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folsetyさんのDemons Rootsの長文感想

ユーザー
folsety
ゲーム
Demons Roots
ブランド
深爪貴族
得点
92
参照数
861

一言コメント

Demons Roots→King Exitとプレイしたが、事前にKing Exitプレイ推奨。キャラクターごとの見せ場、予想を裏切りつつも期待を裏切らない展開、BADENDの凄惨さ、そして前作の存在の活かし方。ここまで高レベルのエロゲはそうはない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最初はネタバレ薄めで

開始してすぐに「これはそんじょそこらのものとは違うな」と感じた
前作をやっていないから、というのもあるが始めてすぐに魔族側に感情移入をさせられる作りがまず秀逸
最初の仲間であるラダデモンや犬はすぐに離脱するだろうなー、と思いつつも犬が離脱したときには「犬ー!」と叫んでしまった
とにかくキャラクターを魅力的に見せるのがうまい

デスポリュカ
冷徹・狡猾そうに振る舞うものの実際には慈愛と正義感が強く、悪をくじき弱者を救うタイプ。魔族を守るためなら何でもすると公言しており実際にその通りに行動しているため、BADEND等でどれほど踏みにじられ従順な姿を見せても心は折れていないんだろうな、と感じられる点がまた良い

アンジュ
下手をすれば一般人よりも弱いのでは?という落ちこぼれ騎士。ただ自身の弱さを理解しつつも、踏みにじられる人がいることを許せず、ポリュカとともに戦う。優しいというよりは甘いほどだが、それがポリュカとの相性がよかったらしく「ポリュカはアンジュを通して人間を信頼していた」と言われるほど。弱いことを理解しつつ理想のために戦う姿がお気に入り。なお仲間で唯一のタンクのため戦闘ではもっとも優秀(というか必須)。

カリンカ
剣闘士として生まれ、剣闘士仲間との殺し合いを続けさせられた少女。だがそんな状況でも母から受け継いだ「使命」といつでも笑っていてほしいという「願い」のため、悩みも苦しみも表には出さずただ笑い、戦い続けた。VSプラナ王はこの作品を通しても有数の良イベントだと思う。Ground Dasherを聞くと使命の一撃を思い出す。

サラーサ
魔法装置として物心付く前から両手両足を封じられ、魔法力を集めるための道具として生きてきた。精霊を通じて外の世界を知ったため、自分たちがいかに異常な環境にあるか気づきつつもどうしようもないと諦めてきた。そんな彼女がポリュカに出会い、自由を求めて戦うようになる。仲間になる前や、なったあとも他の仲間には皮肉屋だがポリュカにはデレデレなのが可愛いところ。

ダイアナ
気づけばこの世界に来ていたFBI捜査官。マフィアのボスである父を憎み、自身の手で殺すことを目的としているものの、同時にどうしようもなく愛している矛盾に苦しむ。冷静に合理的に振る舞おうとするものの、正義感や慈愛が強いあたりはポリュカと似ているか。目の見えない奴隷の子供との交流が前作King Exitと関係しているのを知ったときは思わず唸らされた。(酒を飲んでいるときはだらしない顔だが)仲間の中では一番の美人だと思う。

メビアス
強者との戦いを望む魔族最強剣士。もともと強者であれば高く評価するタイプなので魔族の中ではやや人間寄りという印象だったが人間との交流が増える後半になるほど更に人間寄りとなってく。案外天然な行動も多く、コミカルな点もよし。魔族形態のほうが好き。

ナージェジタ
帝国の皇位継承戦に破れ、女装して再出発した皇子。性格面ではバリバリに男子のため、男の娘というよりは女装男子という方が正しそう。普段は未来の皇帝であろうとした態度や自身を「余」と称するが、ときに「僕」となり弱々しい姿も見せる。そちらが素なのだろう。BADENDで唯一完全に心が折られているため個人的にはあんまり…。

リリィキラー
世界を恐怖に陥れた快楽殺人鬼。なぜか行く先々で出会い、捕まっているところを助けては協力してもらうことになる。初プレイ時は気づかなかったが「初めて魔族を許した人間」であり、また(一時的ではあるが)「初めて仲間になった人間」でもある。最初から最後までポリュカとリリィの物語だったんだなぁと感じられる点がよい。



ここからKing Exit含めネタバレを気にせず



初プレイ時は発狂事件のときの「ポリュカはアンジュを通して人間を信頼していた」もあり、ポリュカとアンジュが一番の絆と思っていたら、気づいたらリリィがその立場を奪っていた、という印象を受けたが、2週目をやると初めて出会った仲間はリリィで、初めて魔族を許したのもリリィで、最後までともにいるのもリリィで、とポリュカとリリィの関係性を描ききった作品だった。
前作がゲオルイースとグイーネの物語なのかゲオルイースとスティアラの物語なのかブレた印象があるため、この点は非常に良くなっている。

VSプラナ王、VSマキシマス王、VS賢者(というか過去編からの覚醒)、VSブレスカーズあたりが非常に好き。そしてKing Exitをプレイして理解してからのDemons Roots VS King Exitは最高だった。
正直最初にEDを見た時点では割りと不満もあった。戦いを終えたあとに仲間たちは疲弊したポリュカを見送ったら、それが最後の別れになった、ではあまりに救われない。(メタ的にはたしかにこれでお別れ、と言わんばかりの見送り方だったが)
確かにポリュカが望む種族存亡は叶ったが(本題とはズレるが種族存亡(続くor滅びる)ではなく種族存続(続く)が正しいと思う)、プレイヤーからすれば「魔族という種族」よりも「仲間」のほうが重要なため、そこがアッサリと関係を絶たれたのはなんともやりきれなかった。
ただDR VS KEを見るとその不満も解消された。たしかにポリュカが目覚めて仲間を再開することは叶わなかったが、それでも夢の中の戦いで再度仲間と出会えた。描かれたシーンだけでは再開らしい再開の会話はできなかったが、あのあとにまたポリュカを試すための夢ではなくただ再開を懐かしむための夢もあったのではないかと希望が持てたことで本作の評価が更に一段と上がった。
(なおKing Exitプレイ前だと最後の会話がなんのことかよくわからなかったのは残念だった。「王」はゲオルイースと同じ姿をしているが同一人物なのか? 時系列としてはいつごろなのか? などなど、先にKing Exitをプレイしていれば…と強く思わされた)

個人的にプレイ中一番震えたのはBADEND破壊イベント。BADENDで何度も通っては敗北した処刑ダンジョンに本編で入れたときに「あ、BADEND専用の特殊なダンジョンじゃなくてちゃんと本編と地続きで入れるダンジョンなんだ」とゾクゾクした。
試した人は殆ど居ないだろうがあのイベント中に奴隷収容所の看守たちを倒すと、倒された看守はBADENDにも出てこなくなるという細かい配慮も○。

あと秀逸だったのは「世界の半分をやろう」かな。
セリフがセリフのため当初はドラクエを連想したし、本家よりも説得力のある理由・背景だったのも良い。
だが考えてみるとドラクエオマージュに見せかけたランスオマージュだった。世界を救うために戦う相手に本人が犠牲になれば世界半分を望む世界として分割してやろうというのは魔王ガイとシルキィの関係そのもの。
まあ途中で無敵障壁を無敵結界って誤字するくらいランス好きな作者だからね。


といろいろ褒めてきたがいくつか悪い点も。
・カリンカ仲間に必要だった?
VSプラナ王のイベントは非常に熱いし、戦闘システム上では優秀なアタッカーのカリンカだが、シナリオ的に見ると仲間になった意味がなかった印象。そもそもカリンカの望みである「使命を果たす」自体がすでに達成されていて、本人の戦う動機がポリュカへの恩返しだし、さらに仲間になったあともカリンカがいないと成り立たないシーンが特にない。強いて言えばナージェの部下を探すところくらいか…あれもいなくてもなんとかなるイベントだが。アンジュは発狂事件で必須、サラーサは精霊で色々と調べて話を回すのに必要、ダイアナは皇帝の企みを暴くのに、メビアスはクダンとの戦い、リリィは言わずもがな。(ナージェも仲間になって以降はそこまで必要性はないが、仲間になるの自体が遅いためあまり気にならない)
カリンカは居なくても話の進行に影響がなく、かつ最序盤に仲間になるため空気の期間が長くその点が気になってしまったのが残念。どこか後半で見せ場が欲しかったところ。(まあアンジュも後半空気だったが)

・メビアスが戦闘システム上ほぼいらない
ポリュカはヒーラー+バッファー、アンジュはタンク、カリンカは自己バフ単体アタッカー、サラーサは全体アタッカー、ダイアナはデバフ、ナージェはヒーラー+バッファー、リリィはアタッカー+状態異常といろいろ役回りがあったがイマイチメビアスは役に立たなかった。
アタッカーといえばアタッカーなのだが、単体ではカリンカやリリィには及ばず、全体ではサラーサに及ばずという印象。悪い意味での魔法剣士らしい能力で使い所がなかった。
魔剣ゾディアを全体攻撃+自己回復、かつ騎士団長と合体して仲間をかばう能力を手に入れるなど他の仲間と被らない能力で立ち位置を確立してほしかった。
(序盤は闇属性全体攻撃で魔族最強剣士らしいアタッカー性能でおまけに自己回復、レベルがおいていかれる+ゾディアの火力不足が目立つ頃に離脱。騎士団長と合体してかばう能力を手に入れることでかばう+自己回復の耐久型タンクへ進化。イメージ的にも騎士団長との合体で手に入れる能力として似合う。雑魚戦ではアンジュより火力があってダメージも気にする必要がなく使いやすく、しかしボス戦では耐久型タンクは耐える前に即死するためアンジュの立ち位置を奪わない、といい落とし所で良さそう)

・弱点をつく、状態異常を狙うのが強力なのに戦闘中に装備を変更できない
とくに毒や出血といったDOTが強いにもかかわらず装備が変更できないので「毒を諦め正攻法で勝負する」か「毒が効くか分からないけど最弱クラスの毒武器を装備する」のような二択になるのが残念。
まあ力押しでも時間はかかるが十分勝てるバランスではあるが…

総評すると戦闘システムやゲームバランスという点では少々物足りないところはあったが、世界観・シナリオ・キャラクター・演出と言った面では最高クラスによくできていた。「王」との真の決着ではポリュカに次の戦いがありそうな言葉を残していたし、続編でもなんらかの出演を期待したいところ。