The Happy Prince and Other Tales
3作品くらいやったのでは?と思うくらいとにかく色々なものが詰め込まれているのに不思議と雑多に感じないまっすぐな物語だった。芸術、文学、音楽、哲学、神学などあっちこっちからのネタがコラージュされ、幸福とか美とかって何なの?という問いかけへの答えに着地していく感じでしょうか。IQ高め風というかかなり難解な言い回しや表現が多用されていて読み疲れしたけど、絵画と哲学・神学は大学時代にかじっていたため、当時の参考書を引っ張り出しながら進めていったのはある意味新鮮な感じだった。
話の進み方としては尻上がりにどんどん面白くなる印象。序盤はガチで面白くない。あと稟ルートも、彼女の背景設定ゆえに仕方がないとは思うけど個別ルートとしては他と比べて異常につまらない。この2つを乗り越えられるかが一番の壁かもしれない。そのあとは本当に先が気になりどんどん進められてしまうくらい面白いです。
個人的には『ZYPRESSEN』と『A Nice Derangement of Epitaphs』が特に印象的だった。
前者はテーマ含め今作の中だと少々特殊な章になるわけですが、レズビアンに関する描写が非常に真摯というか何か心に残るものがありましたね。たぶん変におふざけを入れたりしていないからなのかな。それに加えて赤ずきんの寓話が下敷きとして取り入れられていて、そういった点でも印象的な章。
『A Nice Derangement of Epitaphs』はやはり「櫻七相図」を前にした草薙親子のやり取りが涙腺にきました。確執というほどでは無いにしろ、長い間すれ違いのあった親子が最期を前に互いの共通項である絵画を通してその心を伝えるというシーンがとても良い。まさに芸術は時に言葉を超えるといった感じ。
主人公は作中でも言及されているように『幸福な王子』の物語性を投影されており、生身の人としてあるいは燕と死に別れた際に心が壊れなかった幸福な王子はどこに行き着くのかというとらえ方もできるのでしょうね。
そのため結末はハッピーエンドとはとても言えるものではないですが、納得というか作品のテーマには合致している終わり方だと思います。
主人公に関して欲を言えば声が欲しかったかな。
総じて非常にいい作品だったかと思います。さすが中央値90点は裏切らない。
わりときれいに終わったように感じるけど、続編はどうなるのか…
期待しながら『サクラノ刻』を待ちたいと思います。