当たり前のことを、優しく描いた群像劇。物足りない部分はあるが、童話を読むようにプレイしたくなる良作
これまでのLittleWitch作品と較べると、堅実だがやや保守的な作風。
作品の設定にも引っ張られたか?
相変わらずビジュアル面の統一感は素晴らしく、文句なし。
19世紀英国の雰囲気に浸れる。
シーンによって背景の出来に差があるとは言え、コンテに対する仕上げは
非常に丁寧で、立ち絵と背景の一体感をかなり高いレベルで実現している。
小道具類も含めて美術のセンスは抜群で、時代考証もされている様子。
外注までしてるフォントはこだわりを感じるところ。
Quartettに較べれば「普通のエロゲ」のルールに乗ってしまっているのは
否めないところだが、名作劇場的なOP・EDや場面転換時のアイキャッチ、
システムアイコンまでトータルなデザインは更に洗練されている。
他ブランドと比較してもCGを含めたビジュアルのレベルが高く、この辺りは
今後執事物をリリースする他のブランドにも影響があるかも知れない。
音楽はさすがの細井マジック。
BGMは非の打ち所がない。今作はOPテーマがすごくいいと思う。
声優陣はロビネッタのキャスティングが絶妙だが、特に挙げるなら
やはり主人公のマシューがよかった。
愚痴っぽい独白も不自然に聞こえないし、端々への感情の込め方などは
他作品のボイス有り主人公と比較してもかなり好感が持てる。
シナリオは圧倒的な感動やうねりはないが物語に引き込む丁寧な作りで、
話を進めるにしたがって作品の雰囲気に浸っていたくなる。
バラバラだった屋敷の人間たちがまとまっていく過程がよく描写されていて、
普遍的な内容もきちんとキャラクターの言葉にして語らせているのがいい。
個人的にこういう群像劇が好きというのもあるが、各章ごとの起承転結が
きれいにまとめられているし、全編を通しての登場人物の成長が過不足なく
描写されていて、自然に感じられる作りになっているところがとてもよかった。
個別ルートはLittleWitchらしいというか、物足りない印象が拭えない。
全般的に、主人公からでもヒロインからでも惹かれていく過程の心理描写が
足りていないのではないかと思う。
ロビィルートはヒロインの中では最も出来のいいルートだと思う。
女王の前でのスピーチ、「私の半身です」はまさに名台詞。
もうちょっとマシューにいい場面が欲しかったところ。
コレットルートは伯爵夫人と対決する場面で解決が強引すぎる印象。
悪役が実にうまく腹立たせてくれるだけに、屋敷の皆がそれぞれ
コレットのために個性を発揮して助ける描写があれば、より読後の
爽快感は高くなったんじゃないだろうか。
リタはせっかく感動の材料が十分に揃っているのだから、アルフの墓で
ロビィがリタを見つけた時の場面とか、もう少しあざとく作って泣かせても
よかったんじゃないかと思う。
ニナルートは地味だがロビィEDに次ぐ出来で、ニナよりロビィの方が
目立つってどうなんだろうとは思うものの、一番名作劇場っぽいEDで
なかなか楽しかった。
全体で惜しいのは、Quartettであれほど絶妙だったオートプレイ時の
台詞の流れ方や間の取り方が失われていること。
場面ごとに台詞に緩急をつけ、演出の個性を際立たせていた部分が
おざなりになってしまっていて、それがいい場面ほど響いてしまうのが痛い。
EDテーマを入れるタイミングとか非常にうまいので、余計にもったいない。
とは言え、「心遣い」や「思いやり」と言った当たり前で忘れがちなものを、
執事と言うそれらが際立つ設定を使ってよく描いた良作だと思う。
「察すること」が仕事だけに、非常に有効な設定になっている。
総合的に見て、個別ルートは今ひとつだが共通ルートの魅力は
十分に良作と呼べるだけのものはある作品だと思う。
今後の課題は個別ルートだが、次作は是非吹き出し式のFFDシステムも
復活させて欲しい。