不器用な二人が家族になる物語
最初からネタバレ全開なのでご注意ください
物語は主人公が腹違いの妹から主人公の父親へ向けた一通の手紙から始まります
主人公は妹である柚が彼女の唯一の肉親である祖母を亡くしたことを知り””兄妹””になろうとする。
一方の柚も最初は心を閉ざしていたが、寡黙で人相が悪いけれどまっすぐな主人公のそばにいることで徐々に心を開いていき、柚も主人公である岳史と”兄妹”になろうとする。周りの人にも支えられ二人は本当の”兄妹”になるために、また柚の祖母が生前に守り続けてきた食堂を守るために歩き始める
といったシナリオなのだと途中までは思っていました。
いざふたを開けてみれば”兄妹”になるための話、ではなくて”家族”になるための話でしたね
この辺はまた後述します
ディレクションを担当しているが1世代前のPULLTOPのディレクションをなさっていた朝妻ユタカさんということで、本作は「見上げてごらん、夜空の星を」や「この大空に、翼を広げて」といった最近のPULLTOPゲーではなく「ゆのはな」や「遥かに仰ぎ、麗しの」のような雰囲気に近いゲームでした
私の中で旧時代のPULLTOPといえば世界観を重視した所謂雰囲気ゲーなのですが、本作はまさに雰囲気ゲーといって差し支えないであろう世界観が上手く練られた作品だったと思います
まずは、音楽が良いですね。
田舎が舞台ということで全体的に優しめな曲が多かったのですが、その中でも包丁でまな板を叩く音をイメージされたであろうBGMや鍋をおたまでたたくような音をイメージされているであろうBGMがありました。結構斬新なBGMだと個人的には思ったのですが料理をテーマにしている、ということでこの辺は雰囲気作りには最適だったと思います。曲名も全て料理のことをモチーフにされていますね
OPとEDもそうですね、料理の事を歌った曲です
二曲とも柚の声優さんである市川ひなこさんが担当されているのも朝妻さんなりの雰囲気づくりのポイントなのではないでしょうか。
次にCG、おそらくここはかなりこだわりたかった部分なのだと思います。
全体の差分を抜きにしたCG枚数がSD込みで117枚、そのうち料理のCGが22枚とかなり多いです
料理のCGはどれもリアルなグラフィックで、主に深夜にプレイしていた私としてはお腹が刺激されましたね…
どれもとてもおいしそうで、自分でも作れそうなレシピがいくつかありますので作ってみたいと思わせるくらい綺麗なグラフィックだと思いました。聞いた話によると、予約特典に実際のレシピがのっている冊子がついているとかいないとか。ぜひともほしかったですね…
演出はあんまり印象に残っていませんが、激しい画面効果はなくおちついてプレイできました。
アイキャッチがかわいかったです
そして、エッチですがここはさすがに贔屓が露骨すぎましたね(笑)
柚以外のヒロインがエクストラ込みで4つに対して、柚はその倍である8つという優遇っぷり
プレイしているとこのゲームは柚のための物語なんだと思える部分が節々にあったので、そう考えると贔屓されるのわかる気はしますがそれにしても他のヒロインの倍っていうのはすごいですね
柚以外のヒロインを目当てにされていた方がいたならばここは不満に思うのではないでしょうか
身もふたもないことなんですが、私はえっちを期待してこのゲームを買ったわけではないので気にはなりませんでした
ということで、えっちは置いておくとして雰囲気づくりはかなり大事にされていると感じたので言葉として表すなら雰囲気ゲーっていうのがしっくりくるのかなと私は思いました
次にシナリオに触れていきたいと思います
どのヒロインもよかったのですが、私はあくまで柚のため物語だと思ったので主に柚について触れていきます。
私がこの作品をプレイしてずっと思っていたこと、先ほども書きましたが柚のための物語ってことです。厳密には柚と岳史のため、っていう方が正しいような気もしますが
すずなルートは少し薄かったような気がしますが、椋花ルート及びこごみルートではそれぞれ該当ルートのヒロインと岳史が結ばれながらも柚と岳史との”兄妹”という関係をとても大事にしていると感じました
特に椋香ルートでは、椋香と柚とが本当の姉妹かの様に描かれています
個別ルートについて細かいことは割愛しますが、どのルートもシリアスな展開が全くなく胸糞悪くなるという展開はありませんでした。ただ、こごみルートだけ短かったような気がしますね…私の気のせいでしょうか、他のヒロインのルートの半分くらいの時間で終わったような気がします
余談ですが、私は椋香ルートが一番好きです。ファーストキスのところでやられました…
ということで本命の柚について触れていきます
この柚という娘、とにかくポンコツなんですよね。
予期せぬことがあるとすぐ慌てる、料理に関してはからっきし、家事もそこまで得意ではない
年齢のことを考えると、岳史に出会った時点ではおそらく16歳前後だと思われるのでまぁしょうがないかなって気もします。極度の人見知りっていう部分は、親戚中を厄介者としてたらいまわしにされた結果なのでしょう
岳史は逆に料理のスキルはかなり高く、家事もできる、土下座癖(?)はあるものの基本的に落ち着いている実年齢より大人びている青年なのではないでしょうか
公式でまっすぐすぎる主人公、って紹介されているとおり鈍感な部分はあるのですが自分の我をしっかり持っていて柚の兄妹として柚のことを一番に考えています。柚に対しては甘すぎるくらいですが、もし柚に危険が及ぶようなことがあれば、例え柚であってもしっかり咎めます。
(共通ルートにて柚が泳げないことをほのめかす場面で、柚が自身は泳げないと言いにくそうにしているにも関わらず命の危険性があるというため柚の気持ちを汲み取ったうえでそのことを問いただす場面がありました)
ただ、ちゃんと気遣いができる人間でもありました。少し物事を自分で背負いすぎる節はありますが
共通ルートではこの二人がそれぞれが思う”兄妹”を目指していくわけですが、かなりぎこちないですね。
必要以上に”兄妹”という単語を口にしています(後に柚ルートで岳史が独白部分で”兄妹ごっこ”と言っています)
2人が兄妹ごっこを始めてまもなく岳史が実は柚と自分が腹違いの兄妹ではなく、赤の他人だと知るのですが岳史は祖母を失って天涯孤独である柚には兄(家族)である自分が必要だと思い一緒にいることを決意します
しらたま食堂で一緒に料理を作り、一緒の家で生活していくにつれてそんな兄妹に変化が訪れます
それまで柚が発していた言葉が「ごめんなさい」が「ありがとう」へ、「私がやります」が「お願いします」へ
ここでずっと家族になろうとしていた二人が、自然と家族になったのだと思いました
家族になったという点で、印象に残っているエピソードがあります。
椋香ルートでの事なのですが、主人公と椋香が柚が隠し持っている袋ラーメンを勝手に拝借するシーンがあります
岳史は最初、柚の祖母が残したお金や柚のものは一切手を出そうとしませんでした。柚がカップラーメンを岳史に食べさせたシーンでも、あとで買い足しておこうなどと言っています
そんな岳史が、柚が大好きなラーメンを怒られることを承知で勝手に食べるわけです
これは岳史自身が柚と自分が家族になったという現れと、家族である柚ならば怒られても許してくれるだろうという信頼から来ている行動なのだと思いました。なんでもないシーンだとは思うのですが、こういったシーンから感じることのできる家族観は私にはたまらなかったですね
と、こんなかんじに二人は1年という月日を共にすることで徐々に家族になっていった感じですね
そしてここで最初に言った、”兄妹”でなく”家族”になるための物語っていう部分に触れていきたいと思います。
柚ルート以外では岳史と柚が血縁関係にないということは明かされないままですが、柚ルートでは図らずも柚が岳史と同じように自分と岳史が血縁関係にないことを知ってしまいます
その時から、柚は岳史を”兄”としてではなくて”一人の男性”として意識するようになってしまったのです
そして物語は柚が岳史を一人の男性として見始めてから1年の月日が経ちます
もうこのときから”兄妹”っていう関係性が破綻してしまっているんですよね
兄と妹がいての兄妹であって、柚が岳史を兄として見れなくなった以上もうそこにいるのは兄妹ではないのかなと
ただ岳史は柚が自分と同じように二人が血縁関係にないことを知ったということを知らないわけですから、今まで通り兄妹として接するわけです。でも柚は兄妹として岳史のことを見ていないわけですからすれ違いが起きてしまいます
そしてぎくしゃくしながらも物語は進んでいき、ついに柚が岳史との血縁関係にないことを知っていたと岳史に伝えるわけです
ここで岳史は悩み苦しむわけですが、ある結論を出します。
ここが2人は兄妹ではなくなったという決定的な部分ですね
以下、テキストから抜粋
柚「じゃあ、その…兄妹である必要はあるんですか…?」
岳史「ない」
柚「ええと、それって…」
岳史「俺個人として、柚と一緒にいたい」
と、柚だけではなく岳史も兄妹であることを否定したわけですね
これは柚が岳史とは兄妹でいたくないという気持ちを岳史汲み取った結果、ならば兄妹としてではなく岳史として柚と向かうと宣誓しているわけです
そして二人は兄妹から、柚と岳史に戻り、恋人になり、いずれはまた家族になるのでしょう
ここまで長々と書いてきて。結局何が言いたいのかというとこれは”兄妹”としての物語ではなく”家族”になるための物語だったということですね。クリエイターさんもそういう風に作られたのだと思います
このゲームを兄妹ゲーとして見るなら私の中では駄作になります
とまぁこれが言いたいがためだけに長々と語ってきたわけですね
兄妹が大好きな自分としてはここは素直に残念だなーと思っています。柚ルート以外ではちゃんと二人は兄妹として描かれていたため、柚ルートでも例え血縁にはなくとも本当の兄妹になるための物語だと勝手に思っていたので。
家族ゲーとして見ればとてもよいゲームだったと思います
他人から兄妹へ、兄妹から柚と岳史へ、柚と岳史から家族へ
この距離感の移り変わりは非常に丁寧に描写されていたと思います
総評
シスコンこじらせたせいで結果的に少し辛口な感想になっていますが、ゲーム全体として見るならば大変満足できる出来でした。白珠村という世界観をシリアスのないシナリオ、優しい音楽、それを取り巻くキャラクターたちで作った作品でしたので、旧PULLTOPファンの私からするとたまらない作品でした
ここまで愚痴だらけのくっそ長い駄文を読んでいただきありがとうございました
PS、関係ないですが朝妻さんが手掛ける「厨二姫の帝国」とても楽しみにしています