が気持ちをぶつけるシーンです。
あんなにも傲慢で自分勝手な硝子が、他でもない里亜のために涙を流しながら叫ぶことが
第二テレプシコーラ部のために雑用を積極的に引き受け奉仕してきた、逆境にも負けず水面下で努力し続けてきた、歩と破璃を待ち続けて一人でもがき続けた里亜の一年間の努力をを証明していて
思わず泣いてしまいました。
あとはなんといっても、境遼二くんですね。
絶対王者として君臨し続けた、影の主人公です。
ぶっちゃけ影が薄い、主人公である歩より主人公していましたね…
王様キャラでありながら誰よりもストイックで、
とにかく勝つことに対して貪欲である姿勢がかっこいいです。
だからこそ本気でプレーした結果、歩の選手生命を断つきっかけを作ってしまった彼ですが
本当は誰よりもそのことを気にしていて、そのために王者としての立ち位置をだれにも譲らず
実は紅に恋をしていたっていうのが最高にかっこよくて、チャーミングでした。
結局彼自身が怪我に悩まされてしまい、敗北を喫するという「因果応報」はルクル作品らしいですね。
しゅきぃ…
総評
魅力的なキャラクターが多い作品でしたが、
登場人物の多さが良さでもあり悪さにもなっているのがもどかしかったです。
全てのキャラクターが満足に掘り下げられておらず、
個人的に遺愛やクロ、ポチ辺りの掘り下げはもっと欲しかったです。
上でも書きましたが、青春スポーツ物語でありながらルクル先生の色は存分に出ていて
これまでのウグイスカグラ作品と同じく「選択」や「優先順位」、「因果応報」などがメインテーマに添えられていました。
ただし、今までのウグイスカグラ作品と違う点がありまして
あくまでこの作品は爽やかな青春スポーツ物語であるという点なのです。
正直なことを言えば、ルクルさんや桐葉さんの持ち味を存分に活かせる題材ではないとぼくは思います。
それでも、新しい引き出しを開くために模索しながらも自分たちの色を出して作品を作り上げたそのチャレンジスピリッツをぼくは評価したいです。
名作かと尋ねられると正直YESとは言えませんし、今作も前作までと同様バグや誤字脱字、演出ミスによるテキストと演出の剥離などが多くゲームを作る姿勢としては褒められたものではありませんでした。
粗削りであるし悪いところもたくさんありましたが、同様に良さもたくさん詰まっている作品だったんでぼくは胸を張って好きな作品だと言えます。
ウグイスカグラにとってパラレログラムを作った経験は今後の作品を作る上できっと活きてくると思います。それだけに次回作は特に注目したいと思います。とても楽しみですね
以上です、
駄文、長文でしたがお付き合いいただきありがとうございました