気のせいか、近年めっきり少なくなった直球の泣きゲー。泣きたい人には是非プレイしていただきたいし、泣かせるゲームにあざとさを感じる人は間違いなくやらない方が無難だと思います。
シナリオ、キャラ共に野々崎姉妹が一歩も二歩も抜けているかなという感じ。
シナリオは明穂が一番、つばさが二番。キャラはつばさが一番、明穂が二番に好きです。
絵は、明穂の透ける描写が実に良かったなと思います。
音楽は最高レベル。「凪」が皆さんには人気のようですが、私は「これからずっと…」がイチオシです。いや、凪もいいんだけど、これからずっと…のボーカルバージョンを流すだけで、泣ける自分がいるもんで。
以下、シナリオについて書きます。語尾が妙に硬かったり、いきなり柔らかくなったりするのは気にしないで下さい。
勢いで書いてるうちにこうなってしまいましたが、中途半端に直すと逆に変だと思うので、このままで。
「章構成について」
もしらばは全6章で構成されている。
1章の“GHOST”では、主人公が明穂を見つけるまで。
2章の“鬼姫”では、明穂の死の原因が、千早というキャラクターに焦点を当てることで語られている。
3章の“つばさを広げて”は文字通り、つばさの秘めた想いと、姉妹の喧嘩。そして、珠美とつばさの友情が語られ、4章の“バースデイ”では、榎本親子の悲劇が、実と珠美の絆を中心に語られる。4.5章“とある週末”は、他章とは趣が異なり、エロシーン満載のエロ短編である。このような形の章を設けることの不自然さはかくせないものの、まぁエロいのでよし、といったところか。5章の“Dance With the lovers”は共通シナリオのラストとなっており、学園祭の準備を通して、ヒロイン達との絆を深め、最終的にどのヒロインと結ばれるかが決められる。そして、最終の6章のみが、ヒロインの個別ルートとなっている。
このような構造を持つことからもわかるように、もしらばの特徴として共通ルートが長いことがあげられる。
「泣かせることに特化した設定と、見事に表されたボタンの掛け違い」
もしらばは言うに及ばず、泣きゲーである。その徹底ぶりは、泣かせることに特化した設定に現れている。恋人が死亡し、悲嘆にくれる家族。そこに、恋人が幽霊になって戻ってくる。だが、それも一夏限り。再度の、そして永遠の別れに向けて、カウントダウンが始まっていくという、明穂の設定。
その妹であるつばさは、明穂の恋人である一樹への想いと、姉への想いとの板挟みにあってもがき苦しみ、明穂を殺してしまった疫病神の千早は、罪悪感に苛まれ、自らの身を呪う。
また、泣きゲーの武器でもある『ボタンの掛け違い』も見事に、そして執拗なまでに表現されている。物語の主題である、明穂だけでなく、第4話の榎本親子にまで繰り返されている。
「全ての章における共通の特徴:明穂の存在感と、一人芝居」
どのヒロインの話になっても、明穂は極めて強い存在感を放つ。自身のシナリオは言うまでもないが、珠美シナリオではあの世からのメールで珠美を救い、千早シナリオでは一樹の手を引き、彼の命を救った。つばさシナリオでは、キューピッドとして時に自爆しながらも、二人の恋を応援し見送った。個別ルートに入ると存在感を失ってしまう他ヒロインと、ますます際だつ明穂の存在。やはり、もしらばは明穂の物語なのかもしれない。
また、明穂シナリオを除いて、ヒロインが抱えるジレンマが物語の核に据えてある上、そのジレンマは言わば、「悩んでもしょうがないこと」で、更にその悩みの解消に主人公があまり絡んでこないものだから、意地悪な見方をするとヒロインの一人芝居の物語と捉えられなくもない。なお明穂シナリオでは、一人芝居をするのは一樹の側である。
「直球の泣きゲー」
もしらばを一言で、「直球の泣きゲー」と表すこともできるかもしれない。設定からして、泣かせようとして作られた物語なのは明白である。また、どのシナリオも先が読みやすく、落としどころが王道のため、先を読み進める楽しみは薄い。
「野々崎明穂:第6話『赤い糸』:どうしても断ち切れない未練」
病弱ヒロインシナリオによく見られる、『大切な人との別れ方』をテーマにしたシナリオ。特に、赤い糸の表現や、一樹に拒絶される明穂が取り乱すシーン、一樹に声をかけてもらえて涙を流すシーンは印象的だった。
共通ルートも含めて、明穂というのは実に素直で我が儘なキャラクターだと思う。その我が儘さをも、キャラの魅力として取り込んでしまえるのは、明穂という人格が透き通るように純粋で、綺麗だからこそ。そんな混じりけのない明穂の我が儘と純粋さが、明穂シナリオの涙に繋がるのではないだろうか?
確かに、一樹を見守り続けたいというのは明穂の我が儘である。だが、それは一樹や珠美が思っていた以上に、強固で純粋な意思だった。一樹からの愛という見返りを求めない、本当に純粋な『そばにいたい』という気持ち。それを単なる我が儘と見誤った結果、一樹は明穂を遠ざけてしまう。それでも、明穂は一樹の側にいた。そんな、綺麗な物語が展開される明穂シナリオが、個人的には一番気に入った。
一方で、エンディングの後日談は必要なかったかなと思う。赤い糸の描写で、可能性を予感させてくれるので、その予感を確定にまで高める必要は無かったと思うのだが。
「野々崎つばさ:第6話『As You Like』:姉と自分を比較する、つばさの一人芝居劇場」
不遇なつばさには申し訳ないが、つばさの一人芝居は実に微笑ましく、その分泣きの破壊力は減じてしまう結果となった。とはいえ、このテーマでじめじめ湿っぽくやればいいのかというとそういうわけでもないので、決して悪いシナリオではない。
ただ、どこまでいってもつばさの不戦勝。その不戦勝を、つばさの中でどう折り合いをつけるかというのが、この物語のテーマである。
このシナリオの珍しいところは、死者へ罪悪感を抱くのが主人公ではなく、ヒロインだったということ。この辺は、妹という設定を存分に活かした、申し分ないものになっていると思う。相手が親友止まりなら、ここまで悩むこともなかっただろうが、姉となると話は別だろう。姉妹だからこそ姉と自分を比べてしまう。まして、二人は恋敵同士であり、明穂は一樹の彼女なのだ。
つばさが明穂を目標にするのは当然と言えば当然で、明穂の後押しはむしろつばさの心を頑なにするだけ。そんな、がんじがらめの状況は、つばさやけっぱちの演技によって、打ち破られる。それはつばさが意図したものではなかったけれど、演技の終わりには彼女が最も望んでいた結果が待っていた……。つばさに演技をさせるというのはよく思いついたなと感心した。
個人的につばさはエロくてかわいくて健気なので、とても萌えます。
「湊川珠美:第6話『My Duty』:女の妄執を描いた、修羅場シナリオ」
正直に言うと、出来の悪いシナリオだった。共通シナリオの最後で、明穂に振られた一樹。だが、『My Duty』に入ると一転、珠美とのラブラブいちゃいちゃな描写が始まる。そして、それに嫉妬した明穂が怨霊化し、珠美は一樹から身を引いてしまう。そして、明穂を斬り殺した珠美は、一樹に合わせる顔が無いと思いこみ、一樹を拒絶する。それを救ったのは、明穂の出したあの世からのメールだった……。
結局、明穂の行動に物語が全て引っ張り回されている。悪い言い方をすれば、自作自演というか……。そんな、しょうもない物語でしたが、二つ気に入った部分もありました。
「女同士の意地のぶつかり合い」
珠美との交際にまず待ったをかけたのは、つばさでした。つばさVS珠美の修羅場が、実はこのシナリオ序盤の山場です。それだけに、このイベントがその後ほとんど活かされていないのは、勿体ないと感じました。つばさを怒らせると怖い。彼女の新たな一面を見た思いです。
そして、真打ちは明穂。蛇の怨霊となってまで一樹から離れない、このシナリオの明穂は、いわば明穂の裏の顔。ただこれも、確かに明穂のもう一つの顔だとは思うのですが、正直明穂を汚してしまったんじゃと思わなくもないです。
このように、珠美シナリオでは終始、女同士のぶつかり合いが描かれています。しかし、そのぶつかり合いに参加しなかった千早は一体何をしていたのでしょうか。がんばれ、千早。
「天国からのメール」
『My Duty』のもう一つの見せ場は、自棄に陥った珠美を救う、明穂からのメールだろう。だがここでも、このシナリオは弱点をさらけ出す。それは、結局明穂頼みの現実。一樹は明穂からのメールで珠美の危機に気づき、珠美は明穂からのメールで吹っ切れる。
しかし、感動に水を差すようだが、メールとウィンドウ部に誤字が多いのはいかがなものか。そしてもう一つ気になるのが、明穂を失った一樹と珠美である。極端から極端に走る珠美は、元より精神的な脆さを見せていたが、淫乱三昧になるエンディングからは、その病巣がますますあらわになっているように思えるのは、私だけだろうか? 彼女の見せる、限られた他者への病的な執着もまた、気にかかるところではある。
「千早:第6話『贖罪』:強引なシナリオ展開と、シーンの美しさ」
物語的に破綻しているにも関わらず、シーンの一つ一つをとってみると美しいという、何とも評価に困るシナリオ。
欠点はとにかく、千早の行動に無理がありすぎること。あの場面でSEXをするのは千早の性格上あり得ないのだが、それが無いと物語が機能しなくなってしまう。また、力の暴走により一樹が死にかけるシーンは、千早の自作自演であり、感動に欠ける。
一方で、エンディング、合歓の木での千早と一樹の逢瀬はとても心温まる、優れたシーンであった。あの世で明穂の姿が見られたのも嬉しかった。何より、明穂を殺した疫病神という設定のため、とかく憎まれがちな千早を、500年前の転生という設定を使うことで、憎まれ役にせずに描けたところが素晴らしかったと思う。
「生まれ変わる魂」
また、明穂シナリオのラスト、明穂の生まれ変わりに、このシナリオで説得力を持たせられたことも大きい。明穂が生まれ変わったように、一樹も生まれ変わっている。と、するなら当然実だってそうだろう。このシナリオで生まれ変わりを使ったことで、輪廻の世界観を確立できたことは大きい。
しかし、折角生まれ変わったというのに、千早のことを忘れた挙げ句、明穂と赤い糸で結ばれ、来世でも明穂と結ばれるというのは、正直ちょっと千早の立場が無い気がする。生まれ変わるまでのブランクが500年では長すぎたということだろうか?
「終わりに」
とりあえず、珠美をもう少しなんとか出来なかったかなぁ。あのシナリオのせいでなんとなく明穂が蛇みたいなイメージになっちゃって嫌なんですよね。めちゃくちゃ痛いことを敢えて言うと、「明穂を汚すな~」というのが素直な気持ち。
立ち位置的にも一人だけかなり離れているし、もう少し巧く絡ませられなかったかなというのが残念です。
後、委員長攻略させてよ委員長。……まぁシナリオのバランス的に、珠美ばりの捨てシナリオになりそうなので、無理に攻略させろとは言わないけど、エロシーンは二カ所くらい入れられたよね。折角ノーブラで頑張ってるのに、胸すら見えそうで見えないし、ケチケチすんなよー