「成長物語」という地味なテーマを,豊かな演出で活かしきった名作。
シナリオ:38+2
CG:18+2+2
音楽:18
システム:10+1
ムービー等その他:10+2+2
総計:94+11点
プレイ動機:アニメの生き生きした表現とシナリオノベルのインタラクティブ性の高いレベルでの調和に,体験版にて感銘を覚えたため.
シナリオ:
このシナリオはなかなか重い.人間の甘え,それに向けられる厳しさ,理想に対する挫折,一筋縄ではいかない友人関係,そうしたものを不完全ながら克服していこうとする姿勢を描く成長物語である.また,恋愛物語としてみた場合,初体験後を一気に大円団とする従来の純愛モノではあまり書かれない,その後の言いようのない寂しさ,幸せの崩壊に対する危惧といったものを描いているのが特徴である.(逆に,くっつくまでは,互いの甘えとか先生と教師の関係といったものを利用して,あっさりとくっついてしまう.この確固たる基盤もなくくっつく「あっさりさ」が,後の初体験後の不安となってつながるのであるが.)
奇跡どころか,誰かがシナリオ中に死ぬことさえもない地味な物語だが,この地味さを「普通の物語」という意味でとってはならない.シナリオ中に時折見られるこうした厳しさが受け入れられない人は,プレイしないほうが良いかもしれない.
総じてシナリオは丁寧.問題点は特にないと思う.最後の展開は,関係をより強固なものにするための一種の通過儀礼だろうか.和シナリオのエンディングテーマ名の"Be Catch!"(catchは形容詞.意味は「人をひきつける,興味をそそる」だから,「引き付ける存在でいて!」という意味だろうか)がなんとも感慨深い.
なお,"Be Catch!"を"Catch me"にすればよいではないか,との指摘があったが,これは口語で「そんなことするものか(しているところを見つけられるなら見つけてみろ)」という意味でもある.おそらく「口語との」混同を防ぐために,あえて形容詞を使ったと見られる.
構成は練られているものの,テキストの質はさほど高くないので満点にはしない。(無論Windよりはずっと良くなっているが。)
お気に入りシナリオ:ゆづき・和シナリオ
CG:
このゲーム一番の功労者.通常,シナリオを売りにするゲームにおいて,CGや音楽は補助的な役割を果たす存在でしかない.すなわち,シナリオに集中させたいと製作者側が意図している場合,CGや音楽で変に目立ったことをしてしまうと,かえって作品の雰囲気を落としかねない.(事実,この作品は原画で雰囲気を落としてしまっているし,14万本以上売り上げを伸ばしたといわれるFateも,場に合っていない音楽でいささか興を削いでしまっている.)が,このCG構成は,原画の失敗を取り消してしまいたくなるほど,シナリオを良く支え,かつ前面に出て主人公の心情を推測させる手助けをしている,きわめてよい働きをしているのだ.
まずは目パチ口パク.既にCanvas2などで取り入れられている手法だが,Canvas2は原画がデフォルメ化されてないために,口がちょびちょび動くだけの,あってもなくてもいいような働きしかしていないように思う.が,本作品では,KIMちーのアニメ向きの原画がかえって功を奏し,キャラをうまく生かしている.次に心情描写.新海アニメからのアイデアか,キャラをあえて大きく描かず,周りの風景の中のキャラクターといった遠景の構図を積極的に取り入れている.また,主人公が下を向けば下のズボンの絵を出したり,こぶしを握れば手を描く念の入れようにも注目.少々抽象的な描写では,和シナリオで線路の踏み切りまでもイベント画として描いている.こうした試みは,エロゲーでは斬新であり,新海アニメの質に肝心の内容が追いつけるよう,必死にがんばった結果ではなかろうか.ただ,minoriのように経営に余裕がある,というわけではない他社ではとても金銭的・時間的に真似の出来ない試みでもあろう.以上で主観点+2が2つ.
減点要因だが,KIMちーの原画はアニメのベタ塗りのほうが合っているので,彩色のぼかした塗り方はあまり合っているとはいえない.もう少しはっきりとした彩色にしても良いと思うが,個人的に致命的とは思えないので,減点は最小限.また,理由もなく女性キャラ(特に攻略対象)を童顔にした原画の描き方もいただけない.(ロリ系の好き嫌いの問題ではない.)が,目パチ口パクのアニメ風のこのゲームでは,目や口が大きいこの原画と合っていたりもするので,こちらも1点減点で済ます.ただ,ゆづきが一番のメインであるにもかかわらず,一番幼児体型のキャラである悠を前面に押し出した広告展開により,良くも悪くも原画の存在が際立ってしまったことは,売り上げを大きく落とす要因であっただろう.
作品のクオリティをあげたCG担当は,売り上げを落とす原因をも作り出してしまったことは,なんとも皮肉である.
CG面でのお気に入りキャラ:ゆづき
音楽・声:
新海アニメのBGMを長らく担当している天門氏が担当.主張しすぎない音楽というテーマは,既に前作Windでminoriが公言しているものだが,まさにそのテーマにふさわしい曲構成だろう.曲単体で聞くと,派手さはないのだが,シナリオをしっかり下支えしている.主観点でプラスはできないが,減点のしようもない.声もさしたる問題はなかった.
お気に入り音楽:clear morning, day by day.(いずれも日常曲.)
システム:
前回散々叩かれたシステムが相当改善されている.アニメ風のシナリオのシステムはいうに及ばず,黒板を模した設定画面など,細かい心配りは秀逸.キーボードショートカットも,当たり前のように導入しているし,バックログ機能ではキャラの立ち絵が変化し,声まで聞ける.また,「システム体験版」を出し,ユーザーにあらかじめデバッグをさせつつ,はるのあしおとの宣伝をしたのは,良い広告方法といえるだろう.あと,minoriのロゴを出さず,いきなりタイトル画面を出したのは,隠れた名判断.(メーカーのロゴを起動時に毎回出すのは邪魔でしかない.そのユーザー心理を巧みについているのだ.)主観点はその点について+1.
ムービー等その他:
シナリオ本編とムービーの雰囲気が大きく乖離した前作と異なり,今回は本編をきちんと踏まえた内容となっている.随所に本編の展開を示唆するシーンを入れたり,音楽(曲・歌詞)とアニメを連動させたりと,仕掛けが盛りだくさん.エロゲーでは文句なしの1番の出来だろうが,名作といわれるアニメのOPと比べても遜色のない出来になっているのでは.音楽との連動,本編の示唆のうまさに,それぞれ+2の主観点.
EDムービーは本編の後日談アニメ.EDをアニメで味わえるのは,アニメの得意なminoriならではだろう.こちらのアニメにはいくつか突っ込みどころがある.(たとえば和EDの,水たまりに桜の花びらがゆっくりと舞うシーン.前のシーンまでの勢いをそいでしまうのはどうか.)ただ,総じて良い出来なので細かい点は不問とする.キャラを担当する声優に歌わせたのは個人的には正解.歌が下手なのもご愛嬌だと思うが,どうか.
演出も非常に良い。CGとの見事なコラボレーションであった。
総評:
minoriが3作目にようやく出した名作.本編は,新海アニメと拮抗しうる非常に良い内容で,個人的にも数多くの主観点を惜しみなく与えられるほどの出来であった.が,テーマが地味でかつ人を選ぶことと原画の好き嫌いで,数多くの食わず嫌いを発生させたことも事実.(同時期に出てきて,意外な名作と評されるDear My Friendと比較してみればわかる.向こうは,萌えをある程度前面に押し出したシナリオやヒロインの生死にかかわる展開など,ユーザー迎合姿勢を幾分かとっているが,こちらはシナリオについてはオープニングの悠の猫耳メイド服くらいで,他には特に存在しない.)良くも悪くもこのメーカーのminority spiritsを色濃く出した作品とも言える.