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feeさんのバタフライシーカーの長文感想

ユーザー
fee
ゲーム
バタフライシーカー
ブランド
シルキーズプラスA5和牛
得点
86
参照数
110

一言コメント

安心充実の海原望テキスト、大きなハズレなしのサスペンス・ミステリー。個人的にヒロインは天童さんとお姉ちゃん、シナリオは羽矢ルートが大好きです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『犯人当て・トリック当て』ではなく、『犯罪によって変わっていく人間関係』や、『犯罪被害者・加害者のその後の人生』などをメインにした作品。
大好きなアメリカ・ミステリのようで、とても面白かったです。

推理パートに関しては、難易度が相当低いので食い応えが足りないと感じる方も多そうですが、『名探偵がそういうんだから、そうなんですねー』的なアンフェアさはなく、誠実なつくりです。
物語の根本でもあるアカオリチョウという存在は、ミステリとしてちょっとどうかなとは思いましたが、最終章はサスペンスに変わるので、まぁいっか、と流せました。


☆氷室千歳ルート  評価はB+。

連続殺人事件の犯人像と、氷室先輩の人物像が非常に似ており、そこから氷室先輩の成長を描くルートです。
事件自体は序章も含めて5つの事件の中では最もあっさりでしたが、ヒロインの成長物語としては良質でした。
ただ、虐待の話は読んでいてちょっとキツかったです。
眼鏡は闇を抱えているのか……。

ちなみに、僕は発達障害の自閉スペクトラムでして、『他人の気持ちがわかりづらい』という特徴を持っています(他にもいろいろ悪い特徴がありますが)。

しかし、どう考えても犯人さんや、千歳さんは僕よりも遥かに症状が重いですね……。
千歳先輩、障碍者手帳取れると思いますよ(どうでもいいアドバイス)。



☆早乙女羽矢ルート。 評価はS。

上で書いたとおり、現代アメリカミステリの系譜を継ぐような、上質なクライムノベル。
トマス・クックの「緋色の記憶」や、ウィリアム・ケント・クルーガーの「ありふれた祈り」、
ジョン・ハートの「ラスト・チャイルド」あたりを思わせるルートで、(ミステリ部分はともかく)これらの名作と比較しても劣らない素晴らしいルートだったと思います。


被害者遺族である羽矢が、知らずに恋をした相手は、加害者遺族である圭介。
加害者本人ではないとわかっていながらも、簡単に割り切れるものではなく、二人の間に生まれてしまう溝が切ないです。
それでも、何とか心に折り合いをつけ、成長していく羽矢の姿にはグっときました。

犯人に関してはただのバカとしか思えませんが、推理難易度的にも簡単ながらもちょうど良かったです。
欲を言えば、事件の性質上、街の地図も欲しかったところですが。

あと、二人の殺人鬼については同情の余地が一切ないので、最後あっさりしすぎかなと思いました。
片割れの方は名前すら出なかったようなw


☆天童優衣ルート。 評価はA-。

天童さんはちょっと怖いけど、マジでかわいいです。
こういう娘、大好きなんですが、鋭すぎる彼女を持つと気苦労が耐えなそうでもありますね(実体験)。
天童さん自身も気疲れしそうで心配ですが、彼女はとても心が強いので、何とか大丈夫かなと安心しました。
外見はか弱そうだけど、内面は芯がしっかり通っているヒロインには昔から弱いです。

氷室・早乙女両ルートに比べ、天童さんは既に人間として成熟しているため、
成長物語としての側面は弱め。

3人娘はどの順番からプレイしても良いんですが、僕のプレイ順ではここでアカオリチョウというギミックが明かされます。
個人的にはちょっとガッカリしました。
『なぜこの街では猟奇殺人が多いのか』をきちんと説明しようとする誠実な態度は買いたいのですが、
『コナンの周囲ではよく人が死ぬんだよ!』的な【お約束】で乗り切っちゃった方が、かえって良かったんじゃないかな、というのがこのルートでの感想。
アカオリチョウは危惧していたとおり最終章でも活躍するので、そういうわけにもいかないんですが。

犯人の迫力ある顔芸が怖くて、インパクトが大きかったですw 


☆最終章 評価 A

ここまで、『ハンニバル・レクター』として存在感を放ってきた、ミステリアスな透子さん。
天童さんルートの時点で、彼女が、アカオリチョウのせいでこうなってしまったんだとしたら、
透子さんの悪魔的な魅力が消えちゃって残念だなぁと思って読んでいました。

結果、確かに悪魔的な魅力は消えちゃったんですが、薄幸美人お姉さんという新たな属性を獲得し、透子さん株は下がらなかったので、良かったなと。

最終ルートは敵が権力者だという事もあって、サスペンス色が強め。巨大権力に守られた殺人鬼に立ち向かう、という展開で、これはこれで面白かったです。
羽矢ルートと同じで、同情の余地が全くない犯人に対しては凄い淡泊というか、もう少し懲罰のカタルシスをくれよ、とは思いましたが。
作中で言われているのとは違って、天童さんの言葉内容はそれほどキツいとは感じなかったので、それも含めてw

ラストは、なんだかベルンハルト・シュリンクの「朗読者」を彷彿とさせて、あまり明るい未来が見えませんでしたが、これはこれで一つの純愛として綺麗だなと思いました。

30年とか40年の刑期を終えて、初老に差し掛かったお姉ちゃんをずっと待っていられるのかな、という不安は頭をよぎりますが(どれぐらいの刑期なのかは、作中で判決が出ていないので不明だけど正当防衛を除いても6人殺してるしなぁ)。



ここまで全く触れる機会がなかった梓先生も含めて、登場人物みな魅力的で(犯人の一部除く)、
ミステリを通して成長や恋を描く、上質のクライム・ノベルとしてとても楽しく読むことができました。
海原さんは3作品やりましたが、どれも80点超えなので追いかけていきたいです!