やるせない…
なんだ…この読後感は…。
鬱というか虚脱のような感覚。
希望と絶望、優しさと残酷さを交互にではなく同時に見せてくる。
それらの二項対立は片方のみでの存在を許しはしない。
幸福は不幸を贄としている。喜びは悲しみを、健康は病気を…。
ただそれだけ…。
仏教の無常にみられる虚無観や、『老子』の思想みたいな相対観を、
淡々と語るならばいい。でも本作で、そんな思想観の世界に悲劇的な状況で
直面することになるのは別に悟りを得た覚者でもなんでもない、フツーの人達。
ただ世界はこういうものなんだ、ということそれ自体が暴力となって襲い掛かってくる。
等価交換という奇跡はそんなシステマチックな世界を端的に表す手法でしかなく、
奇跡自体には意味を見出しがたい。
いろんな宗教とか道徳とかで尊ばれている「自己犠牲」をこの作中のキャラ達はやってのける。
例えば由紀ルートなら、主人公だ。
自らの視力を愛する人のために捧げる…。
すごい。なんてもんじゃない。貧困な想像力と人生経験しか持たない自分には
想像すらかなわない。普通できないんじゃないか。まだ十代なのにこれから一生目が視えないかもしれない。怖すぎる。自分なら…無理だ。
それを彼はやったのだ。
結果、主人公は視力を失い、代わりに由紀は視えるようになる。そして二人で手を取り合って前へ進む。
話はそこで終わる。
主人公はこの後どうなるのか、その答えまで用意されてはいない。
彼には世界から祝福が待っているのだろうか。
それとも別に何もなく、あるのはただ愛する人に視力を与え、
自分は視力を失ったという事実だけなのだろうか。
…でもそんなのはどっちだかわからないし、どっちでもいいのだろう。
世界の在り方の定義より、大切なものがきっとある。
その鍵は確かに、主人公が持っているはずだ。