ErogameScape -エロゲー批評空間-

ftbgrbさんのLOVESICK PUPPIES -僕らは恋するために生まれてきた-の長文感想

ユーザー
ftbgrb
ゲーム
LOVESICK PUPPIES -僕らは恋するために生まれてきた-
ブランド
COSMIC CUTE
得点
75
参照数
638

一言コメント

舵取りのミスか? 製作に時間取れなかったのか? 共通パートにおける抜群のお膳立てと、半端なイチャラブ描写 良ゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

いい点、悪い点あるのだけど、
ここは二つのルートに絞って述べたいと思う。

まずは織衣ルート

本作最大のがっかりルート。
このがっかり感を伝えるため、あるメタファーを使おうと思う。

カレー屋だ。
カレー屋に入るところを想像してほしい。

店名はインド語だから分からない。
でも中に足を踏み入るとターバン巻いた年配のインド人が、
少し癖のある柔らかい日本語で暖かく迎えてくれる。
店の温度はやや高めで、独特の香ばしい香りがして落ち着きがある。

さて何を頼もう。
メニューを覗いてみると、聞いたこともないような料理名が、
スパイスの簡単な説明とともに何ページかにわたって書いてある。
戸惑うところではあるけど、店長の「おすすめ」もきっちり載っていて、
初めてここに来た自分のような客への配慮も忘れていないらしい。

じゃあここはこのおすすめをいただこう。
あの上品な店員にそれを告げると、
優しい微笑みを浮かべて厨房を消えていった。

ほどなくして料理が運ばれてくる。
なかなか早い。
日本では時間が何よりも大事だということを、
店長はちゃんと心得ているらしい。

さて、いただこう。
黄色いターメリックライスにのったルーにスプーンを入れて一口、口に運んでみる。

……あれ?
なんか想像していたのと違う。
いや、そんなはずはない。食べログの評価はまずまずだった。
本格インド料理屋の味が自分に分からないだけかもしれない。
違和感を払拭すべく二口目。しかしそれはむしろ大きくなる。
これは……まずくはない。
まずくはないのだけど……
三口目。既視感。絶対知っている味なのだ。
四口m……というかこれ、

「ボンカレーじゃねぇか……」

-----------------------------------------------------------------------------

織衣の豊かなキャラクター設定には舌を巻いた。
「複雑な家庭環境」というテーマ自体はありがちながら、
その崩壊の過程で家族内に起こる猜疑心、すれ違い、それに気の遣い合いまで、
ちゃんとあまさず描かれている。
目指していた家族の再建は途中で失敗に終わってしまい、織衣は大きく傷つく。

織衣はその間自分の感情をどこに持って行っていいのかで悩み続け、
心を閉ざしたり、逆に触れ合いを求めたりともがきながら、
血のつながりのない別の「絆」にその答えを求めようとする。
それらの描写は実に見事だった。

ここまでで終わっていたら、ある意味最高だったのかもしれない。
でもプロット的にはそうではなかったはずだ。
織衣にとって一番大事なのはこのあとに来るはずだからだ。

つまり、家族という絆を失った子どもはどう生きればいいのか?
新たな他人と別の家族をつくることができるのか?
それを再び失うことになるのではないか?
そういう葛藤を抱えながら、人は何か新しい物に手を出すべきなのか?

本作では、冒頭でアパートを取り壊すことまでもが決まっている。
構成を考えると、織衣ルートのテーマはここにあるべきだった。
失うことをわかっていて、それに一定以上の思い入れを抱くことは怖い。
でも基本的に、人生は長く生きれば長く生きるほど失い続けるものだ。
だから結局何かに好意を抱いたり、嫌われたりしながら生きるしかない。

いや「こうあるべきだ」と主張するのは、ちょっと行き過ぎと思うかもしれない。
だけど、織衣自身がそういったものに対する気づきの姿勢を要所要所で見せており、
固定ルートで「これからどう向き合うのか」という描写がいくつか入る。
この時点で私の固定ルートに対する期待は否応なく高まっていた。

なのに。

なのに……

なんだこのイチャラブルートは!!!!!
えぇ!!!????
なんでこんなどう転んでも傑作にしかならなさそうな風呂敷広げといて、
猫耳エッチで採算取ろうとするの!!!????
おかしくない!!!!!????
めっっっちゃ期待したのに!!!!????

離婚が決まって泣くシーン、あれ最高だったよ……
結局なあなあで終わるのかなーって思ったら、
うまくいかなくて織衣がズタボロに。

と思いきや!
結局主人公に身体を許したりイチャイチャしたりするうちに、
「ま!それも人生だよね!!うんうん!!」みたいな感じで、

主人公及び他の住人たちとのかりそめの平和を受け入れて。

時々イチャイチャして。

性欲旺盛な主人公のために猫耳つけて。

それで終わり。
あ、アパートも結局壊したっけ。

なんだこれ!!!!!
本当!!!なんだよこれ!!!!!

あの葛藤はどこへ行ったの!?
案外あっさり乗り越えたの!?
描写もうちょっと要るんじゃない!?
アパートも「まぁどうせ跡地になんか建てるしいいでしょ」みたいな空気があるし……

織衣がどうやって傷を癒していくのかとか、
少しずつ再起したとして、その後どこへ向かおうとするのかとか、
主人公が失った犬の話と対比して描写してみせたり、
その過程で保科有希と喧嘩させたり、
例えば主人公の側もアパートを失うことに対して同じ悩みにハマったり、
そういう描写でいっくらでも凄いシナリオにできそうだったのに……

このゲーム全体的に言えることだけど、
カタルシス描写がなんというか……ぬるい。
いやぬるいというか、時間かけられなくて、
及第点よりちょい低めのクオリティしか作れなかったという感じ。

"lovesick puppies"の意味は「愛に悩む子犬たち」といういかにもイチャラブっぽい名前なんだけど、
恋愛の葛藤にそれほど描写の力が入ってるとは思えないし、
その割りにアパートの取り壊しや愛犬の死、捨て子や親の離婚、それに双子の憎悪と、
かなり重めの設定が全般にわたって散りばめられている。
(もっとも、愛犬の死が保科ルートで丁寧に描かれる以外はどれも中途半端な見せ方だけど……)

実は「絆や愛情に飢える人々」という意味で、
ゲーム企画段階ではもっとシリアスな内容にするつもりだったのでは……?
と邪推せずにいられない。
それが無理になったか、売れそうにないから、ちょっとだけエッチシーン増やして、
なんとなくシナリオも楽しめるエッチゲーにしてやるぜってことになったの……?
にしては、メールのやり取りのシーンはイチャラブ要素としてはイマイチパンチがないし、
イチャつき具合として楽しめたかというと……まぁ正直ちょっと楽しめたんだけど、
前半とのバランスを考えると、消化不良と言わざるをえない。

特に共通ルートには織衣のかなり繊細な描写が多かったことから、
ここからも当初の目標と成果物のズレがうかがえる。
あるいは、共通シナリオの執筆時間を取られて、
固定ルートまで手が回らなかったんだろうか……?

客として正直な感想を申し上げると、
鼻をほどよく刺激するスパイスの香り、
優しそうな雰囲気のおじさんといった種々の素晴らしい雰囲気を味わせておいて、
ステンレスの皿にボンカレー乗っけて食わされたらそりゃがっかりするよ……
そんなら最初からローソンでボンカレー買ってきてボンカレー食ってるわ!!!って。

絶対に!!!!
絶対に織衣ルートのファンディスク作ってほしい!!!!

いや作ってください……お願いします……
キャラクターは素敵だったと思うので……

-----------------------------------------------------------------------------

続いてまるなルート
これもがっかりルートです……
ただし織衣とは反対に、ボンカレーの味がするボンカレーだった。
評価が高かったため期待していたが、
正直に言うと全然おもしろくなかった。

局所的に良い所・感動できたところはあった。
でも主人公の「おせっかい」キャラが終始全肯定されており、
その点で全ルート中、一番気味が悪かった。
このルートではほぼヒロインが主人公の鏡となっており、
主人公の行いがヒロインに肯定されることで主人公の正しさが立証される、
という構図をとっている。
それが見えてくると、途端にやる気がなくなる。

常に「主人公が上/ヒロインが下」となる関係は、
特にエロゲーに多いから、多分ライターもそれを認識していたのだろう。
フォローのためかヒロインたちが「こいつウザいよね」って主人公を下げる描写は多く見られた。
でも、結局主人公がそこで深刻な悩みに直面することがないまま、
なんとなく「でも好きなんだよね」で解決されてしまっていて、なんだかなぁ。

また、途中の捨て子の下りについて。
ここはまるごと全部不要だし、作品のクオリティを著しく下げていた気がする。
この下りを入れてしまったことで、
まるなの父親は許され、逆にこの下りで子どもを捨てた母親が悪となった理由が、
よくわからなくなってしまっている。

ぶっちゃけると両者のやったことはほとんど同じだ。
自分の人生を生きていく上で、子どもを側に置く理由がわからなくなった。
だから、子を排除することで自分を優先させる道を選んだが、
周囲に諭されて、やはり一緒にいることにした。

やったことは同じなのに、まるなの父とあの母親は全然扱いが違う。
父親は呆れられながらも受け入れられる一方、
母親は犯罪者か何かのように終始罵られる。
これに「まるなは子どもの立場から家族である父を許したからいいのだ」という説明をつけると、
今度は赤の他人である主人公とまるなが子を捨てた母親を叱りつける理由がわからない。

確かに我が子を捨てる母親を無条件に肯定することはできないと思う
でも、頭ごなしにこの母親を断じる理由もない。
しかもこいつら、せいぜい高○生である。
ほんの少し面倒をみてくれた○校生生に子育てを語られて、
心を病み気味の母親が黙っているだろうか?
私なら包丁を振り回す。

その辺、ものすごく矛盾しているのに、なんだかいい話のように語られるのが気持ち悪い。
しかも一枚絵まで用意して、まるなが叱っている描写も臨場感たっぷりだ。
根本的にこのライターが子育てや家族について誤解をしているか、
「どうせこういうのが好きなんでしょ?」とナメられている気がしてならない。

-----------------------------------------------------------------------------

全体的に、やっぱりカタルシスに対するツメが甘い作品だった。
保科ルートも悪くはなかったんだけど……声優さんの力量に頼ってる感がなぁ。
多分、ライターさんは織衣に命かけるくらい気合い入れたはず(個人的見解)だと思うので、
メーカーさん、このゲームの完全版かファンディスクか、
何かそういった形でお願いしたいんだけど……ダメっすかね?

ソーニャの民謡の元ネタやソラリスと惑星ソラリスとのつながり等、
回収されていない伏線もいっぱいあるんだしさ!!