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fk14さんの冥契のルペルカリアの長文感想

ユーザー
fk14
ゲーム
冥契のルペルカリア
ブランド
ウグイスカグラ
得点
85
参照数
773

一言コメント

誤字脱字やバグもほぼ無く、純粋にゲームの質が上がったことは嬉しい。正直なところ演劇に関しては強く興味を持てなかったが、声優陣の熱演が演劇への少ない関心を持たせ続けてくれた。高品質なシナリオと魂の妹観は、大なり小なり印象に残ることになるだろう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【シナリオ】
正直、この解釈があっているかはわからない。
ただ私は、その魂を確かに感じたのでそれを記載させていただく。



この物語でライターのルクルさんが最も伝えたかったことは何だろうか。
言うまでもない、唯一無二の妹観だ。違うかもしれないが私はそう受け取った。
ウグイスカグラの作品をプレイしていればわかると思うが、ルクルさんの妹観は圧倒的であり、
そしてある意味狂気的でもある。

今まで特にその傾向が目立った作品は、過去作だと間違いなく紙の上の魔法使いだ。
月社妃という、実妹、というより妹キャラに殆ど興味のなかった私の価値観を唯一、
完膚なきまでにぶっ壊した最強の実妹ヒロインが存在する神ゲーである。
特に実妹キャラなんぞに欠片も興味を持たなかった私が唯一引き込まれたヒロインが妃だ。
本作はその際見せた妹観とは少し違う、ただ本質的には同じであろう
妹観というものを本作の世界観のすべてを使って表現した作品である。

普通の作品なら中心に据えらえるであろう劇団ランビリスという存在すら、その生贄と化している。
各キャラの背景、シナリオのギミックもいつも通り素晴らしいものがあるが、
それはすべて環と未来の舞台の為に存在する脇役である。
物語の中でも世界観としてそう触れられているが、それ以上にシナリオ上の存在としても純然たる事実。
そこまでして魂を込めた妹観を新たな表現で見せてもらえたことに、個人的には大変満足だ。

「妹に愛されたお兄ちゃんは、妹のことを好きになるに決まっている」

この文章が、あまりにもルクルさんらしくて心に強く残った。
紙の上の魔法使いを連想させる描写が出てきたのは単なるファンサービスというだけでなく、
本作では妹観を全力で出すから覚悟しろよ、という警告だったのかもしれない。

前作のパラレログラムでは狂気的な妹観が皆無に等しく物足りなさを覚えたこともあり、
本作のこの点は特筆すべき点であるのは明らかである。
逆に、この妹観に嫌悪感を覚えたのなら本作を心から楽しむのは難しいだろう。



さて、それはそれとして純粋に演劇という題材にあまり興味が持てなかったのは残念だった。
そういう意味ではパラレログラムのような創作スポーツの方が入り込めた。まぁここは私の場合は、である。
その中で繰り広げられる救いがありそうで大して救われないシナリオは相も変わらず高品質だ。

ただ、本作のプレイを終了してなおシナリオには疑問が何点か残る。
もし私が答えを見逃しているだけだとしたら申し訳ないが。



・琥珀の存在
たまたまその場にいた自分探し中の同年代女子というだけで巻き込まれた感が最も強い琥珀。
そもそもがシナリオ内でも散々な扱いだったこともあり、物語を動かす舞台装置の印象になってしまった。
虚構世界で未来から受け取った演劇の才能は、火事後の描写でも健在のような書き方をされている。
そもそもどうやって火事の現場から助かったのか。もし現実に演劇の才能を持ち帰ったのなら、
なぜ持ち帰っているのか。疑問は残ったままである。

・虚構世界が生まれた原因
未来が生み出した問ことはわかるのだが、どうしてそんな超常現象が起こったのか。
これの明確な説明があった記憶がない。紙の上の魔法使いでは世界設定を生かした
ギミックだったが、今回は正直なところ原理がよくわからない。
未来が死を選んだ劇場とは言え、急に未来が出てきた感がある。ここに関しては
私が見逃しているだけかもしれない。



他にも細かい疑問として、火事の前に既に死んでいたのに登場していた朧の存在。
また、同意の上で偽りの兄妹になったにも関わらず2章で奈々菜が監禁扱いになっていた点などがある。
このような感じで、少々もやもやしてしまう点が何個あったのは気になるところではあった。

ただそれを含めても、劇団ランビリスの話は読み手の心を掴むだけの内容なのは間違いない。
そして、妹観を盛大に前面に出しての主張、主題は間違いなく読み手の心に刻まれるだろう。
そういう意味では、作品として完成されていると言えるかもしれない。





【キャラ】
上でも述べたが、本作の主役は間違いなく未来、そして兄である環である。
まずそれ以外のキャラで好きなキャラを挙げるとすれば、来々悠苑コンビと理世、双葉だろうか。

ひん曲がりながらも芯はぶれず、最後までめぐりの為に動く人情味あふれる来々、
そんな来々に助けられた経緯も含め惹かれながらも隣で見守る悠苑。
髪留めの背景等も含め、本当に幸せになってほしかった二人だった。

理世は弱さの中の強さが輝いていた。√?後に舞台へ強制的に戻されたときはあまりにもかわいそうだったが。
あと純粋に可愛かったと思う。でもなんで授乳してくれなかったんだろう。
とても悲しかった。どう考えても授乳手コキしてくれるはずなのに。

双葉はとてもいい友人ポジションだった。出会った経緯で本人の葛藤もあっただろうが、
腐れ縁として未来の死後崩壊しかけていた環を助けた描写は心に来た。



その反面、琥珀と朧の扱いはいくらなんでもぞんざい過ぎて悲しかった。
朧はただ未来から恋愛感情を押し付けられた被害者の上に、大して触れられることもなく最後は自殺。
琥珀に至っては最後まで本人が愛される世界線すら存在せず、最後まで中身を見てもらえていなかった。
最後のシーンの登場では疑問の対象になる始末である。もっと彼女という人間を活躍させてほしかった。

また、この二人ほどではないが奈々菜も割と適当な扱いだった感は否めない。
√内容に至っては完全な逃避である。いや、どの√も誰かの逃避と言えるといえばそうなのだが。



さて、ここからは未来、そして妹観についての話。
紙の上の魔法使い、そして本作。どちらにも言えるのは、

「兄妹は愛し合うもの、されど兄妹で幸せになることはない」

ということである。
妹という存在は兄と結ばれてハッピーエンドになることは決してないが、
愛し合う姿は美しいという兄妹愛は唯一無二の説得力がある。
正直、妃も未来も幸せになってほしかったのは事実だ。今もそう思う。
ただ、この書き方だからこそより説得力があるのだろう。
私はそれを悲恋、悲哀を越えた「悲愛」と個人的に呼んでいる。

お互いがお互いを好きだったという純然たる事実の中、
どうしようもないすれ違いの果てに妹を追いこんでしまった、という展開は
本当に心を抉られるような気分になる。
Hシーンで心が辛くなるのは滅諦にないことだ。

「ーー俺は、妹を大女優にするために生まれてきたんだ」
「私の才能は、お兄ちゃんとともに生きるために与えられたものなんだ。」

この二つの文面を並べるとあまりにも決定的なすれ違いに胸を締め付けられる。
もしこのボタンを掛け違えていなければ、二人はともに不幸への道を歩んでいったのだろう。
そう、それこそ妃と瑠璃のように。
やはり二人には不幸という名の幸福をつかんでほしかった。
そうすれば、月社妃という最強の実妹キャラを超える可能性があったかもしれない。

勿論、本当の意味で幸せになるのが一番なのは間違いない。それは心から思う。





【イラスト、ボイス、音楽】
どうしても不安定に見えてしまうイラストではあるが、慣れてくると味がある。
これはこれでありなのでは?となったのは洗脳されているからだろうか。
ただ、どうしても制服の構造がよくわからない。胸を強調しすぎなのでは……?

また、個人的に好みなイケメンと言えるイケメンが居なかったのは少々残念。
イストリアの主人公である英士、パラレログラムの実質主人公の遼二みたいなイケメンは居なかった。



ボイスは一言感想にも書いたが、声優陣の熱演が光る。
演劇に登場するどの声優さんも、魂のこもった熱演でキャラと物語をこれ以上ない形で彩っていた。
演劇が持つであろう空気を一枚絵とボイスで表現するなら声の比率も相当なものになるだろうが、
何一つ不満を感じることなく、私を物語に入り込ませてくれた。御苑生メイさんはつよい。

演劇というものに興味がなくても、その熱演で物語への興味を持たせ続けるのはさすがプロである。
ここの点数だけつけるなら120点をつけるべきだ。



音楽は全体的に高品質だが、たまにはオーケストラ系以外の少々激しい曲が欲しいと思うときはあった。
これは私の音楽趣味が影響しているだけかもしれない。
OPは歌詞がずるい。アズライトの棺並のずるさである。





【システム】
バックログジャンプがついに導入された。素晴らしい。早速ひたすら活用させてもらった。
あえて言うなら、バックログジャンプを使用した際にログも当時のログに戻ってくれればなお嬉しかったが。

また、誤字脱字やバグもほぼ存在しない。唯一記憶にあるのは、終盤でバックログを見た際に
一つだけ氷狐の文字が何かほかの文字に被ってしまっていたことくらいだろうか。
着実に成長が見えて私はとても嬉しい。

更に演劇をはじめとした世界観の演出はとても良かった。
ここはパラレログラムからだいぶ改善されていると思う。ここも引き続きお願いしたいところだ。





【総評】
メーカーとして着実に成長している姿が見られた作品。
そして、やはり暗い展開だけではなく妹観があってこそのウグイスカグラ作品だということを再認識した。
作中で疑問を解決しきっていないのは何か意図があるのかはは分からないが……
そこも鮮明にしてほしかった、とは個人的に思う。

ともかく相変わらず人を選ぶ内容ではあるが、良作であることは間違いない。