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fk14さんの水葬銀貨のイストリアの長文感想

ユーザー
fk14
ゲーム
水葬銀貨のイストリア
ブランド
ウグイスカグラ
得点
88
参照数
822

一言コメント

シナリオは前作と比べて個別√が弱く終盤のテンポが悪いが、完成度は高い。が、それを支える他の要素に欠陥が多すぎる。90点以上つける予定だったのだが、さすがに80点台に変更する羽目になってしまった。長文感想は、内容というよりシナリオ構成等についての感想が中心。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【シナリオ】
”結局全ては踊らされていただけ”というシナリオは、相当な伏線、そしてその回収が
必要となる。本作は、その点に関しては高水準である。
タイミングも読み手の心を抉る絶妙な状況で開示してくるので、登場人物の
行動がより印象的になるのも高評価のポイント。
何気ない日常シーンに伏線を散りばめている様は前作を髣髴とさせるが、
個人的には前作よりもよりレベルアップしているのではないかと思う。

また、今作でも印象的な選択肢が見受けられたのは嬉しい。
前作の妃√への選択肢といい、心を抉る選択肢を用意してくれる。
どちらかを見捨てる、なんと意地悪な選択肢だろうか。ついゲームを進める手を止めてしまった。

個人的にライターのルクルさんを好きな理由としては、伏線回収の気持ちよさもそうだが、
日常の掛け合い、つい先ほどまで鬱展開だったにも関わらずキャラゲーのような明るさに
切り替えることが出来る部分も大きい。今作もそれは健在である。



今作は運命予報の妥協を許さない姿勢と紙の上のギミックが合わさった作品と考えている。
ただし、それらが合わさった結果が必ずしもいい結果になるとは限らない。
それが、一言でも指摘した終盤、というよりTRUEのテンポの悪さである。

曖昧な部分や伏線を回想で補う形で回収している本作、その手法自体に問題はない。
だが、本作には回収するべき箇所があまりにも多すぎるため、結果的にテンポが悪くなり、
せっかくの種明かしの部分でだれてしまう致命的な印象を受けてしまった。
それでも、唯でさえ悲惨なシナリオが更に悲惨になる内容に衝撃を受けて、その印象も少し薄れたが。



ところで、この作品でメインヒロインとして扱いたいキャラは一体誰なのであろうか。
全てのルートを終えた私には、正直なことを言うと分からない。
普通に考えれば小夜に決まっているのだが、それならばTRUEのあの扱いは一体なんだったのだろう。
他のキャラもメインヒロインと呼ぶにはあまりにも薄い。つまり、メインが不在と私は考える。

運命予報と紙の上では、それぞれメインヒロインが決まっており、最後はそのヒロインを
中心としたシナリオの組まれ方をしていた。そして、今作では小夜……だと思っていたのだが。
ラストで平然と主人公の元を離れている。主人公はちゃっかり玖々里と一緒にいる。
最後の最後に、作品の方向性の理解に困ってしまった。
いや、成長物語である意味ハッピーエンドではあるのだろうが。

なお、個別√も弱い。特にゆるぎ√に至っては、もはや何がしたいのか分からない。
ほとんど本筋に関わることのないキャラを慰めることをメインに据える謎の展開。
さすがに理解できなかった。ここは大きなマイナス点。



【キャラ】
月社妃という、あまりにも圧倒的な存在感と魅力を備えたヒロインですら脇役だった前作。
今作はどちらかと言うと鬱要素が強めの作品と言うこともあって、ヒロイン個人の魅力は影を潜め、
ヒロインの背景にばかり焦点が当てられていた。
そのためか、好きなキャラは誰ですかといわれると困ってしまう。
あえて答えるなら灯だろうか。明るさ、正義感の中にある不安定さに魅力を感じた。


ちなみにTRUEで存在すらなかったことにされているキャラクターが約2名ほどいらっしゃる。
2名とも共通、個別√でモブキャラ扱いではなかったのだが、存在が消えたのかな?(すっとぼけ)



【絵全般】
雰囲気には合っているという点では問題ないのだが、前作よりも劣化していないだろうか……
わざと崩しているのか、それがデフォルトになっているのか気になるところではある。
主人公はイケメン。コレはガチ。
個人的に好きなCGは夕桜の殺意溢れる姿、そしてCAの仮面を外した主人公の悲しい笑顔。

ところで、TRUEで怒涛のCGラッシュがあるわけだが、もっと他の場面でCGを用意
するべきだったように思う。臨場感が薄れてしまった。複数絵師の弊害だろうか。



【ボイス、音楽】
全体文句のつけようが無い。ハイレベルなシナリオを支えるハイレベルな演技。
個人的に好きな秋野花さんと御苑生メイさんが存在感を遺憾なく発揮していたので、それはもう大満足である。
特に印象に残った箇所としては、やはり小夜の狂った場面。いや、本当に素晴らしい。

音楽もなかなか悪くない。BGMの設定ミスはなかったようで安心した。
夕桜が殺意むき出しの時にエロシーンのBGMが流れるバグ……想像したくもない。

普段エロゲボーカル曲はスルーする私だが、OPであるアズライトの棺はなかなか悪くなかった。
シナリオをクリアした後に聴くと、いい具合に余韻に浸ることが出来る。



【システム】
さて、今作で最も評価の低いポイントであろうシステム全般。
百歩譲ってシーンバック、クイックセーブが無い点はよしとしよう。
私自身、ボイスカットOff機能とバックログ機能があり、強制終了連発でもしない限り文句は言わない。
シーンバックはあったらなお嬉しいが。EDムービーも別にいらない。あれくらいあっさりでもいい。

それよりも。両手で数え切れないほど見かけた誤字、ボイスデータが一部適用されていない、立ち絵分身。
前作同様、デバックをしっかりしたのかと疑問を持たざるを得ないほどのミスが大いに目立った。
見逃したというにはあまりにも数が多い。前作でユーザーから指摘があっただろうに、それを生かさず
再度同じ過ちを犯してしまうのは、メーカーとして致命的ではないだろうか。
次回作こそは本当にその辺りだけでもしっかりとチェックをお願いしたい。



【総評】
シナリオ自体は一級品に近いのだが、それを支える周りの環境があまりにも悪い。
こんな状態が次回作以降も続くようなら、ルクルさんは他のメーカーに引き抜かれて終戦だろう。
次回作こそ、次回作こそはデバック、テストプレイもある程度やったんだなと思えるような
状態で作品を出して欲しい。買うから。