初めての約束と、あの日伝えたかった、君のコトバ
もしも恋と恋とが触れ合ったときに生まれるものが愛だとするならば、本作品は純愛物語なのだと思います
恋は須らく一方通行なもので、その気持ちに相手は介入しません。
伝わらなかった時、または受け入れられなければその恋が失恋したと。そういうことなのでしょう
そして本作のカギになる要素のうちの一つである手紙、これもまた恋と似ています
自分の溢れださんばかりの気持ちを、文章にしたためて相手に向かって送る。
相手が受け取るかどう思うか知るすべはないです。だからこそすれ違ってしまう
本作はそういたったすれ違いによる、恋心の揺り動きにスポットを当てたかった作品なのではないでしょうか
私が感想を書こう、と思ったときに真っ先に引っかかたのがゆいルートなんですよね
他のヒロインのルートはあくまで恋愛にスポットを向けていましたが、ゆいルートだけは主に花壇やゆいにスポットを向けていたように感じたので
もう少し言うと、学園も違うし他のヒロインとの接点もかなり薄いんですよねゆいというキャラクターは。かろうじて菜子という繋がりがある程度で
このルートをプレイして既視感を感じたのが、本作品に携わっているライターの新島夕さんが手掛けるはつゆきさくらの望月宝(通称シロクマ)ルートです。極論を言えばいらないルートと言ってもいいでしょう
ただ公式サイトにも記述されている作品のテーマは、初恋から始まる物語や暖かくて甘酸っぱい純愛物語ということですので
過去にとらわれないフラットな気持ちでヒロインと向き合うという点では凛香及びゆいルートもそうコンセプトに外れたものでもないかなーと思ったりもします
余談ですがぼくはこの二人のルートもそれなりに好きです、特にゆいルートは優しいシナリオですしゆいのキャラも相まってとても癒されました
そして本作を語る上で大切なことの一つは、前述した"初恋"という点だと私は思います
これを彩音と星奏に当てはめたときにこの作品の真価が垣間見えるのではないかと(あくまでライターが書きたかったことという意味合いであり、他2人のヒロインがどうこうという話ではないです)
きっかけは2通の手紙、洸太郎が星奏にしたためた思いと彩音が洸太郎にしたためた思い
まずは彩音の手紙及び彩音ルートについて
彩音が洸太郎にあてた手紙は
「國見君へ」
「卒業したら会えないだろうね、なんかそんな気がする」
「それで、そう思ったら、我慢できなくて、手紙を書きました」
「今時手紙なんてって思うけど、メールはなんか違うし」
「直接言うのは今更過ぎるから」
「こんなこと。いきなりで、驚くと思うけど」
「好きです、ずっと前から」
「よかったら、返事聞かせてください」
「待ってます」
という内容になっています
私は新堂彩音という女の子のまっすぐな部分が溢れているこの手紙が大好きなんですよね
手紙を渡した後、彩音は洸太郎に対して何も言いませんでした。再開後も然り
けれど、洸太郎に会うために普通科に転入してきてしまった
それは思い付きでもなんでもなくて、
「気の迷いなんかじゃない」
「私、いっぱい考えて」
「ちゃんとあなたが好きだった」
と彩音自身が言うように、彩音はずっと前からちゃんと洸太郎のことが好きなんです
自分の初恋としっかり向き合って転入という形で主人公を追いかけた
そんなまっすぐな彩音に私はとても心が揺らされました
そんな彩音の気持ちを受けて主人公も悩み苦しみます
以下、愛美さんが洸太郎に送った言葉
「人の気持ちを想像するとか簡単に言うけど、それって、本当はすごいことなんじゃないのかな」
「本当にその人のために考えて考えて、苦しんで、やっと想像できるくらいじゃないのかな」
「でもなかなかそうはいかないよね」
「だからもし、本当にその人のために悩み苦しんで考えられるとしたら」
「その人のことが好きなのかもね」
そこで洸太郎は過去の彩音と向き合います
悩み苦しみながら過去の彩音と向き合い、今の自分の気持ちと向き合ったとき、洸太郎は自分が彩音に恋をしていたことに気付くのです
それはいきなり生まれたものじゃなくて初めからそこにあったんです、ただ見え方が違っただけ。
そしてすれ違っていたあるいは見えていなかった彩音の気持ちと洸太郎の気持ちが交わって愛が生まれたのではないでしょうか
ここを前提にして、星奏ルート及び終章について触れていきます
このゲームの本質、というかクリエイターがメインに置きたかったもの。
(あくまで私の解釈ですが)終章で星奏と洸太郎が結ばれたということから、やはり星奏と洸太郎の二人の恋についてだったのではないでしょうか
そしてその2人の対比である関係性が彩音と洸太郎だと思うので、同時にそこを照らし合わせてみます
まず2組の初恋について、洸太郎が送ったラブレターと彩音が送ったラブレター。
星奏はラブレターを読みながらも返事ができなかった、洸太郎はそもそもラブレターに気付かなかった。
違いはあれども結果的にはどちらも受け入れられませんでした(洸太郎は当時気づいていたとしても受け入れることはないだろうと彩音ルートで言っているため同じことかもしれませんが)
スタートラインは同じだったと思います、違ったのはその後
洸太郎は失恋を引きずって生きるのに対し、彩音は転入という形で追いかけました
ここが一番の分岐点だったのではないでしょうか、
星奏が洸太郎の元を去った理由、これに関しては単に星奏にとって一番大切なものが音楽だった。そういうことだと思います
。大切なのはその時何を思っていたのか、どんな気持ちを込めて別れのメールや手紙をしたためたのか
彩音が洸太郎を追いかけたように、星奏は洸太郎に追いかけてきてほしかったんじゃないかと思います。
その根拠は、幼いとき2人で海へ向かったとき洸太郎は遅くなりながらも来てくれたからです。
終章でその時のことについて星奏はこう言っています、
「洸太郎くんはこないってなんとなく思っていた。こないとは思ったけど、来てくれたらいいなって」
「あれからかなぁ」
「私が一人でいても……」
「洸太郎君がふらりと現れてくるような気がしてしょうがない」
「だけど当たり前だけど、いつも来てくれるわけじゃなくて」
「そしたらすごく寂しくなるんだよ」
「そしたら何も手がつかなくなくなって、君のことばかり考えてしまう」
「もう、呪いだよ。國見洸太郎の呪い」
ここで言う呪いは、星奏が洸太郎の事を信じるってことだったのはないかとそう思うのです
でもそれは星奏の傲慢です、話してもいないのにわかってほしいなんてそんなのは虫が良すぎる話ですから。
彼女は何度も話そうとしていました、洸太郎はそれに気づきながらも聞けなかった
どちらが悪いとか、間違っているとかそういうことではなくてそれがすれ違いだったのだと
星奏は洸太郎のことを思っていなかったわけでは決してないと思います。ただ星奏にとって音楽のことがそれ以上に大切だっただけで
物語の最期。3度目に星奏が洸太郎の前から姿を消したあと、洸太郎は変わったのです
洸太郎は星奏を追いかけはじめます、かつての彩音のように恋する人に会うために、懸命に。
そうしてグロリアスデイズの顛末について知り、記事にして
最後には星奏に伝えるために思いを込めた自身三作目の小説「それからアルファコロン」を書きます
そして洸太郎はベンチに座ってこう言うのです(洸太郎は空想の手紙とも言っています)
「俺たちは、俺と君は」
「似ているのかもしれません」
「いろんなものを犠牲に駆け抜けた先には、もしかしたら、寂しさだけが待っていたのかもしれません」
「君を全力で追い求めた俺もまた、どこにもたどり着けませんでした」
「だけど思い返すと、その季節はとても美しく輝いています」
「何物にもかえがたい宝物です」
「あなたが俺に、返事をくれたこと。何も言わずに去ったこと。今ならなんとなく理解できる気がします」
「あなたはただ全力だったんだと思います」
「あなたが全力であるものに対して」
「そんなあなただからこそ、最後の最後に手紙にしたためた言葉は、きっと心からの決心を込めて描いたのでしょう」
「二度と、俺に会わないと誓うって」
「それがあなたのけじめなら、俺は、それも大事に受けとりたいと思います」
「けれど、それでも俺はもう少し全力で言います」
「あなたに会いたい」
「あなたが好きです」
星奏は手紙を2通洸太郎に向けて書きました。
一枚は学生時代に洸太郎へ送った告白の手紙、もう一枚は最後に音楽へと向かう決別の手紙
洸太郎が言うように、どちらも「心からの決心を込めた」手紙なのでしょう
洸太郎が好きだという気持ちと、もう会わないという意思を込めた気持ち
そして洸太郎は自分の手紙が彼女に届いて、それが慰めになっていたのならそれでいい。無駄じゃなかった
こう言っています
これが彼の恋であり、彼が出した手紙はその思いを形にしたものだったのでしょう
そしてラストシーン、星奏が洸太郎のとなりに現れ微笑みかけます。
私はそれを
洸太郎が星奏を全力で追い続け、追い続けた結果その思いが星奏に届いた。そう捉えました
それまですれ違い続けていた二人の恋が、星奏が抱えていた恋と洸太郎が追い続け伝え続けた恋が、そこでようやく結ばれたんだなと
だからこそこの物語のは「星奏と洸太郎の純愛物語」であったのだと私は思いました
今度こそすれ違わず、幸せなまま二人で過ごしてほしいですね
最後に本作の総評を
感想を読んでいただければわかるとは思いますが、私はこの作品のことが大好きになりました。
シナリオはもちろんのこと、音楽グラフィックは最高レベルで素晴らしい世界観を作り出していたと思います
正直しっかり読み込んでいるわけではありませんので、理解できていない部分も多いです。
ただ、新島夕さんのファンである私としてはいい感じに新島節を感じることができた作品に大満足でしたので今後もっと理解できたらいいなとそう思います
本作品が発売してから1年以上経過しますが、ブランドさんから新作の情報が出ないのでもう新作が出ることはないのでしょうか。だとしたら残念でならないです
王道とはいいがたいですが、一つの恋愛の形で楽しませてくれた本作品のような作品をプレイしたかったので
もし次回作が出るのであれば購入して、1ユーザーとしてブランドさんを応援していきたいとおもいます
良い作品に巡り合うこととができてうれしいです。クリエイターの皆さんありがとうございました