メーカーとして挑戦した作品だと思わされた。らしいところもあれば、らしくないところもある。個人的には思うところもあったが楽しめた。ウグイスカグラの作品としては評価が分かれるかもしれない。遼二ほんとすき
【シナリオ】
一体どんなえぐいことをしてくるだろうと思って購入したが、予想に反して中身は直球のスポコンモノ。
各キャラの過去、心情を小出しにしつつも掘り下げ切る手法はいつもの安心感。
ルクルさんらしい言い回しも、プレイしているとやはりウグイスカグラの作品だという安心感。
本作では多様な人物が登場する。影が薄いキャラもいれば物語の根底に関わるキャラも
登場しているわけだが、全員の描写をしっかり用意し見せ場も作る辺りはさすがである。
試合中の描写は、試合とキャラの心情をバランスよく散りばめてより感情移入させる
素晴らしい塩梅で楽しむことができた。
そのような中で活躍するメインヒロイン達も、青春モノとしてより魅力的に映るよう
様々な見せ場も用意されていた。イストリアではその辺りが薄かった分、ここはうれしいところである。
ただし、中身は今までの作品とは打って変わりご都合全開で強豪を打ち破ってしまう。
友情努力勝利的な意味では間違っていないのだが、紆余曲折を用意しているとはいえ
ここまでとんとん拍子に勝ち進んでいく様子を見て違和感を覚えた方もいるのではないだろうか。
誰もが想像していたであろう、ルクルさんならどんな心が痛むほどの挫折を思い知らせる
展開を用意するか、という期待は結果という意味で最後まで応えられることがなかった。
更に、選択肢一つでダンス・マカブルの出場が決まってしまうなど、手を入れてほしかった
部分も見受けられる。
今までの作品では印象的な選択肢を用意してユーザーを苦しめていたが、本作ではそれは一切ない。
個人的に、一番残念なのはこの選択肢の点だった。
それこそ、選択肢次第で敗北するシナリオも欲しかった。
そして、この作風にするのなら個別にもっと力を入れてほしかった。
今までのどの作品と比べても個別ルートが短い分、本編の補足という立場で入れられた
ショートストーリーという認識をされてもおかしくないというレベル。
全ての個別ルートはまとまっているのだが、まとめすぎて寂しいことになっている。
あそこまで共通でキャラの魅力の引き出しを公開したのだから、そんなキャラの
幸せな姿をもっと見てみたいと思ってしまうのは不自然なことではないだろう。
【キャラ】
このゲームの主人公は宝生歩である。が、境遼二の方が主人公といえるのではないか
と言えるレベルで好きになってしまった。
当初は王様系イケメンだーなんて思いながらプレイしていたが、物語を進めているうちに
明らかになる内情や背景、そして人間味に魅せられてしまった。
ヒロインの中で特に目立ったのはやはり紅と差別化を図っていた柚だろうか。
紙の上の日向かなたを想像させるような底抜けに明るいキャラは、なんだかんだいいつつ
暗い展開を持ってこようとする物語の中で太陽のような役割を果たしていた。
まぁそんなことを言いつつも私がヒロインの中で好きなのはほたるなのだが。
ただ、ほたると聞くと妃の猫を思い出してしまう。
それでも物語に没頭しているとそんなことも気にならなくなってくるが。
個人的に一番残念だと感じた点がある。それは妹の玻璃だ。
まず前提として、私は妹キャラというものに大した魅力を感じない。
が、今までの作品でルクルさんは実妹キャラに関しては私ですら納得してしまう
圧倒的な理由と背景を提示してくれた。本作では、そこら辺の適当な実妹キャラとまではいわないが
いつもの説得力が皆無だった。その点は非常に残念だ。
【絵全般】
なぜだろうか、作品が新しくなるにつれて原画の安定感がなくなっている気がするのは。
立ち絵に関してはプレイしているうちに慣れてきてかわいく見えてくるのだが、
CGに関してはどうしても粗が気になってしまう。
エロシーンに至ってはさほど確認していないが、崩れていたように思える。
ちなみに遼二はイケメン、これがガチ。かっこよすぎでしょ
また、メーカーとして初挑戦とはいえスポーツものならばキャラが一戦交えるような
CGを用意してほしかった。敵対する二人のキャラの鬼気迫る図をCGとして取り入れていれば
更なる臨場感を演出できたのではないだろうかとつい思ってしまう。
特に今作は架空のスポーツを軸として置いている分、そういった構図のCGがあるだけで
更に理解度が深まっていたのではないだろうか。
ちなみに、背景は文句なし。独特の世界観をしっかり支えている。
【ボイス、音楽】
声優さんってすごいなぁ(KONAMI)
白熱した試合を彩る演技は、見る者が手に汗握るには十分すぎるほどの演技だ。
特に遼二は(ry
やはり見事なのはヒロイン勢。ヒロインとしての可愛さ、スポーツ選手としての一面も
しっかり彩っており、キャラの魅力をこれでもかと引き出している。
これに関しては誰が特によかったというより、全員文句なしと言いたい。
やはりエロゲにおいてボイスって大事なんだなぁって思いました(KONAMI)
音楽に関しては、物語の邪魔もせず気になる選曲もとくにはなかったように思う。
OPは聴いてないからわからない。
【システム】
さて、このメーカーにおいて最も気にするべきこの項目。
今回は割と改善が見られた、と言ってもやはり誤字は目立つが。
イストリアと比べるとだいぶ減ったのではないだろうか。
あと1周くらいすればきっと他のメーカーと比べられることのない最低限の
誤字脱字の範囲ないんで済むだろう。もうちょっとだけ頑張ってほしい。
そして相変わらず実装されないバックログジャンプ。欲しいんだけどなぁ……
個別ルートでEDがないのも全く問題なし、そもそもダンスマカブルエンドでは歌はないものの
スタッフロールを用意していた。個人的に全体を振り返るあの演出は好きだった。
ただ、過去作で用意されていた最後の一文である「〇〇ルート END」は欲しかった、
あれがあると、らしいなとついにやっとしてしまうのに。
そして、メーカーとして挑戦しているなと思わされていた立ち絵(試合中の飛び絵)の
アクティブさ。このメーカーがここまでできるのかと正直驚いてしまった。
演出を強みとしているメーカーと比べればまだまだ拙い部分は多いが、
努力と挑戦が見えて、ついついうれしくなってしまったのは私だけだろうか。
【総評】
間違いなく面白いのだが、ルクルさんの真の実力を引き出せていないように思える。
もしくは、この世界観ではこれが限界なのか。いずれにしても、前作までのような
作品を期待していたユーザーからすれば物足りなく映るだろう。
だが、メーカーが新しいことに挑戦しようというしている気概が伝わってきた作品だった。
ウグイスカグラの強みを忘れることなく、パラレログラムの反省と良かった点を生かして
更なる良作を次回生んでほしい。今から楽しみである。