青春群像劇かつ、難解な思考パズルゲーム。考えることが好きな人にしかお勧めはできない。クリアしても製作者が解答を示してくれないため、いろいろと頭を捻る羽目になる。だが、それがいい。
思考ゲームとしてだけでなく、青春モノとしても非常に楽しめました。
思考ゲームとしての側面は、もう皆様に語りつくされているでしょうし、そもそも私も100%理解したとはとても言えない状態なので、こちらからのアプローチは出来ません。
考えに考えに考えて、ようやく80%くらいわかったかな? という感じなので。
ただ、100パーわかっていないのに言うのもなんだけど、楽しかったものは楽しかったし、良かったものは良かったのです。
七人の醸し出す雰囲気がとても居心地良く、いつまでも浸っていたい。章二、あずさ、斎、沙也加、笛子、葉子、それに忍。誰もが魅力的に描かれていて、「仲間っていいな」と心から思える。外側から見たら、異様な集まり。誰が欠けても替わりがきかない。だからこそ、七人の絆は深く、だからこそ誰か一人が欠けるだけで、グループは計り知れないダメージを受ける。閉鎖的な七人の創った聖域は、しかし様々な外圧によって脅かされています。笛子の言葉にもあるように、永遠に「仲良しごっこ」は続けられない。暗い未来が見えている。だからこそ楽しい今にしがみつき、刹那的に生きる若者たち。
そんな、彼らの姿にとても共感できました。……共感できない方が、幸せだとは思うのですが。
このゲームで特に印象に残ったのは、『他者との距離感』の話。忍と沙也加の関係、忍と千鳥の関係に特に見るべきものがあると思います。類例に笛子と宗太。ある種理想的な関係に、あずさと章二。
忍は他者の心を半自動的に操作してしまう能力を持っています。これは大気中に含まれるミームを通じてとか、模倣子がどうとか、いろいろ解説されています。難しい話は置いておくとして、忍は常に他者の心への『侵略』を行っているということになります。
四人の少女に囲まれるハーレムエンドも、そう考えてしまうとどこか空しさが漂います。どこからが操作上書きされた好意で、どこまでが自然発生的な恋愛感情なのか。これがわからない。『Gift』なんかでも取り扱われたテーマですが、このゲームではそれを更に一歩進めています。
それは、他者の思考を操作する能力のない我々にも同じことが言えるということ。相手に、自分のことを理解してもらいたいという気持ちは、イコール、相手の嗜好・思想・価値観等を侵略することに繋がってしまう。意図的かどうかはともかくとして、時には上書きをしてしまう。それを平易な言葉にすれば、『影響を受けた』ということになるのかもしれない。
また、相手のことを知りたい、理解したいという気持ちは、イコール、相手に支配されたいということに繋がる。相手の世界観に、自分を浸してほしいということ。友達関係ならまだいい。『支配』には暗黙の了解があるし、『限度』を心得て接することができるから。
むしろ、恋人関係において『支配の力関係』が問題になってくる。支配の適用範囲が、明確でない故に、結局、相手を取り込む気持ちと気持ちがぶつかって、うまくいかない。なら、完全な支配が成り立ったらどうかと考えると……これはこれでどうなのかなと思う。それでは結局、自分がもう一人増えるだけ。1+1と、+を挟んで互いを認識しあっている間はいいけれども、2というように、『1つに』合わさってしまったら、それはもう付き合っている意味さえ消失する。
ギャルゲーでは巧く例があげられないので、別ジャンルの作品を出すが、『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画状態である。世界中の人々が溶け合えば、結局世界に一人ぼっちであることと同義であるということ。
それでも人は、誰かを求め、自分の色に染めることを止めない。個人と個人の間に発生する最適の距離。
これこそが、このゲームが問うた最大の難問なのだと感じた。