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gambiさんのG線上の魔王の長文感想

ユーザー
gambi
ゲーム
G線上の魔王
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
89
参照数
794

一言コメント

最終章にすべてが集約されています

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

サブルートとメインルートとの整合性がとれていないので(主に魔王の正体について)、そこが気になる人にとってはつらいかもしれません。
自分は、サブルートは「イイハナシダナー」程度で流したので、とても良い作品でした。というわけで、これ以降はメインルートのハルルートについてのみ語ります。

キャッチコピーは「息詰まる頭脳戦」らしいですが、章が進むごとにその要素は薄くなっていきます。メインテーマはむしろ、主人公とヒロインのハルを巡る人間ドラマにあると思います。1~4章までの積み重ねが5章・最終章で一気に収束する展開は良かったです。

で、シナリオについてですが、ぶっちゃけ粗が目立ちます。伏線が回収しきれていなかったり、展開が少々強引だったりするので、手放しで賞賛出来るほどではないですし、シナリオの完成度という点に絞れば、前作の車輪の国の方が高いです。
ですが、最終章の破壊力は絶大であり、あれのせいで細かい不満点がほとんど気にならなくなりました。あれは卑怯ですよ…
作品を通して一番泣いた作品はマブラヴオルタでしたが、瞬間的に一番泣いた作品はG線の最終章でした。それこそ、ハンカチが必要になるほどに。

BGMはクラシックのアレンジだけあって、どれも高レベルですが、原曲にはさすがに劣ります。
CVに関しては、男キャラ・女キャラ共に文句のつけようがありません。話題になったのは魔王役のあの方ですが、個人的にはハル役のかわしまりのさんが今回のMVP。普段のローテンションボイスと感情をむき出しにして叫ぶシーンとの演じ分けも素晴らしかったのですが、なんといっても最終章での別れのシーン。ここでハルを演じたのが彼女でなければ、自分はあれほどまでに泣きはしなかったでしょう。

90点付けてもよかったのですが、ストーリー全体を通しての粗はやはり無視できなかったので、ギリギリ90点は付けないでおきます。それでも良くできた物語だとは思いますが。

最終章で描かれたテーマは憎悪と贖罪だと自分は思っています。京介との平穏な生活を望みながらも復讐心を捨て切れなかったハルは、憎悪に負けて魔王に銃口を向けます。それこそがハルの罪であり、その憎悪を断ち切るために京介がとった行動こそが、自身とハルにとっての贖罪となったのでしょう。そして、憎悪と共にハルとの縁も断ち切られた思っていた矢先、自分とハルを繋ぐ存在が現れる。この時の京介の気持ちはどのようなものだったのか。様々な感情が去来し、故に彼は泣き崩れたのでしょう。このシーンを見て、「神様は優しいのか残酷なのか」と言った人がいましたが、的を射た表現だと思います。
これから彼らが歩む道は、権三が述べたとおり、苦難に満ちたものとなるでしょうが、それでも最後の「粉雪がやんだ」という一文が希望の表れであると信じたいです。