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fenrisさんの奴隷 -オベイ-の長文感想

ユーザー
fenris
ゲーム
奴隷 -オベイ-
ブランド
GAIA
得点
66
参照数
7171

一言コメント

極めて前衛的な作品。それゆえ理解されなかった話題作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2005/03/19 「補足」と「謝辞」追加.

シナリオ:30/40 +1
CG:13/20 +1
BGM:20/20 +2
システム:0/10 -1
ゲーム性:3/10

計:66/100 (+3)

総合(シナリオおよびCG):

 「元公務員ながら、凶悪な犯罪者になった主人公。ある夏の日、避暑地の古い教会をみつけ、そこに入り込む。そこは実は教会ではなく、聖職者に捧げる女の性奴隷を育てる教育施設だった。そこで主人公は女奴隷達と出会う。
奴隷達は神の前で聖職者のいけにえにふさわしい女になると誓う。実は主人公はそこの教育係であった。「捧げものの日」まであと一週間。女達に性具の使い方を教えなければならない。」
(--- gegege.com official web)

2004年,このゲームは,内容紹介とゲーム内容が大きく乖離し,ゲームの各要素が一見すると著しく質の悪さを感じることでその名を轟かせていた。多くのユーザーがこの作品に対する好意的な解釈を試み,そして泣く泣く低評価をつけていった。

このゲームを制作したのはGAIA,極めて前衛的なために評価されないゲームを量産する事で知られている。1998/4/30にGAIAの前進HYPER SPACEが「壊館(かいかん)~よろこび~」を発売して以来,現在(2005年3月上旬)に至るまでのべ65作品以上を発売している。そして,その作品群の多くはいまだ低い評価に留まっている。

しかしながら,この作品に至るまでの歴史を考えると,「低評価」の一言で済ませることができるであろうか。歴史の長いGAIAがいまだその前衛性を理解されないという事実には憤りを覚える。そこで,この作品において評価すべき点をまとめること,それを本批評における企てとする。


まず性具を運ぶまでのテクストからざっと分析しよう。実家である古びた教会に戻った主人公,首里は,そこに無断で住み着いている下着姿の少女3人と出会った。そして,その少女達に対して

(ごくっ・・・)
(・・・この三人、俺の部屋の押し入れ、見てないだろうな? )
(・・・押し入れの道具・・・この子達に使ってみたり・・・するか?)

 (---首里,プロローグ部)

少なくともその3人の話には「捧げものの日」や「奴隷」といったキーワードが出てこない。(ちなみに今後も出てこない。)そこで,我々はゲーム紹介とはまったく異なる内容に訝しく思う。

ここに,前衛的試みが見られる。

ここまで我々はゲーム紹介のとおりに考え,主人公と共に行動してきた。通常,我々の感性からすれば,ゲーム紹介の文はあまりに非現実的あるいは妄想的と考えるだろう。しかしながら,我々は,教会にいた3人の少女に対し,この非現実的な紹介文を持ち上げて食い違いを指摘する,という妄想的行動を取る。

ここにおいて,我々は主人公首里と精神的同調を果たす。そう,ゲーム紹介文は主人公の妄想の流れなのである。その思考の流れに乗せられた我々は,主人公の「ごくっ・・・」以下の流れを容易に理解できるのだ。


次に登場するゲーム画面は単なる使い回しであろう。ただし,過度とも云えるマップのデフォルメには目を見張るものがある。使いまわしでここまでのクォリティを実現するのは至極驚愕であろう。

正しい性具を持ち運ぶとHシーンに突入する。ここのCGの色が変である,という指摘を受けるが,それはブランド名というバイアスによって色眼鏡をつけた我々の誤った思考である。何故ならば,このような明らかな間違いをプロがするはずは無い。すなわちこれは,意図的な演出なのである。

「奴隷(オベイ)」のテーマ性はBGMを聴くことで容易に理解できる。教会の中で行われる情事,すなわち背徳性だ。そのような背徳性という心象を抱いた主人公の見る情景はいかなるものであるか,その想像の結晶が紫を基調とした着色といえよう。もとぬき氏によれば,「今回は塗りに拘った」とサイトにあったそうである。その「こだわり」をこの背徳性豊かな情景にみる事が出来れば,我々は初めてこの作品を心の底から楽しむ事が出来る。

音声が喘ぎのみ,それも多重音声であるというのも,主人公の興奮状態が高まり,現実の喘ぎと同時に脳内における相手の喘ぎを楽しんでいる証左である。すべてを現実と思ってはならない。現実情景と心象情景は区別しなければならない。

最後にエピローグがあるが,その後の彼らの門出を祝うためのオマケでしかない。ここで表現されているのは飽くまで「背徳性」なのだ。

(加点要素,前衛性:シナリオ+1およびCG+2)

BGM:

「教会の中で行われる背徳的な情事」という一貫した雰囲気を与える理想的なBGM。是非他社も参考にしていただきたい。

(加点要素,雰囲気の統一:+2)

システム:

明らかに以前の作品「PIN-UP」の使いまわし。デフォルメにしては度を過ぎている。また,スキップが出来ないなど,使いにくいシステムである。この要素が唯一の難点か。
(減点要素,使いにくいインターフェイス:-1)

ゲーム性:

無いに等しいが,選択肢方式のAVGにせずに,わざわざプレイヤー移動型のゲームとして表現した点にのみおまけで3点。

補足:
ここのゲームの最近の作品はクソゲーの中でも一風変わってまして,クソゲーの中に我々
の想像では及びもつかない形の「意図」を仕込んでいます.その「意図」という糸を手繰
り寄せた後に何が出てくるのか,そんなことを考えながらレビューらしきものを作ってみ
ましたところ,真面目とも不真面目ともつかない文章になりました.

真面目に読むのか,笑いとして読むのかは読者にゆだねます.

謝辞:
本作品の焦点を明らかにした先行研究者に厚く御礼申し上げます.この先行研究がなけれ
ば,私もおそらくはクソゲーと評していたことでしょう.

本レビューで断り無しに挙げた「もとぬき」氏のレビューは先行研究の中でも群を抜いた
分析です.検索して探し,是非ご一読を.