個人的に残念に思う点もあったが、伏線の張り方、回収も見事で高品質。前作をプレイした上で本作を敬遠している方は、まず本作のライターを確認してみよう。
前作、というより処女作がとても残念なことになっていたので、発表当時は見向きもしなかった。
だがどうだろう、シナリオにうるさい知り合いが体験版をプレイしているではないか。
不思議に思い聞いてみたら、返ってきた回答は
「ライターを見ろ」
私は、その1分後予約を決断した。そして、その決断は正解だった。
【シナリオ】
何気ない伏線をひたすらちりばめ、それを終盤に怒涛の勢いで回収している。
そして、その回収の仕方も読み手に分かりやすく伝える丁寧さ。
更にCGや背景のすべてを伏線として活用する幅の広さ。
まさにしてやられた、素晴らしい。背景やCGに文字がどこにもないことに気づいた人はいたのだろうか。
他にも感心すべき点は多々あるが、それ以上に無文字ギミックの衝撃が凄かった。
ノベルゲーの性質をこれ以上ない形で生かしていた、といえるのではないだろうか。
ただ、どうしてもリンゴとかいう謎の存在はフォローされることなく終わってしまったのは残念。
そんな中で最後の黄金のリンゴに至っては、ただの力業にしか見えない。
そういう意味で、最後の最後で尻すぼみというか、少し冷めてしまったのはもったいない。
舞台設定も少々無理があるようにも感じるが、力業で何とか説得している印象。
また、サクヤの言い分も分かるのだが、それなら主人公がループをしていると分かった時点で
先輩として仕立て上げた上で相談を持ち掛ければもう少しループも少なくなったのでは。
……とは思ったが、1年以上を何度も繰り返していたらそりゃ正常な思考なんてものはできないか。
そして個人的に1つ、しょうがないとはいえ残念だと思ってしまった点。
アドベント、ヨハネの黙示録、キリスト生誕祭であるクリスマスのでの破壊。
結果的にアンチキリスト要素となる形を入れるのならば、是非とも入れてほしかった要素。
悪魔の数字、獣の数字、アンチキリストの数字と言える``666``を導入してほしかった。
文字や数字の存在しえない舞台で、一体どう効率よく導入しろと言われると困ってしまう分
あまり強くは言えないのだが、何かしらの形で入れてほしかったので残念である。
【キャラ】
メインヒロインの中でどうしても格差は生まれてしまっているが、全員にしっかり
シナリオにおいて重要な見せ場があり、絶望的なまでの格差は感じることはなかった。
好きなキャラはなんだかんだギドウ。
なかなか濃いキャラと思いつつも、シナリオによって彼のすべてを引き出していたこともあり
味のあるキャラとなっていた。
メインヒロインで言われると少々困るが、無難にユネということにしておく。
サクヤの真に迫った訴えも心に来たが。
あ、授乳手コキが来て歓喜していたら授乳要素ほぼ皆無だったのは絶対に許さない
【ボイス、BGM】
開始早々ユネの棒読みという伏線を突っ込んでいる本作だが、最初は何事かと思った。
そしてリリィ先生の耳を疑うような下手な演技も何事かと思った。
いや後者は本当に何事だよ、途中から慣れてきたけどさぁ……
それ以外は各キャラやシナリオの魅力を引き出していたと思う。
BGMはハイクオリティとは言い難い。全体的にはそこまで露骨に気になるものはなかったが。
ただ、疾走曲からプンプン漂う打ち込み臭は悲しい気持ちになってしまった。
せめてもう少しアンプに金をかけてくれ。
【絵全般】
ここは、うーん。シナリオ以上に突っ込みたいことがたくさんある。
まず服装。ヒロインたちは寮の中でパジャマ状態で主人公の部屋に入ったりうろついているが、
特にサクヤやコトハの服装はどうしてああなってしまったのか。
女子寮ならともかく、あんな服装で歩くのは常識的に考えておかしい気がするのは私だけだろうか。
また、女性キャラの立ち絵から鬼気迫る表情を読み取れなかった。
絶望した表情を浮かべても可笑しくない状態にもかかわらず、かわいさを優先したような
目のハイライト等がどうしても気になってしまった。
更に、CGの使い方がお世辞にも上手とは言えない。
差分も多種多様に用意して、物語を更に彩ることができれば、視覚的にもさらに楽しめたのでは。
なお個人的に、エロシーンは全く楽しめていない。全くエロさを感じない。
そっちの期待は一切持たないのが吉。
先にも述べたが、CGや背景、また服装に一切の文字を導入しない徹底は素晴らしい。
【システム】
バックログジャンプがある、最小化すると音声が消える、ボイスカットOff機能がある。
この時点でほぼ文句はない。OPやEDもワンクリックで飛ばせれば完ぺきだった。
誤字脱字も見受けられなかった、と思う。見逃しているだけかもしれない。
ただ気になったのは、初期状態でのサクヤのボイスが小さくて聞き取りづらい。
またできれば、マウスのどのボタンを押してもシステム画面に飛ばないようにできるようにしてほしかった。
【総評】
冬茜トムさんの力でシナリオは間違いなく良作と言える作品だが、それを支えるというより看板になるべき
イラストの方に少々難があるように感じた。これは私の好みの問題なのだろうか。
前作と天と地の差の評価になるであろう本作だが、きゃべつそふとが今後どういった方向性の
ゲームを作っていくかはさっぱりわからなくなってしまった。次回作は制作陣次第かな。