ErogameScape -エロゲー批評空間-

feeさんの向日葵の教会と長い夏休みの長文感想

ユーザー
fee
ゲーム
向日葵の教会と長い夏休み
ブランド
得点
87
参照数
142

一言コメント

暖かで少し不思議な田舎の教会と、そこで暮らす家族の物語。とにかく居心地が良い世界で、『夏目友人帳』とかが好きな人に刺さりそう。詠・雛桜がダントツに良いけど、嫌いなキャラは一人もいなかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

パソコンの不調もあって、断続的にプレイしてしまったのでまとまった感想になってないかもしれませんが、あしからず。

☆前置き

本作は、主人公たちが幼い時期を過ごした朧白村の教会が取り壊されるということで、
大学生になった主人公が帰省するところから始まります。
この陽介君、エロゲでは珍しいぐらいに好青年でイヤミなところがない上に、やればできる有能主人公で、好感が持てました。
幼馴染たちが過ごす暖かな、けれど二度と戻れないかけがえのない夏休み。
この、二度と戻れない特別な夏休み、という設定があるおかげで、多少中だるみしても仕方ないようなほのぼのシーンの一つひとつにまで、感情移入できてしまうんですよね。
昔のエロゲー、『僕と、僕らの夏』には届かないにしても、それに近い感慨を抱くことができました。




☆朧白・ヒポポ・金剛石  評価 C+

ハズレと言えば一番のハズレルート。
ただ、かなりの名作以外は一つぐらい期待外れルートはあるもので、そういう意味では許容範囲内。
叙述トリック(というのか?)はグレーゾーンぎりぎりだし、毒親だった瑠璃子さんの豹変ぶりが凄い。


☆鷺月ルカ  評価 B₋

幼馴染のエロ担当。最初から詠と雛にばかり期待していたので、
期待よりは面白かった、という位置づけです。

中盤までの、変質者の話(青バラの話)は悪くなかったと思います。
ただ、結ばれてからは、ひたすらHか、それを匂わせる話ばかりで、まぁエロゲではあるんだけど、それにしても食傷しました。

前述したように、この作品に惹かれるのは『この夏いっぱいで、思い出の教会がなくなってしまう』という部分。
このアクセントのおかげで、ちょっとした日常も輝くわけですが、そういう部分を活かしたシナリオ作りをしてくれないと、物足りなさが強くなってしまいます。
エロ連打→夏休みが終わった、ではさすがに余韻が出ませんよね。

ただ、ルカちゃんの海でのHシーンはかなりエロくて良かったです。
大人ルカちゃんは、陽介に全然アピールしませんが、もう諦めちゃったのかな?



☆夏咲詠  評価 A+

ルカシナリオにも言える事ですが、
朧白村の『不思議さ・(どことなく暖かな)怪奇現象』を描いたシナリオです。
すごく暖かくて、優しいお話。
優しいだけじゃなく、涙腺を刺激する(泣くほどではないけど)シーンもあり、詠の健気さやかわいらしさ、きちんと張り巡らされている伏線など、相当良質なシナリオでした。
詠・猫・主人公の3人の絆が本当に尊かったです。
詠のような心優しい猫に癒されたい、そんなことを思いながらプレイしました。
個人的には一番好きなルート。
雛ルートでも詠ちゃんはいい味を出していますが、十字架がなくなってしまったせいか、人間になれないのが残念ですね。


☆野々原雛桜 評価 A

前情報を全く仕入れていなかった身としては、完全なサプライズでした。
一方で、詠ルートが一番好きで、神父も引っ越してしまい、怪奇現象が詠に微かに残っているだけなので、
『グランドルート』というよりは『後日談』というような捉え方をしてしまいました。

本ルートで嬉しいのは雛ちゃん本人というよりも、大人になったみんなに出会えたことですね。
特に月子ちゃん、子供の頃は個人的にそうでもなかったんですが、大人月子ちゃんとはマジで結ばれたかったです。
雛は2人の子供ということで、お見合いOKして、月子ちゃんと結婚したいと思っちゃいました。
PSP版では学生版月子ちゃんルートがあるらしいですが、そうじゃないんですよ!
大人になった月子ちゃんが素敵なんです!

雛ちゃんはすくすく成長したようで何よりで、友だちキャラの市子ちゃんもいい味を出しています。
ただ、物語の筋だけを追うなら(僕はロリコンではないので)かわいいなと思いつつも、幼女時代の「ムフン!」な雛ちゃんは庇護者でしかありませんし、他にかわいいヒロインがたくさんいるのに、
雛ちゃんを10年間ひたすら育てる主人公は、『人間として、とても立派で、カッコ良い生き様』だなぁと思った反面、(プレイヤーの分身としては)「陽介くん、本当にそれでいいの?」と思っちゃいました。

幼女雛ちゃんにも性欲を感じられるロリコンプレイヤーさん(貶してないよ!!!)なら、そうは感じなかったと思うんですが、僕にとってはなんだか自分の楽しみを捨てて、ひたすら雛ちゃんに尽くした10年間だったように映ったからです。
それだけに(学生時代なら詠ちゃん、大人編なら本当は月子ちゃんと結ばれてほしかったけど)雛ちゃんと結ばれて、幸せになれて良かったなと心から思いました。


『サクラノ刻』(未プレイ)が発売されている現在言うのもなんですが、ケロQさんとしては
2年後の『サクラノ詩』でも大人になった主人公を描いていました。
やっぱりこういう仕掛け、僕は大好きで切なさに胸が痛くなってしまいます。
ルカとは疎遠になっていく、というのを暗示しているのも、『サクラノ詩』と同様ですね。

サクラノ詩ほど悲惨ではなさそうなのは、主人公のパーソナリティによるところも大きいでしょうし、
教会・陽介&雛桜の家庭・月子ちゃんの駄菓子屋・希望のバス停という、みんなをこの村に繋ぎ留めておけるだけの暖かさが、形としても残っているからだと思います。

梢さんにも幸せになってもらって、雛や陽介はもちろん、月子ちゃんあたりとも絡んでいく姿が見られたらなと思いました。

人間の詠ちゃんがいて、怪奇現象も多かったあの10年前の朧白の雰囲気を心に残しつつ、
未来の朧白も陽介と雛桜と月子ちゃんが継承していって、
いつでもみんなが帰ってこれる朧白村を残して行ってほしいです。

本当に心の暖まる良いゲームでした。