主人公と沙耶との異常な愛を濃密かつ淡々と描いた名作.各要素が同じ方向を向き,物語を高めあい,全体として非常に完成度の高いものになっている.
シナリオ:37
CG:20
音楽:20
システム:8
ムービー・演出その他:10
総計:95
シナリオ:
このテキストにはしてやられた.精神に異常をきたした主人公と,人外の存在である沙耶との愛をぎっしり詰め込んだ内容だが,心情描写には溺れず,どこか淡々と記述している,そんなテキストである.それは恐怖をあおるべきシーンでさえも変わらない.個人的にこういう書き方は大好きだ.冒頭の「ノイズのようで,なんとなく内容がわかるテキスト」もうまい.
シナリオはさほど驚くべき内容ではない.SF小説では手塚治虫をはじめ,お目にかかることもあるだろう.が,この作品のテキストやその他の要素が読む者をありきたりだとは思わせない.最後まで目を離させないだけのエネルギーを感じるのだ.
以下,問題点について検討してみる.
ボリュームが短いという指摘はあるが,この濃度がうすまってしまうのなら,正直これ以上増やして欲しくは無い.(ただし,2番目の選択肢後の共通ルートを削った後に埋め合わせするためのボリュームは別.)
当初公式で発表されていた「ホラー」というジャンルを守ってないのはたしかにそのとおり(心情描写をあまりせず,テキストを淡々と記述しているのだから当然)なので1点減点.ただし,読んでいくうちにホラーなど忘れて二人の恋愛を注視することになるはずだ.
2番目の選択肢後の共通ルートが長いのは何とかして欲しかった.一方のルートでは沙耶と郁紀のみを,もう一方では女医と主人公の友人の2人のみを描くようにし,各ルートをきちんと分断して共通ルートを削り,必要であればもう少しここだけボリュームを増やすなりすればよいのではなかろうか.
最後にもう1つ.テキストが淡々としているのが災いし,意外に大きな衝撃を与えない,という面がある.ただ,テキスト以外の他の要素と程よく調和しているし,それにより作品全体としてメッセージを投げかけるかたちになっているように思うので,これについては減点しない.
CG:
素晴らしい出来だ.沙耶の小悪魔的かつ魅力的な性格を体現した原画,グロテスクな描写が映えるCGワークや背景など,高いレベルに仕上がっている.
音楽:
完璧だ.エレキを用いたグロテスクな音楽,沙耶を体現した音楽,メランコリーを決して失わない日常音楽,ノイズのように壊れた戦闘音楽,終盤のクライマックスの盛り上げ,以上何処にも隙が無く,なおかつ物語の暗さを壊さない一貫した雰囲気がある.曲単体でも高いレベルを保っている.
さらにボーカル曲以外のタイトルがすべてS.偏執的だ.
好きな音楽:Song of sayaとSilent Sorrow
前者は沙耶の小悪魔的な性質がよく現れている.大変素晴らしい.後者はクライマックスに相応しい曲.
システム:
バックログの使いにくさとタイトル画面の文字の明滅.この2つがマイナス.ここだけに言える事ではないが,タイトル画面での演出は,どうか使いやすさを失わない程度にやって欲しい.
ムービー・演出その他:
演出はかなり高いレベル.冒頭のノイズのような声,テキストと音声の乖離を利用した演出,などなど.
総合:
初めてのニトロ作品であったが,ここまで良い仕事をするとは思っていなかった.(単に勢いに任せて燃え作品を書いているメーカーだと思っていた.)日常生活の視点を変えるほどの重いテーマは決して描いていないし,テキストは淡々としているし,悪く言えば無難な面もあると思われる.ただ,自ら設定した枠内では,各スタッフが緊密に連携し,総合的に見ても一貫した物語のにおいを作り上げることに成功している.